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数秒後、光が弱まったので目を開けると、いつの間にか、フレイヤが姿見を石畳の上に立てて微笑んでいる。
そこに映る私は、スウェットの上下を着ていたはずが、紺色の夜会ドレスを纏っていた。
さらに、ミディアムロングの髪を胸まで垂らしていたのだが、髪が勝手に後頭部でお団子に結ばれている。これは、シニヨンというものだろう。
平凡な私が、高貴なご令嬢に変身した瞬間だ。
「これ、ゲームに参加するための衣装なのですか?」
「もちのろんよ」
「こちらの世界でも、そんな言い方するんですね」
「あら、あなたの世界でも? 奇遇ね」
「それより、この格好で、町の中を走り回ってサバイバル、っていうゲームじゃないですよね?」
私は、腰から下へ手を伸ばし、ドレスの両端を両手の指でつまんで持ち上げ、石畳の上をハイヒールで足踏みする。これは、走り回るというジェスチャーのつもり。
「大丈夫。今から、ゲームの場所に案内するから。見てて」
そう言って、フレイヤは姿見を煙のように消してから、右手を上げて指を鳴らすと、辺りの景色がグニャリと歪み、また元に戻った。
何が起きたのかさっぱり見当が付かないが、見た感じ、周囲は何も変わっていないように見える。
「何も変わっていないじゃないですか?」
「ここが、ゲームの世界よ。さっきの町をコピーして作ったの」
一瞬で町をコピーして、ゲームの世界にしたらしい。あり得ない出来事だが、神様だから出来るのだろうか。
何だか、異世界転移、女神の登場、ゲームのテスターに参加、令嬢に変身という出来事が次から次へと続くので、目が回る。これから先、何が起こるのだろうか、不安でいっぱいだ。
でも、ここから逃げたい――今すぐ元の世界へ戻りたいかと言うと、親と言い争って、またイヤな思いをすることが明白なので、少しの間なら、異世界でゲームに付き合ってもいいかなと思う。