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私が片手で、たった一振りしただけなのに、こうも簡単に木剣が空を飛ぶとは、信じられなかった。
放物線を描いて芝生の上に落下した木剣が、小さく弾むのを見届けた後、正面に目をやると、左手で右手を握りしめるエドワードは、相当しびれるのか、顔が少し歪んでいる。
一方、私の方は、右手に少し衝撃が伝わっているが、しびれるほどではない。
興奮していると痛みを感じないことがあるが、そうではなさそうだ。
「驚きました。あの構えで、振り下ろした剣を払えるのですか?」
それは、私が聞きたい。
彼が少々手加減したとしても、木剣は男性の力で振り下ろされたのだから、私がかなうはずがないのだ。
しかし、現実は、見ての通り。
まるで、私は剣の達人、エドワードは初心者の体。
あり得ない。
異世界に来て、私は勇者の力を得たのだろうか?
これが、いわゆる、チートってやつ?
などと、首を傾げていると、
「もう一度、お相手願えますか?」
「……え、ええ」
苦笑する彼は、木剣を拾いに行くが、かがんだ姿がなんとも惨めで、かわいそうになる。
無理もない。
執事たちの見ている前で、赤っ恥をかいたようなものだから。
「では、もう一度」
「はい」
エドワードは、木剣を後ろに大きく振りかぶったまま、突進してきた。
なんだか、顔が怖い。よくも恥をかかせたなって、目が言っている。
でも――、
コーン!
今度は、木剣が回転しながら、左方向へ飛んでいく。
彼が、私から見て左から右に向かって、横薙ぎに木剣を振ってきたので、右から左へ片手で払っただけ。
なのに、おもちゃの剣のように、むなしく飛んでいく。
「もう一回」
「はい」
これが、三回続いた。




