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「真剣は使いません。木剣ですよ。ご安心ください」
横で走るエドワードが、身振りを交えて、手合わせの内容を伝えた。
やっと、意味がわかった。
剣術の試合みたいなものを、やろうと言いたいのだ。
でも、なぜに?
婚約の儀の前に、軽く汗をかこうとしているとか?
この異世界の常識が理解できていないので、返事に困っていると、私の躊躇は想定内だったのか、エドワードは「では、こうしましょう」と提案を始める。
「ハンディなしで、やりましょう」
逆だと思った。
男性が女性相手に剣を振るうというからには、力の差がありすぎるから、私にハンディをくれるものだと思っていた。
対等にやるという裏には、私はそれなりに剣を使えるという事実がありそうだ。
でも、これは、かなりやばい。
なぜなら、私は、刀を触ったこともないし、体育の授業で剣道なんか習ったことはないのだ。
やったことがあるのは、VRゲームで、モンスター相手に剣を振り回したことがあるだけ。
もちろん、コントローラーを握って腕を振り回していれば、画面内で主人公が私の動きに合わせて剣を振ってくれるというやり方。つまり、振り回しているのは、バーチャル内での話。
こんな素人が、婚約者候補相手に手合わせをしようというのである。
しかも、ハンディなしで。
むしろ、彼は剣を持たないというハンディをつけてほしいくらい。それでも、私は勝てる気がしないが。
馬車が玄関の扉の前で止まると、ヘラルドに促された私は、馬車から降りた。
そこへ、エドワードが近づいてきて、右手を胸に当ててお辞儀をする。
「ぜひ、学園での勇姿を、ここで再現して見せてください」




