2-4
馬車は左側通行なので、到着した自分の屋敷を見るには、左側を向くことになる。右の窓から見えているのは、お向かいさんのお屋敷だ。
それで、どんな屋敷なのだろうと、顔を左に向けると、カレンもヘラルドもニーナも一斉に顔を上げて私を見るので、さすがにギョッとした。
「な、何?」
「クララお嬢様。エドワード様には、きちんとお詫びを申し上げていただきたく――」
「あ、すっぽかしたこと?」
「すっぽ? かした? と申しますと?」
「何でもない。謝れば、いいのね?」
「――――」
ヘラルドが私の言葉に目を丸くするので、言い直す。
「何でもありませんわ。謝れば、いいのかしら?」
庶民が貴族風に話さないといけないので、言葉の変換に頭を使うし、慣れないので舌をかみそう。
両親にも謝らないといけないんだろうなぁと思っていると、門が開くような重い音がして、馬車が動き出し、ゆっくりと左折した。
ちらっと、門柱にあるレリーフが見えたが、剣を交差したものだった。
なんだか、格好いい。
私の名前は、クララ・フォン・ソードだったりして。適当だけど。
窓から見える緑の絨毯のような芝生、百花繚乱の花壇。噴水まである。
猫耳の庭師が五人もいて、直立不動になり、こちらに向かってお辞儀をしている。
イエローストーンで出来た、横長の二階建ての屋敷に馬車が近づいて行くと、白い服を着た背の高い男性が走ってくるのが視界に入った。
「クララさまー!」
若い男の声が、風に乗って馬車に届く。
ああ、おそらく、あの人がエドワードなにがしなんだろうなぁと思っていると、
「エドワード様は、待ちきれなかったようでございます」
そんなことは言わなくてもわかる的な補足をするヘラルドを無視し、右手を大きく降って駆け寄る彼を見ていると、二十代の超イケメン。
思わず、ときめいてしまった。
彼が、馬車に近づき、馬車と併走する。
「クララ様。早速ですが――」
「婚約の儀のことですね? 申し訳――」
窓越しに謝ろうとすると、エドワードが、右手を顔の前で左右に振って、私の言葉を遮る。
「その前に、手合わせをお願いいたします」
「はいぃ?」
いきなり、想定外の言葉をかけられた。
手合わせって何?
私の不安をよそに、彼はニコニコと笑った。




