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九十九とアハト09


 次の日。


 四月朔日に叩き起こされて、百目鬼に飾られて、僕はアパートを飛びだした。


 今日は待ち合わせ場所に三十分前に着いた。


 が、既にアハト先輩がいて、「待った?」、「待ってない」のベタコンボを昨日と同じく交わす僕らだった。


 先輩が既にデートの待ち合わせ場所にいるってことは期待しているものと思っていいのだろうか?


 とまれカルテジアンシネマという映画館に行って、テレビのCMでもやっている最近話題のロマンス映画を見た。


 結論として映画はそこそこだった。


 良くもなく……かといって悪くもなく。


 まぁハッピーエンドなのだから喜んでおくべきところだった。


 そんな映画の感想を言い合いながら僕とアハト先輩は大通りに面したハンバーガーチェーン店……スパイクナルドに入った。


 僕はチーズバーガーのセットを……アハト先輩はテリヤキバーガーのセットを……それぞれ頼んで席につく。


「意外でしたね」


 僕はそう言う。


「何がでしょう?」


 とアハト先輩は首を傾げる。


 その動きに合わせて長いブロンドがスラリと揺れる。


 憂いを秘めた青い瞳はキョトンとしていた。


「先輩がこんなジャンクフードを食べることが……です」


「私とてハンバーガーくらい食べますよ?」


「そうですね。変なことを聞きました」


 僕は謝罪する。


「もしかして……」


 と、これはアハト先輩。


「九十九は私を高尚な存在だとでも認識しているのではありませんか?」


「違うんですか?」


 僕はそう問うた。


 だって、


「先輩はとても美人で、完璧なブロンドに、宝石のような瞳を持ち、誰よりも白い肌を持っているじゃありませんか」


 それから一息ついて、


「これほどの美人を僕は見たことがありません」


 と結論付ける。


「……面と向かって言われると照れますね」


 先輩は赤面した。


 それすらも可愛らしい。


 やはり先輩はどこまで綺麗だ。


 僕の心臓はドキドキしっぱなしだ


 ああ……やっぱり僕は先輩にいかれてる……。


「先輩……」


「なんです?」


「好きです」


「知ってます」


「先輩が予想している以上に僕は先輩が好きです」


「九十九が予想している以上に私も九十九が好きですよ」


「面と向かって言われると照れますね」


「まったくです」


 そんなわけで僕らはこの話題を打ち切った。


 そしてハンバーガーを咀嚼、嚥下する。


「…………」


「…………」


 一定の空白の後、


「九十九……」


 とアハト先輩が僕の名を呼ぶ。


「何でしょう?」


 僕はジュースを飲みながら応じる。


「九十九は何故私を好きになったのです?」


「それ、昨日も話題になりましたよね。結論から言って一目惚れです」


「一目惚れくらいでそんなにも私を愛せるものですか?」


「そんなこと言われましても。僕自身この慕情を持て余しているくらいですけど」


「そう……ですか……」


 感慨深げにそう言うアハト先輩。


 そしてアハト先輩はさらに問いかけてきた。


「九十九は自分が異端だと認識したことはありますか?」


「ないですね」


 明快に答えた。


「僕は至って平凡な人間です。顔がいいわけじゃない。頭も良くはない。運動もからっきし。将来性ゼロです。至って平凡に生きてきた男ですから」


「そう……ですか……」


 憂いの碧眼を僕に向けてアハト先輩。


「先輩は自分が異端だと……?」


「それはそうでしょう。金髪に碧眼……白い肌。日本に生まれ日本に育ったうえで私の外見は異端以外の何者でもありません」


「…………」


「子供の頃は周りに迫害されて育って……故に私は他人を嫌いになりました。そして思春期を転機に今度は男どもが私に言い寄ってくるようになって……故に私は人間嫌いになりました。子供の頃は私を迫害し、恋する年頃になれば手の平をかえして馴れ馴れしくする。そんな人間の構造に疑問すら覚えました」


 ……それはそれは。


 ありそうな話だ。


「でも僕もそんな手の平をかえして先輩に言い寄る人間の一人ですよ?」


「九十九は別です。真剣に私を愛してくれている。そうじゃなければ私は告白を受けてはいませんよ」


「ちょっと疑問だったんですけど僕は僕が先輩に告白した日が初めて先輩を見た日だと思っているんですけど、それ以前に僕と先輩は会っているんでしょうか?」


「そうでもありそうでもなし……と言ったところでしょうか」


 異なことを言うアハト先輩。


 やはり先輩は碧眼に憂いをたたえていて寂しそうに笑うのである。


「いったいどこで……?」


 と問う僕をおきざりにして先輩は、


「九十九……」


 と僕を呼ぶのだった。


「なんでしょう?」


「私とのデートは良い思い出になりましたか?」


「それはもちろん。光栄なことです」


「……良かった」


 そうアハト先輩が言った次の瞬間……大通りを走っていた大型トラックがアハト先輩めがけて突っ込んできた。


 スパイクナルドの壁を粉砕して大質量がアハト先輩を蹂躙する。


「……へ?」


 僕はポカンと呆けた。


 衝撃。


 悲鳴。


 血しぶき。


 血だまり。


 死。


 アハト先輩は……原形をとどめず死んでいた。


 …………。


 大型トラックが先ほどまでアハト先輩の座っていた席に侵入していた。


 そして唖然とする僕の視界の中で、アハト先輩はトラックに轢かれて死んでいた。


 先にも言ったように原形を留めていない。


 金髪が無ければそれがアハト先輩だとは思えなかっただろう。


 それほどグチャグチャに、子供のヒステリーによって壊された人形のように、アハト先輩は人間ではなくなっていた。


 死だ。


 死がそこにあった。


 血だまりの中でアハト先輩だったものが真っ赤に飛び散っている。


 僕の席の対面には大型トラック。


 死体とトラック……それしか僕の目には映らなかった。


 えーと……え……?


 どういうこと?


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