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九十九とアハト08


「ただいま~」


 僕は僕の城の鍵を開けて玄関に入った。


「……あ、おかえり九十九ちゃん」


 僕の城のキッチンで料理をしている四月朔日が迎えてくれた。


「いい匂いだね。カレー?」


「……うん。……九十九ちゃんは……デートで夕餉は食べてきた?」


「ううん。まだ。もしかして僕の分無い?」


「……そんなことないよ。……ちゃんと作ってあるから安心して」


「よく出来た奴だね、四月朔日は」


 そう言ってポンと四月朔日の頭に手を置くと、それだけのことが幸福であるかのように四月朔日は、


「……えへへぇ」


 と笑うのだった。


「……じゃあリビングで待ってて。御飯が出来たら呼ぶから」


「あいあい」


 答えて僕はキッチンとダイニングを通り抜けてリビングに顔を出す。


 そこには、


「よう九十九。デートはどうだった?」


 テレビから視線を外して僕を見る百目鬼がソファに座っていた。


「楽しめたよ。百目鬼のおかげ」


「そ。ならいいが」


 淡泊に言ってテレビに集中する百目鬼だった。


 僕は百目鬼に借りた服を脱いで寝巻に着替える。


「百目鬼。借りた服はどうすればいい?」


「四月朔日が洗濯してくれるだろ」


 それもそうだ。


「それから明日もデートなんだけど服貸してくれない?」


「そりゃ構わんが……明日もデート?」


「明日もデート」


「ん。委細承知」


 そして寝間着姿になった僕はリビングで百目鬼と一緒にテレビを見ることにした。


 夕方のニュースだ。


 誰それが結婚したとか。


 何処そこで事件が起きたとか。


 そんなとりとめのない事をニュースはさも大事な案件のように語るのだ。


 前々から思っていたけどニュースに関わっている人は暇なのだろうか?


 どこぞのバンドがランキング一位をとったり……どこぞの政治家が賄賂を受け取ったり……。


 そしてそんな情報を共有してないとコミュニティから外されるのだ。


 これほど理不尽なことはないと思う。


 無論……無益だから言葉にはしないけど。


 三十分ほどニュースを見ただろうか。


「……九十九ちゃん……百目鬼ちゃん……御飯だよ~」


 そんな可愛らしい声がダイニングから聞こえてきた。


 当然四月朔日のものだ。


「あーい」


 と百目鬼が返事をして立ち上がる。


 僕もそんな百目鬼に追従する。


 ダイニングで、それぞれ決まりきっている席に各々がついて、


「「「いただきます」」」


 合掌した。


 今日はカレーとコーンスープだった。


 僕らの中で家事担当の四月朔日なのだから、おそらくはコーンスープも手作りなのだろうことは明白である。


「……九十九ちゃん……どう……かな?」


「ん? カレーのこと?」


「……うん。……カレーのこと」


「美味しいよ」


 率直にそう言うと、四月朔日の顔がパッと華やいだ。


 が、それも束の間、一転して憂いの表情になる四月朔日。


「……ねえ、九十九ちゃん……」


「なにさ」


「……デ……デート……どうだった?」


「面白かったよ? まぁ水族館に行っただけなんだけどさ……。私服のアハト先輩が可愛いのなんのって」


「……そっか。……よかったね」


「うん。ありがと四月朔日」


「…………」


 沈黙する四月朔日。


「明日もデートするんだ。カルテジアンシネマに行ってロマンス映画見るつもり」


「……そっか」


 四月朔日は覇気なく応じた。


「どしたの四月朔日? 風邪?」


「……違うよ……なんでもない」


「ふーん。ならいいけどね。それにしても四月朔日のご飯は美味しいね。これなら誰のお嫁さんにでもなれそう」


 からかうように僕がそう言うと、


「……そう……かな?」


 四月朔日は熱っぽい目でそう問うてくる。


「冗談だってば冗談。何本気にしてるのさ。あ、でも主夫ってのもありだね」


「それはヒモだろ」


 すかさずツッコミを入れる百目鬼。


「でも四月朔日なら女の子なんかより取り見取りで選べるでしょ? ならヒモでも問題ないと思うけど。女の子が稼げばいいんだからさ。四月朔日はどう思う?」


「……ぼくは……恋愛は……わかんない」


「そうなの? 好きな人いないの?」


「……いる……よ……?」


「ならさっさと告白しちゃいなよ。四月朔日の申し出なら袖にする奴いないって」


「……でも叶わない恋もあるから」


「諦めてるの?」


「……うん……まぁ」


「そっかぁ」


 勿体ないことである。


 ま、百目鬼と同じく勝ち組フェイスを持った四月朔日ならその内良い相手が見つかることだろう。


 そこから僕と四月朔日と百目鬼はとりとめのない話をしながら夕食に戻るのだった。


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