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九十九とアハト03


「一目惚れだな」


 昼休み。


 トレーズ学園の僕らの教室の四月朔日の席に集まった悪友……つまり僕と四月朔日と百目鬼は四月朔日の作った弁当を食べながら雑談をしていた。


 その拍子に朝のアハト先輩とのやりとりが口の端に上り、そして二、三、言葉を交わした後、百目鬼がそう断定した。


「一目惚れ……」


 僕はポケッとそう繰り返した。


「……九十九ちゃんはアハト先輩のことが好きなの?」


 僕の顔を窺うようにしてそう問うてきたのは四月朔日だ。


「ん~。僕がアハト先輩に一目惚れ……」


 僕は箸を休めて腕を組む。


 一目惚れ……。


 一目惚れねぇ……。


「ううむ……」


 唸る僕。


 百目鬼が情報端末を弄りながら、


「じゃなきゃ名前も知らない人間を呼び止めて屋上に呼ぶかよ」


 正論を口にした。


「……それは……そうだけど」


 納得できかねるように僕はそれだけを言った。


「……九十九ちゃん」


「なに?」


「……九十九ちゃんはああいう人が好みなの?」


「女の子の好みなんて考えたこともなかったよ」


「……そうなの?」


「だって僕……四月朔日や百目鬼とちがって女子にモテないし」


「そりゃそうだ」


 ケラケラと笑う百目鬼。


「……そうかなぁ……? ……九十九ちゃん格好いいと思うけどなぁ」


 首を傾げて四月朔日。


「事実だけを並べるなら僕は四月朔日や百目鬼みたいに女子に告白されたことなんて一回もないよ?」


「冴えないからなぁ九十九は」


 やっぱり百目鬼はケラケラと笑う。


「……九十九ちゃんは格好いいよ?」


 フォローしてくれる四月朔日。


「四月朔日は上の学年のお姉様にモテて、百目鬼は同級生にモテるもんなぁ……。どうやったらそんなに告白されるのさ?」


「髪染めて悪ぶってりゃ女子なんて向こうから寄って来るぜ?」


「……ぼくは何でモテるのか自分でもわかんない」


 さいですか。


「百目鬼……今何人と付き合ってるの?」


「人をプレイボーイみたいに言うな。今は二人だ」


 二股じゃないか。


「……百目鬼ちゃんも格好いいもんね」


 四月朔日がそう言う。


「お? 四月朔日も俺様の良さに気付いたか? ん~……お前が女なら俺としても付き合ってやってもいいんだが……」


「……謹んでごめんなさい」


 あっさりと拒絶する四月朔日だった。


「でも二股で女の子に嫌われないの?」


 問う僕に、


「う~ん? ま、俺がそういう奴だってことは広まってるからなぁ。それを許容できる人間としか付き合ってねえよ」


「駄目だ。僕にはわからない世界だ」


「男が本当に好きなものは二つ。危険と遊びである。そしてまた男は女を愛するがそれは遊びのなかで最も危険なものであるからだ」


「何さ。その言葉……」


「ニーチェの格言だ。的を射ていると思うがな」


「恋愛は火遊びってこと?」


「それも極上のな」


 百目鬼はそう言って、それから、


「お……日曜予定入った」


 情報端末を弄りながら言った。


「またデート?」


「あったぼうよ。しかも二股デート」


 …………。


「いや……まぁ……百目鬼がそれでいいならいいんだけどね?」


 ジェラシーを抑えて僕。


「……百目鬼ちゃん」


「お、なんだ?」


「……恋はもっと誠実であるべきだと……ぼくは思うな」


 責めるような視線で四月朔日。


「それで誠実の結果、四月朔日はお姉様がたをふり続けているわけか」


「……それは……!」


「そうだもんな。四月朔日は……」


「……それ以上言っちゃ駄目!」


 珍しく慌てて百目鬼の口を塞ぐ四月朔日。


 モゴモゴと百目鬼が呻く。


 四月朔日はしかと百目鬼の口を塞いで喋らせない。


 そんな四月朔日が珍しくて僕は問うた。


「なに? 四月朔日って誰か好きな人がいるの?」


「……いない……よ?」


「なぜに疑問形?」


「……いないの」


「告白されたお姉様がたの中に良い人いなかった?」


「……心揺れる人は……いたよ?」


「いたんだ」


「うん。まぁ……」


 モジモジとしながら四月朔日は言葉を続ける。


「……それはぼくだって綺麗な人に迫られたら心揺れるよ……? でもぼくは……そういうの……わかんないから……」


「そかそか。百目鬼に続いて四月朔日まで恋人が出来たら僕は自殺するしかないしね。いいこといいこと」


「……あう」


 と顔を真っ赤にして言葉を失う四月朔日。


「しかしだ九十九……」


 と百目鬼が問うてくる。


「お前がアハト先輩に気に入られたら、お前にも恋人ができるって寸法じゃないか?」


「そりゃそうだけど……」


 僕はガシガシと後頭部を掻く。


「そんな自信ないし……なによりアハト先輩って学園で有名なんでしょ?」


「そりゃまぁな」


「そんな人が僕の呼び出しを受けるってことは恋人いないんでしょ?」


「そりゃまぁな」


「じゃあ高嶺の花だよ。僕ごときの告白なんて通るわけがない」


「そりゃそうだ」


 ケラケラと笑う百目鬼だった。


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