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絶望のバスチーユ06


 二十回目。

 僕は先輩と恋仲になって週末はデートをして、そして先輩は死んだ。




 三十回目。

 僕は先輩と恋仲になって週末はデートをして、そして先輩は死んだ。




 四十回目。

 僕は先輩と恋仲になって週末はデートをして、そして先輩は死んだ。




 五十回目。

 僕は先輩と恋仲になって週末はデートをして、そして先輩は死んだ。




 六十回目。

 僕は先輩と恋仲になって週末はデートをして、そして先輩は死んだ。




 七十回目。

 僕は先輩と恋仲になって週末はデートをして、そして先輩は死んだ。




 八十回目。

 僕は先輩と恋仲になって週末はデートをして、そして先輩は死んだ。




 九十回目。

 僕は先輩と恋仲になって週末はデートをして、そして先輩は死んだ。




 九十九回目。

 十月十三日の日曜日の夕方。


 突っ込んできたトラックによって壊れた人形のように成り果てて死んだアハト先輩を冷静に見ている僕を発見した。


 心とて摩耗する。


 ましてや九十九回も繰り返せばアハト先輩が死ぬのが当然だと思う僕がそこにはいた。




    *




 百回目の十月十一日の金曜日の朝。


 やはり僕はアハト先輩に告白して受け入れてもらった。


 そして機械的に四月朔日や百目鬼にそのことを話した。


 四月朔日は悲しそうな表情をした。


 百目鬼はケラケラと笑った。


 なるほど。


 四月朔日にとってそれは悲報で、百目鬼にとってはゴシップなのだろう。


 そんなこんなで僕とアハト先輩は昼休みに学食で食事をとる。


「そうですか。もう九十九回も……」


 もう何十度目かの僕の説明に、感慨深げにアハト先輩はそう呟く。


「辛かったですね……」


 アハト先輩は気休めの言葉をかける。


 そして、


「もう諦めてはいかがです?」


 アハト先輩はそんな提案をした。


「諦める……?」


「はいな。私がいる限り四月朔日さんの嫉妬の対象から逃れられないのでしょう? なら私のことは諦めたらどうでしょう? 九十九回も九十九はよく頑張りました。なら……この辺りが潮時ではないでしょうか?」


「諦めるなんて……できません……」


「どうしてです?」


「僕は……先輩を……諦めたり……できないからです」


「でもそれ故に九十九は傷ついている。私にはそれが耐えられない。私のことは思い出にしてくれていいんですよ?」


「僕は先輩に心酔しています。先輩以外なんて……考えられない……」


「困りましたね」


 苦笑するアハト先輩だった。




    *




 百回目の週末。


 僕とアハト先輩は遠出をした。


 場所は京都。


 街並みや寺院を見て回りながら僕もアハト先輩も楽しんだ。


 予約しているホテルに泊まって、一泊二日の小旅行だ。


 そこでもやはり先輩は死んだ。


 狂乱した観光客の通り魔殺人の犠牲者となった。


 わかっていることだった。


 何処で何をしようとアハト先輩は死ぬ運命なのだ。


 だから僕は一つの決心をした。


 このリセット現象は僕のスーパーパワーに因るものだろう。


 なら僕が死ねばリセット現象は起こらないのではないだろうか?


 根拠はない。


 でもこれで終わるなら悪くはない。


 僕はとあるビルの屋上から飛び降りた。


 地面への激突はすぐだった。


 そうして僕は死んだ。


 これで終わりにしてほしい。


 これで手打ちにしてほしい。


 僕はもう死んでもいいから……どうかリセット現象はこれで終わりにしてほしい。




    *




「ピピピ! ピピピ! ピピピ!」


 うざったい音が耳朶を蹂躙する。


「うう……。うるさい……」


 僕は毛布にくるまって騒音からなるたけ逃避する。


「ピピピ! ピピピ! ピピピ!」


 それが目覚まし時計のアラームだと認識したのはその五秒後だ。


「目覚まし……起きねば……ねばねば……」


 僕は目覚まし時計に手を伸ばす。


 そしてアラームを止める。


「これでよし……。おやすみ……」


 そしてまた夢の世界に行こうとした僕を、


「……だめだよ九十九ちゃん。……早く起きないと遅刻だよ」


 誰かの声が妨害する。


 鈴鳴るようなボーイソプラノ。


 その声の主は僕の毛布を取り払って、


「……早く起きる九十九ちゃん。……もう朝食出来てるよ」


「うう……いらない……寝かせて……」


「……駄目だよぅ。……今日で今週の学業も終わるから頑張って……!」


「君は僕のオカンか……」


「……違うよ。……ぼくは四月朔日だよ」


 うん。


 知ってる。


 君は四月朔日だ……って……え……?


 僕はガバリと起き上がった。


「……わ。……九十九ちゃんが自主的に起きた」


 驚いたように四月朔日がそう言った。


「え……? リセット現象は終わったはずじゃあ……?」


 呆然として僕は呟く。


 死んだはずの僕が何故生きている?


 何故僕のアパートの僕の部屋で寝ている?


「四月朔日……」


「……なに?」


「今日は何月何日の何曜日?」


「……十月十一日の金曜日……だけど?」


 リセット現象は終わっていなかった。


 けど確かに僕は死んだはずだ。


 僕のスーパーパワーに因ってリセット現象は起きるんじゃなかったのだろうか?


 僕が死んでも起きるってことは……リセット現象が起きるのは別の誰かの仕業?


 いや……待て待て待て。


 そもそもリセット現象を行なって得するのは誰だ?


 僕以外にありえない。


 なら僕がリセット現象を起こすと考えるのが順当だ。


 でもそれなら何故アハト先輩の後追い自殺をしたはずの僕がリセット現象に巻き込まれているのだろう?


「…………」


 わからない。


 わからないことだらけだ。


「四月朔日……」


「……なに?」


「百目鬼はいる?」


「……ダイニングにいるよ?」


「そ。ありがと」


 そう言って僕はダイニングへと足を運んだ。


「よう九十九……」


 百一回目の百目鬼は相も変わらず気さくだった。


「……じゃあぼくは九十九ちゃんの朝ご飯を準備するね」


 四月朔日はそう言ってキッチンへと消えていった。


「百目鬼……話があるんだけど」


「何でも言ってごらんじろ。俺達は親友だろう?」


 友情に感謝。


 僕は百回に及ぶ絶望の監獄の話をした。


 最後に僕が死んだと付け加えて。


「つまり……スーパーパワーを使ってお前がリセット現象を起こしていたと考える可能性が消去された……と」


「それ以外に考えられないよ」


「じゃあ誰がリセット現象を?」


「わからないから聞いてるんじゃないか」


「ふうむ」


 百目鬼は考え込むように唸った。


 沈思黙考。


 そしてそれから、


「じゃあ九十九……」


「なにさ?」


「カマをかけてみないか?」


 そう言う百目鬼だった。


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