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時間のバスチーユ07


 僕とアハト先輩が付き合うことになったという事実は……電撃の如く校内全域に響き渡った。


「「「「「あのアハトと付き合いだしたって奴はどこの誰だ?」」」」」


 という疑問のもと、僕の教室には休み時間の度に多くの生徒が覗きこむことになった。


 いい迷惑だ。


「あー……失敗した」


 僕は頭を抱えた。


「何が失敗したんだ?」


 と問うてくるのは百目鬼。


 僕は答えた。


「あんな公衆の面前で告白することはなかったよね」


 一回目の夢のように屋上に呼びだせばよかったのだ。


 僕がそう言うと、


「でもまぁ先輩に恋人が出来れば瞬く間に噂は広がるぜ? それが早いか遅いかの違いでしかないと思うんだがなぁ」


 ……それは……そうだろうけど。


 ケラケラと笑う百目鬼に少しだけ立腹しながらも認めざるを得ない。


 ムスッとする僕。


 ケラケラ笑う百目鬼。


 そして、


「……九十九ちゃん」


 と、おずおずと僕に声をかけてくる四月朔日。


 その手には重箱が。


 四月朔日の手作りのお弁当だ。


 僕と百目鬼は家事全般を四月朔日に委任している。


 故に四月朔日は僕と百目鬼の食事を管理しているとも言えるのである。


「ああ、もう昼休みなんだ……」


 僕はそう言って背伸びをした。


「……うん。……今日はから揚げ」


「へえ。美味しそうだね」


 四月朔日が僕の机に広げた重箱の中身を見て僕はそう評した。


 と、そこに、


「駄目ですよ九十九……友達の弁当をあさるなんて」


 鈴ふるような綺麗な声が僕をいさめた。


「っ!」


 僕は驚いて声のした方へ振り向く。


 そこにはアハト先輩がいた。


 クラスメイト達がざわめいていた。


「先輩……!」


「なんでしょう?」


「どうしてここに?」


「九十九と一緒に食事がしたい。それでは足りませんか?」


「いえ……そんなことはありませんが……」


「なら良かったです。これから学食でご飯を食べませんか?」


「いいですけど……」


「では決まりです。九十九の友人方……」


「……はい」


「なんでっしゃろ?」


「九十九を借りますね」


「……はい」


「好きにしてくれて構いません」


 四月朔日は躊躇いながら……百目鬼はあっさりと……そう言った。


 中略。


 僕とアハト先輩は二人で学食の席について食事を行なった。


 衆人環視がザワザワと僕らの関係を疑っていたけどそんなことはどうでもいい。


 僕は体験した悪夢の内容をカモ蕎麦を食べながら余さずアハト先輩に話した。


 そんな僕の言葉を真摯に聞いて、それからアハト先輩は担担麺を食し、言った。


「では今回は三回目……ということですか?」


「その可能性もある……ということです」


「しかして仮想体験……でしたっけ? 九十九の友人……百目鬼さんが言うにはそれまでの世界は夢だと……」


「まぁその可能性が一番高いことに僕とて異論はありませんが」


「私は違うと思います」


「……へ……? 何故です?」


「よく考えてみてください。九十九はどの段階で私を好きになりました?」


「それは一回目の夢の中で……ですけど……」


「それまで九十九は私の存在を知らなかったんですよね?」


「そうなりますね」


「夢とは記憶の再現です。知りえないことまで再現する力はありません。つまり……九十九は夢だと思っている一回目にて、それまで知りもしない私を知ったことになります。そんなことが夢で……仮想体験で可能でしょうか?」


「……っ!」


 僕は絶句した。


 せざるを得なかった。


 そうだ。


 僕は夢だと思っていた一回目で初めてアハト先輩を初めて知ったのだ。


 つまり……、


「そう。つまり九十九……あなたの体験は仮想のものではありません」


 そういうことになる。


「つまり仮想体験説が潰れると。じゃあ僕の体験したことは全て事実。時間遡行か宇宙の再構築かになるわけですね?」


「そういうことですね」


 担担麺を食べながらアハト先輩は頷いた。


「…………」


 そんなまさか……と言いたい気分だった。


 しかして反論の余地はない。


「ならまさか……今回も先輩は死ぬ……?」


「それはわかりません」


「だって一回目も二回目も死んだんですよ?」


「でも一回目と二回目と今回の三回目では九十九や私の一挙手一投足は違うんですよ?」


「それは……そうですね……」


「ならば私が死なない可能性もあると思うんですけど……」


 そう言えば百目鬼もそんなことを言っていたような。


 運命があるのなら一挙手一投足まで同じでなければならないと。


 ならアハト先輩が死ぬかどうかなんてまだわからないんだ。


「…………」


 黙して思案する僕。


「そんな深刻に考えることじゃありませんよ。九十九は色々と背負い込みすぎです。私が死んだからそれが何だっていうんです? 気楽に構えればいいじゃないですか。それより生産的な話をしましょう。もし九十九が暇なら私をデートしませんか?」


 土日ですか?


「はいな」


 そう言ってアハト先輩は憂いの瞳をそのままに……晴れやかに笑うのだった。


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