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The 11thゲーム②

「な、なに急にキレてんの? 引くんだけど」


 言われたガキどもが正気を取り戻したのか、少し気圧された様子ながら、それでもまた嘲笑し始めた。

 俺は何故だか分からないけれど、咄嗟に腰が浮いた。思わず飛び出してしまいそうになった。

 けれど、その行動は突然かけられた小さな声に制止された。


「こんなところでなにしてるんですか?」


 驚いて振り向くと、クソガキと同じぐらいの背丈の小さな女の子が立っていた。

 黒髪で眼鏡をかけた、利口そうで落ち着いた雰囲気のある、そして見覚えのある顔だった。


「お前、祭りのときの……」

「春香です。……あぁ、またやってるんですね、あの子たち」


 遊具の隙間から状況を察すると、呆れたように言い捨てた。


「よく愛姫の家のこと悪く言ったり、クラスでも他の子が話しかけれないようにしてるんですよ。馬鹿みたい。母子家庭の子も、お金がない家も、水商売やってるお母さんも他にもいっぱいいるのに」


 お前こそなんでこんなところに、という疑問よりも、聞かされた内容が気になった。


「なんであいつらはクソガキに対してそんなことしてんだ? 他の子が話しかけられないようにって、どうやってだよ?」

「簡単ですよ、あの子たちは隣のクラスじゃ目立つ子達ですから。愛姫が貧乏だって、親が男とばっかりいるって、悪く言って騒ぎ立てればいいだけです。あいつは悪く言われるやつなんだって、自分たちはあいつを嫌ってるんだって、周りにそう示すだけで話しかけ辛くなるんです。よくある子供っぽい省きとかイジメです」


 そう淡々と説明する春香は、紛れもなくそこにいるガキどもと同じ年頃の見た目をしている。

 ただ、周りを子供っぽいと言っても許されるほどに、自然体で大人びて見えた。


「あの男の子たち、多分愛姫のこと好きなんですよ。あの子、隣のクラスでは一番可愛いですし。それで、女子の方はそれが気に入らないんです。だから意識して、放っておけなくて、あんなことを繰り返してるんです。私は転校してきたから前のことはあまり知りませんけど、小夏はいまいち分かってなかったみたいなので、多分三年生のクラス替えがあった後からじゃないですか?」

「……くだらねぇな」

「そうですね。でも小学生わたしたちってそういうものなんです。ちょっとしたことや、ちょっとしたきっかけが、とても大きなことなんです。中には、ああやってイジメをする子も受ける子もいます。それを大人には言いにくいですし、気付いてくれません」


 その物言いから、見た目通り相当頭がいいんだろうと分かった。

 クソガキも小賢しいという意味で四年生にしては頭が回る方だと思ったが、およそ言動や落ち着き方が同学年のそれと思えない。

 その空気のせいで思わず素直に訊ねてしまう。どうすれば正しいのかを。


「だったらあれは、大人おれが助けてやった方がいいのか?」

「あなたはやめた方がいいと思います」

「やっぱりか?」

「えぇ。この場は良くても、子供同士の問題に大人が入ってくるとか悪化しかしません。私は平気ですけど、大人って眼の上のたんこぶって感じなんです。同じ目線じゃない人がなにを言っても、ただ邪魔臭いなとか、何も分かってないくせにとしか思いません」

「この場は良くても、後でどうなるか分からないってことか。それに、今あいつが馬鹿にされてるのは俺のせいでもあるしな」

「……? そういえば今日は珍しく愛姫が言い返してるみたいですね」

「俺みたいなキモイおっさんと遊んでたことを馬鹿にされたんだよ」

「あぁ、そういう……」


 ともあれ、あの状況を放っておくってのは流石に耐え難い。

 未だにクソガキは多人数を相手に一人で声を張り上げている。

 そのあまりに不利な状況が、けれど必死に抗う姿が、健気な様子が、なんだか居た堪れなくて、居てもたってもいられなくて胸を打つ。

 いっそのこと覆面でもして乗り込んでやろうか。

 ただでさえ怪しいおっさんと思われてるんだ、いっそのこと本当に変質者になるのも悪くない。


「なにしてるんですか?」


 ゴソゴソとカバンを漁る俺に、春香が不可解そうに声をかけてくる。


「いや、ビニール袋に穴でも開ければ覆面になるかなって」

「そんなことしてどうするんです?」

「通りすがりの危ない人間として乱入しようかと」


 いきなりビニール袋被った大人がブツブツ言いながら近づいてきて、突然ダッシュしてきたら流石ににビビるだろ。大人でも全力でその場から逃げるわ。


「捕まりますよ?」

「あぁいいよ。どうせもうこの公園には来ないつもりだから」


 春香が心底呆れたような顔で深いため息をつく。

 馬鹿な大人だと思われたんだろう。正解だ。

 何せそんなくだらない方法しか思いつかない上に、今までクソガキと一緒にいることがあいつにとって良くないことだと気付きもしなかったんだから。


「そんな頭の悪いことしなくても平気ですよ」

「なにが平気なんだよ? あれ放っておけってのか?」

「あなたと同じく、馬鹿なお節介がそろそろ来るからです」


 どういう意味か分からなかった。 

 しかし次の瞬間、遊具越しに黄色い悲鳴が上がる。


「きゃあああっ!! な、なに!?」

「つ、冷てっ!」


 そちらを覗き見ると、クソガキを除く他のガキどもがびしょ濡れになっていた。

 そして、俺たちが潜んでいるアスレチック遊具の真上から声が響く。


「くだらねぇことしてんじゃねーぞテメェら!!」


 声と共に、ダンッという地面を叩く衝撃がすぐ目の前に走った。

 遊具の隙間から覗ける、小さな背格好、ツンツンとした黒髪に、如何にも生意気そうな声。

 やたらでかい水鉄砲を肩に乗せたそいつは、先日の祭りで会った秋人とかいう悪ガキだった。

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