表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末で少女は現実《ディストピア》の夢を見る  作者: ヘリウム4
一日目 『昨日からの別離』
8/64

一日目 昼の3


 

 キシ、キシキシキシ……

 

 

 西田と東畑の皮膚が、爬虫類のような鱗で覆われていく。頭からはヤギのような角が生え、両手両足に強靭な爪が形成された。

 

「なんだ、なんだよこれ……お前ら何をしやがった!!」

 

 あわわわわわ……非現実的な光景を前に、俺の頭は完全にフリーズしてしまった。

 

「あ、悪魔……た、たっくん、助けて……」

 

 佐田妹の言葉に我に返る。……この状況で助けを求める相手が卓真なのが何とも。

 

「ひゃひゃひゃひゃ!この爪でお前らを殺せば、『熊が校内に侵入して殺した』とあたし達が証言すれば誰も異議を唱えないのさ!」


 西田だったものが答える。……なあ頼む、卓真でも佐田姉でもいい、出てきてこの状況はドッキリでしたと言ってくれ。

 

「携帯で応援を呼ぼうったって無駄だよ。藤堂と佐田玲子なら、生徒会の連中と一緒に隣町のラーメン屋で昼食をとっているのは調査済みさ」


 用事ってそういう事かよ……そもそも、この状況が現実なら二人を巻き込むわけにはいかないのだが。

 

「さあ、まずはお前からだ白木、死ねッ!!」

 

 西田と東畑が右腕を振りかぶりつつ左右から俺に襲い掛かる。刹那、俺は脱兎のごとく飛び出してその大振りな動きを回避した。

 

 前の瞬間まで俺がいた床には、奴らの爪で深々と傷跡が付けられる。……こんなもの喰らったらひとたまりもない。奴らの動く軌跡上にあった試験管やフラスコが割れ、地面に硝子の花を咲かせる。

 

「お前ら本気かよ」

 

 ヤバイ……言うまでもないが、理科準備室にそれほど広いスペースはない。次襲い掛かられたら最後だ。

 

 俺は大きな硝子片をひらい、ささやかな応戦の準備をする。これで目でも突ければ隙が生まれるはず。……せめて硫酸でも手に入ればいいが、使う時以外は薬品箱に入れられ厳重に鍵がかけられているはずだ。

 

「ちょこまかとウザイ奴め、これでも喰らえ!」

 

 西田と東畑の背中から細い触手が何本も生え、俺に襲い掛かる。俺はそのうち何本かを硝子片で断ち切るが、それが抵抗の限界だった。

 

「うわああっ」

 

 俺の右手と左足と首筋に奴らの触手が絡みつく。このまま締め上げられればすぐ窒息しちまう!

 

 西田と東畑が、俺の体を引き裂こうとゆっくりと向かってくる。なあ、全部夢なんだろ、早く覚めてくれよ、頼むよ……

 

 

 

 その時、後方から銃声が響いた。

 

 

 

 扉のカギが破られる。一人、誰かが侵入してきたらしい。

 

 刹那、西田と東畑の脳天と胴体に、1発ずつ銃弾が撃ち込まれる。苦しみもがく悪魔たち。

 

 俺は奴らの触手から解放され、力なくうなだれるが、今しがた入ってきた神の助けを目の当たりにしようと何とか振り向くと、

 

「こんな直接的な形で危害を加えてくるなんて……」

 

 静流=フィルバーンが2丁のリボルバー拳銃を構えて悠然とそこに立っていた。拳銃は役目を終えるとフェードアウトするかのように消えていく。

 

「現実拡張能力……」

 

 その単語が思わず俺の口から出る。

 

「やはり、あなたがあの『死神』なのね。……現実拡張装置はどこにあるの、教えて」

 

 奴らの肉体を変化させたのはやはり現実拡張の力なのか。それより、やはり彼女は……俺は、やっぱり夢の続きを見ているのか?

 

「……多分、その棚の中」

 

 ともあれ、先ほど変身前に東畑が手を入れた棚を俺は指さす。

 

「OK、ありがとう」

 

 静流……いや、もはや彼女が何者かは明らかだ……シリューは、苦しみもがく悪魔達を尻目に、その棚へと近づく。

 

 しかし、突如、

 

「がっ……」

 

 シリューがリボルバー拳銃を再び右手に現界させた途端、頭を左手で抱えだした……?

 

「おい、どうした!?」

 

「力を、使いすぎた……この肉体は長時間の演算負荷に耐えられない……」

 

 あの時の俺のようにか。……恐らくは肉体ごとの適正があるのだろう。ヤバイ、そうしているうちに悪魔どもの頭の傷がふさがってきてるじゃないか。

 

「小娘があああッ」

 

 西田がシリューに襲い掛かる。

 

「し、死神、これをッ!」

 

 シリューは西田の攻撃に対しハンモックを現実拡張で構築して防ぎつつ、俺に拳銃を放り投げる。

 

「済まないっ」

 

 それを手早く受け取ると、見た目はまるで安物の超合金のおもちゃのごとくギラギラした黒塗りで、本当に銃弾が出るのかと不安になる。

 

 しかし躊躇はしていられない。銃口を棚への道をふさぐ東畑へ向ける。ダブルアクション特有の重いトリガーが引かれると、撃鉄がシリンダーにセットされた22ロングライフル弾の(リム)を叩き、発射薬へ点火した。

 

「がああっ」

 

 威力の低い弾薬だが、時間を稼ぐには十分。胸部に直撃を受けた東畑は、街路樹が暴風で軋むように後方へ大きくひるむ。

 

 俺は棚の方へ接近すると、その中に人の頭大のガラスの容器を確認する。その内部には……

 

「脳、みそ……!?」


「それがフォークト型現実拡張装置の本体よ、早く!!もう持たないッ」


 俺の手の中のリボルバーが一瞬テレビで自主規制として使われるモザイクになる。これ以上は現実の変更を維持できないのだろう。


「分かった!」


 俺は脳みそに銃口を向け、拳銃の引き金を引いた……!

 

 

 

 乾いた音が、狭い理科準備室に鳴り響いた。

 

 

*悪魔 神に逆らい、人間を悪の道へ誘惑する邪悪な存在。一神教における悪魔の源流をさかのぼると、ヘブライ人と戦った多神教の神々に由来することが多い。作中の西田と東畑の発想力が貧弱なため、一般的に悪魔と言ってすぐ思いつくような容姿となっているが、現実拡張装置の使いかたによっては不定形、あるいは霊的存在にもなることが出来、その場合はより脅威となったことが予想できる。


*リボルバー拳銃 回転式の弾倉を持つ拳銃。19世紀後半、アメリカ西部開拓時代に全盛を迎え、西部劇には欠かせないアイテムである。自動拳銃と比べ携行弾数は少ないが、機構が単純、大口径の弾を扱えるなど利点もあるため現在でも完全には廃れず利用されている。静流が現界させたのは低品質のいわゆる「サタデーナイトスペシャル」であり、安かろう悪かろうを地で行く存在。威力の低い弾薬に耐えられればいいため、作中で言及されている通り、フレームは超合金の玩具と同じ亜鉛合金ダイキャスト製である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ