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終末で少女は現実《ディストピア》の夢を見る  作者: ヘリウム4
一日目 『昨日からの別離』
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一日目 昼の2

 

 きーんこーんかーんこーん……

 

 

 HRの後、1時限だけ授業があったものの、全く内容が頭に入らない。

 

 そんな、あれは、あれは、……

 

「白木くん、白木くん、おーい、おーい」

 

 後ろから呼ぶ声にひゃんとする。

 

「ひゃぁっ!!……み、瑞樹ちゃ……雨塚」

 

 小柄な赤毛の少女、いままで強く憧憬の対象だった存在が俺を呼んでいた。

 

「人を勝手に名前で呼ばない!大丈夫?全然ノート取ってないじゃない。私の貸してあげようか?」

 

 そういえば、彼女は俺の後ろの席になったんだった。昨日までの俺にとっては夢のようなシチュのはず……はずなのだが、俺は彼女の親切に即答できなかった。

 

「もう……あの子見てから上の空よ、ホント大丈夫?」

 

「あああ、いえ大丈夫です、大丈夫だから」


 どう見れば大丈夫なのか、自分でも思いつつ答える。

 

「へー、それにしてもあの白木くんが一目ぼれかー、へー、やーけちゃーうなー」


 言うまでもなく、これはその気がない人間の発言ですよね、雨塚さん。はぁ……

 

「は、はは……」


「ともあれ、ノート貸してあげるからちゃんと写してね。玲ちんもあんたやまきまきの成績のこと気にしてるんだから」


 こういっちゃ悪いが、俺の成績は進学コース組の中で佐田妹と並んでドベである。

 

「あ、ありがとう雨塚、この埋め合わせはいつかするよ」


「愛とかそういうのはいらないから、ちゃんと物で返してよ」

 

 そんなぁ……



―――――――――――――――――――――



 瑞樹ちゃんのノートを写し終わり、教室も閑散としてきた。卓真たちは用事があって先に帰ったらしいし、俺もそろそろ行くかな。というところで、嶺二が教室に入ってきた。


「おそよう、嶺二」


「お、おはようです起継。なんかさ、佐田妹ちゃんからこれを起継にって」


 嶺二は俺に封筒のようなものを手渡すと、そそくさと教室を出て行った。


「?」


 なんだ、アイツ?ちょっと挙動がヘンだったな。俺も人の事いえないけど。

 

 人目の付かない階段の裏へ移動すると、その封筒を早速開封し、中の手紙を読んでみる。

 

「理科準備室で待っています 佐田真希」

 

 ……ラブレター?古風なことをするな。というかアイツは卓真が好きなんじゃないのか、よく分からん。



―――――――――――――――――――――



 理科準備室の扉の前に到着した。……誰かが嶺二を使ってからかっている可能性を考慮し、扉の上に黒板消しの罠がないか確認する。

 

 慎重に、少しだけ扉を引くと、これといって仕掛けがしてある様子はなかった。

 

「白木起継だね、入りなさいな」


 中から人の声、だが佐田妹のものではない。

 

「お邪魔します……」

 

 部屋の中に入ると、そこには女子が3人いた。そのうちの一人、就職コース組の西田朋美(にしだともみ)が、俺が入ったなりに扉を閉め、鍵をかける。

 

 奥には同じく就職コース組の東畑美樹(ひがしばたみき)が、……椅子に縛り付けられた佐田妹と共に待ち構えていた。

 

「白木くんッ!!」

 

「お、お前ら、何をしているんだ!?」

 

 東畑は、嫌見たらしい顔で答える。

 

「ここに来たってことはあのラブレターを見たって事だろ、よかったな佐田真希、あんたみたいなカス野郎でも受け入れてくれて」

 

 俺の背後の西田が、ねっとりとした声で囁く。

 

「さっ、王子様。お姫様に接吻をくれてやんなまし。もしくはそれ以上しちゃってもいいよ、ヒャハハハハ」

 

 言うとともに西田は俺を佐田妹の方に蹴りだす。

 

「うわっ」

 

 思わず佐田妹の方に突っ伏す俺。

 

「気に入らねぇんだよ。なんで赤点常連の手前らが進学コースに行けたんだっての」

 

 そんなことかよ!そんなことで嶺二までダシに使って俺を呼び寄せやがったのか!

 

「それは、模試の結果だろうが!」

 

「ハッ、笑わせるな。あんたらが佐田玲子や先公のお気に入りだから行けたんだろうが」

 

「気に入られる程度の努力も出来ない奴らが何を言う!」


 どだい前提がおかしい、こいつ等俺達を裏口でも使ったって思ってんのか。

 

「とりあえずキスだけでも済ましな。そうすりゃお前さんだけは出て行ってもいいぜ」


「キース!キース!」


 東畑が囃し立てる。恐らくはウェブに写真を拡散し、俺達の立場をなくそうという魂胆だろう。


「ふざけるな!佐田妹……真希、お前も嫌だよな、こんな形で、卓真を差し置いてお前の唇を俺……」


「いいよ、白木くん」


 佐田妹から意外な一言。

 

「白木くんが助かるなら、それでいいから」


「お前、もう少し自分を大事にしろ、こんな連中のいう事聞く必要なんかない」


 俺はきっぱりと言いきった。

 

「ふーん、生きて帰れなくてもいいってことだね……」


 西田が物騒な事を言い出す。命にかかわることだと?それだったらお前らも退学は免れないぞ。

 

「やっちゃおうか、美樹。アレを起動して」


「りょーかい、朋美」


 そう言うと、東畑は背後のフラスコやビーカーの棚の中に手を入れ、何かのスイッチを押した。

 

 ヴゥゥゥンッ!

 

 

 

 ハム音と共に、東畑と西田の姿が変わっていく……!!

 

 

*理科準備室 科学実験用の教材が仕舞われている狭い部屋。監禁に丁度いい。


*黒板消しの罠 教室入り口のドアの上部、またはドアと敷居の間に黒板消しを仕込む罠。気づかず教室に入ろうとしたものを襲う定番のトラップである。


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