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終末で少女は現実《ディストピア》の夢を見る  作者: ヘリウム4
一日目 『昨日からの別離』
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一日目 夜の1


‐ 西暦2017年 4月6日 ‐


 ゲーム時間は残り3分、ポイント(ブラボー)には敵が3人詰めているが、ここを落として1分半維持すれば逆転できる。ヘッドホンから、トリニティ1…藤堂卓真とうどうたくまの聞きなれた声が響いた。

 

「トリニティ2は援護を頼む、キルレ1.8の実力を見せてもらうぜ。トリニティ3は俺と同行して手榴弾を投げ入れろ」


「トリニティ2了解。頭を出した途端にヘッドを喰らわしてやるぜ」


 俺……白木起継しらきおきつぐは卓真に万全の自信をもってそう答えた。今宵も俺のM1ライフルが獲物を欲しがっている。

 

「トリニティ3は不服だよ!どうして衛生兵の僕が……」


 どうもトリニティ3……有栖川嶺二ありすがわれいじは戦いたくないらしい。こいつホント狙い(エイム)がへったくそだからなぁ。


「3対3じゃないと厳しい状況だぞ、協力してくれ、嶺二」


「しょうがないなぁ。藤堂センセ、明日ジュース一本奢って下さいよ」


「分かったぜ、んじゃ作戦開始といくか!」


 破壊された建物の裏からトリニティ1と3が飛び出していく。ポイント(ブラボー)は3つの砲弾穴の中央にあるが、それぞれに一人ずつ敵がいた。

 

 先陣を切るトリニティ1を狙い、砲弾穴から敵が一人頭を出す。だが奴が狙いを定める前に、俺のM1が奴の頭に風穴を開けた。

 

「うわああああああッ」

 

 トリニティ3が一つの砲弾穴に手榴弾(パイナップル)を投げ込むが、狙いがうまくつけれてない。一瞬のスキを突き、MP40短機関銃を持った敵が砲弾穴から飛び出してトリニティ3をハチの巣にする。

 

「もう何やってんだ!」


 俺はそいつに狙いを変え、体を撃つが一撃では仕留められない。もう一人、一番奥の砲弾穴にいた敵の機関銃手がこちらに狙いを変え、自慢のMG42を乱射する。

 

「チッ」


 みるみる減る俺の体力、だが幸いにしてキルを取られるまでは至ってない。俺は一旦建物の裏に逃げて射線を切るが、敵に突出するトリニティ1を援護するため再度身を危険にさらす。機関銃手は弾を使いつくしてリロードに入った、短機関銃持ちを仕留めるまでは体力が持つはず。

 

 機関銃手にキルを取られる前に、俺はトリニティ1に照準を向けていた短機関銃持ちにヘッドをお見舞いした。そのままこっちも機関銃手に殺されるがキルレは2:1、全体の戦歴に差し支えはない。

 

 そのままトリニティ1の接近を許した機関銃手も、あいつのM3短機関銃に血祭りにあげられ、ポイント(ブラボー)の制圧は完了した。すぐさまトリニティ1は他の味方に救援を乞う。

 

 トリニティ1と他の味方は俺達がリスポーン地点から到着するまで持ちこたえ、結果としてこの戦いは我々の勝利となった。

 

「はあー、危なかったな。助かったぜ、起継……もう一戦やるか?」


「僕はパスですよ。お二人とも何時だと思ってるんですか、夜の1時ですよ1時!」


 俺がこたえる前に嶺二が弱音を吐く……まあ無理もないか。現実問題として俺のPCもそろそろ熱を持ってきたし、冷やしてやらないと寿命が縮みそうだ。

 

 ちなみに一応説明しておくと、俺達がやっていたのはオンライン対戦型のFPS……一人称視点のシューティングゲームと言えばわかりやすいか。3人で小隊(プラトーン)を組んでいるが、それ以外のメンツは敵味方ともランダム選出の15対15だ。

 

「まあ、明日から学校だしな。ところで起継、雨塚にそろそろ告るんだろ?」


 わわっ、卓真の奴何の話しやがるッ!?……なお、雨塚瑞樹あまづかみずきは……そうさね、赤毛のポニテで笑顔がまぶしい、小柄な俺の心の中のアイドルだ。


「あのなあ……瑞樹ちゃ、あいや雨塚が俺なんか見てるかよ。お前こそ佐田姉妹のどっちにするんだ」

 

 この女たらし……藤堂卓真はなんと高3にもなって幼馴染だか何だか知らないが、近所の双子の佐田さだ姉妹と同伴通学しているのだ!!こんなふしだらな奴が他の奴の男女関係について何を語る資格がある!

 

「はぁ……前に言ったろ?アイツらは単なる幼馴染だよ。……ふぁーあ、つまらん話してたら眠くなってきた、俺そろそろ落ちるわ」


 始めたのはお前だろと心の中に思いつつ、卓真がチャット上からログアウトするのを確認する。

 

「相変わらずフリーダムな奴ですね、藤堂先生は」


「全く、嶺二ももう少し痩せて彼女作れよ。俺が言えた義理でもないかもしれないけどな」


「彼女なんて一生作る予定なんかないですよ。じゃ又明日、いや今日か、学校で」

 

 嶺二がログアウトすると、途端に部屋に静寂が訪れる。ただディスプレイから漏れる光だけが周囲を照らしていた。俺は、一抹の寂しさを覚えつつも、少し小腹が減っていることに気づく。

 

「そういえば、晩飯からこのかた何も食べてないな……」



―――――――――――――――――――――



 あれから30分ほど後、俺は夜食を求めて家を抜け出した。別に徹夜しようというわけではない、腹が空いたままでは安眠できないタチなのだ。

 

 ここは日本海側の辺境の辺境、I市。この時間に開いてる店といえばコンビニしかないわけだが、寝不足なのかどうも方向感覚がおかしい。……目の前の横断歩道は確か一番近いコンビニとは逆方向だったような……

 

 その疑問に横断歩道の中央で足を止めると、いつの間にか信号が赤になっていた。思わず周囲を確認すると、

 

「トラックと不運(ハードラック)とかけまして、ハートラック、なんちて……え!?」

 

 

 刹那。

 

 

 けたたましいクラクションと、死を暗示するかの如き白いヘッドライトのまぶしさに我に返った俺は……気付いた時には手遅れだった。

 

 

 

 俺は、そのまま白の世界へと呑み込まれていった。

 

 


*M1ライフル 第二次大戦時の米軍の主力ライフル。他国が旧型のボルトアクション(手動で弾込めを行う銃)ライフルを主力にする中、いち早く採用されたセミオートマチックライフルで、8発入りの弾薬クリップを装填することで連射が可能。命中精度も高い。


*パイナップル 第二次大戦時の米軍の手榴弾、Mk2の通称。


*MP40 第二次大戦時のドイツ軍で広く使われた短機関銃サブマシンガン。この銃種はライフル弾ではなく、拳銃と同じ威力の低い弾を用いることで、連射性と携帯性を両立したタイプで、射程と単発威力よりも速射性が重要な接近戦で活躍した。この銃は、軍主力の銃としてはいち早く金属プレス加工部品を多数採用した高い量産性を持ち、戦時下の多大な需要にこたえることが出来た。


*MG42 第二次大戦後半のドイツ軍の主力機関銃マシンガン。マシンガンはライフルと共通の弾を連射する銃で、このMG42と前任のMG34は各歩兵分隊に一丁配備されて分隊を援護する強力な火力を発揮した。また陣地の固定機銃としても運用できる汎用性を持ち、某映画冒頭の上陸シーンで惨劇を演出したのはこの銃である。


*M3短機関銃 米軍の短機関銃。別名グリースガン。その名が表す通り油さしような外観を持つ奇妙な銃だが、これは自動車会社がもつプレス加工の技術を転用するための設計であり、短機関銃としての連射性能は申し分ない。第二次大戦時の銃だが、つい最近まで自衛隊の戦車乗員の護衛火器として配備されていた様子である。


*FPS ファーストパーソンシューター。一人称視点で自キャラを移動させ、敵を基本的には銃で撃って倒すゲーム。日本でいうところのシューティングゲームとアクションゲームの要素を併せ持つ。キーボードで移動し、マウスで狙いを定めるというパソコンでの操作に適したゲーム性を持ち、国内よりも海外でヒットしていた。近年は一人称視点ではなく、自キャラを後方から見て操作するサードパーソンシューター(TPS)が国内外で数多くのヒットを飛ばしている。


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