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海王と海の聖女  作者: なつき
二人の馴れ初め
8/25

海賊達にさらわれた

ちょっと話が遡り、彼女がさらわれた瞬間になります。

 ……話が遡ること数時間前。



「はぁ……」



 時折ため息を混じえた生気の無い顔で、ハルカは港町フォーニーの大通りをのろのろと歩いていた。彼女が生気の無い顔なのは船乗り仲間が見つからないから……だけではない。何故なら見つからない理由は今日、身を持って知ったのだから。



 ――お願いします! 私を船に乗せてくれませんか?――


 ――なら嬢ちゃんは何が出来るんだ?――


 ――白魔導士ですから真水がいっぱい作れますよ! それから積み込んだ食料も長持ちさせられますし交易品が傷まないように管理も出来ます!!――


 ――確かに有能だが……一つ問題があるぜ?――


 ――? 何ですか?――


 ――嬢ちゃんは女の子だろ? 長い船旅で色々良からぬ事を考えそうな奴が出て来て嬢ちゃんが可哀想だからダメだ。――


 ――そう、ですか……――



 ……そんなやり取りの末、彼女はほぼ全部の船から断られていたのだった。



「……それもそうですよね。私は女性ですもんね」



 とぼとぼと道を歩くハルカ。判ってはいた事だが……正直ちょっと落ち込んだ。



「……最初の船乗りさん達が珍しい方達だったのですね……。皆さん、惜しい人達でした」



 くすんと涙を拭いながら、次の船を探すハルカ。しかしもう……結果は見えている気がする。



「ラインバルトさま……どうして来てくれなかったのでしょうか……?」



 そう思うと……ハルカは先程のラインバルトとのやり取りを思い出してしまう。彼女はラインバルトを最初の船乗り仲間にしたかったのだが……何故か答えをはぐらかされて逃げられてしまったのだ。それがもう一つの、落ち込んでいる理由であった。



「ラインバルトさまと一緒に広い海を、旅してみたかったですね……」



 とぼとぼと。肩を落としながら当ての無い道を行くハルカ。もちろん彼女だって、相手には相手の世界があって自分には自分の世界があるんだと知っている。でも少しだけ、夢を見てしまった。彼と一緒に旅するというささやかな夢を、見てしまったのだ。



「……うふふ」



 今までの彼との話と時間を思い出し、ハルカははにかみながら『白蛇の一枚革ローブ』にゆっくり丁寧に指を這わせる。



「嬉しかったなぁ、『これ』褒めてもらえて」



 愛しげに。彼女はローブを愛でる。その様子はまるで、彼女が彼女自身を大事にしているように見えた。



「……でももし本当の事を知られたらどうしましょうか? ……少し、怖いです……」


「にゃあ」



 彼女が暗い顔でため息をついていたそんな時、ふと鳴き声が聞こえてきた。改めて声のした路地裏を見やると、そこには黒い子猫が一匹いた。



「猫さんですか。おいでおいで♪」



 ハルカちゃん、しゃがみ込んで手を振りながら猫ちゃんを誘う。子猫はそれを見つつ、警戒心皆無な様子で鳴きながら近寄ってきた。



「うふふ、可愛い猫さんですね♪」



 ハルカちゃん、子猫の頭を優しく撫でてあげる。今はこんな事している余裕は無いのだが……焦っても仕方ないし子猫と遊んでいたら気も紛れるかも。



「こんにちは、猫さん。あなたも私と一緒に船乗りしませんか? ネズミ取りの倉庫番なら大歓迎ですよ? 今ならネズミを食べ放題です♪」



 ごろごろと喉を撫でてあげながら、ハルカは子猫を船乗り仲間にご勧誘。



「みゃあー♪」



 ……しかし当のにゃんこはそれを理解は出来ていないご様子だ。甘えた声を出しながら眸を細めているだけだからだ。



「うーん、猫さんは仕方ないですねぇ……」



 足首にすり寄ってくる子猫に対し小首を傾げて、困惑するハルカ。まぁ仕方ない。だって猫は人間の言葉が判らないのだから。確かに猫を倉庫番として雇いたいのだが……いくらなんでもいきなり連れていくような乱暴はしたくない。



「まだあなたには親御さんがいそうですもんね~。それに船旅なんてよだきぃ事は嫌いですよね~」



 ハルカが故郷特有の方言を口にしながら子猫を優しく愛でていたちょうどその時。



 いきなり自分の影が大きくなったのだ。



「――!?」



 慌てて振り返るハルカ。

 しかしその身体に、容赦無くこん棒が振り下ろされた!



「きゃ……!」



 鋭い一撃の前に、意識も刈り取られてゆく。みるみる内に瞼が落ちて闇の大波に気持ちが飲み込まれた。



「よし。気絶したな」



 逆光の中で、こん棒を手にして頭にバンダナを巻いた荒くれが呟いた。



「へへへ……街中で見つけた時から狙ってた甲斐があるぜ……! 中々の上玉だもんな」



 もう一人の髭面の荒くれが、気絶した彼女を布に包みながら呟いた。彼らはドーマ海賊団の構成員だ。



「よし! さっさと船長の元に連れていくぞ!!」



 そのまま抱えてさらっていく二人。町民達は見て見ぬ振りをしていたのであった。

大事な伏線があります。

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