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海王と海の聖女  作者: なつき
二人の馴れ初め
15/25

二人の旅立ち

船の修理と改造が終わり、いよいよ二人で旅立ちです。

 ……それから二ヶ月ほど、ハルカとラインバルトはフォーニーに滞在していた。理由はまずあのオンボロ貿易船の修理。イブシェードどユウキの査定では『相応の造船ドッグと船大工達任せる為、入渠させないと直らない』との事だったからだ。その修理――及び大幅な改造をしているらしいので、二人は港町フォーニーの潮風の中でラインバルトはお金や船に積み込む物資を稼ぎ、ハルカは航海術の勉強や新しい魔法の練習に勤しんでいた。


 そして。ついに船が完成し、二人は皆から見送られ。フォーニーの波止場から出航していた。



「しかし凄いですね……魔法で二人でも動かせる大型貿易船を造り出すなんて……!」



 うきうきと声を弾ませながら、微笑みを浮かべて船の中央で回るハルカと。



「確かにすげぇな……! どうやってこんな船を造り出したんだか……」



 彼もまた、感嘆の息が止まらない。あの二人が「まだしばらくは二人旅になるだろうから」という理由で船大工や職人――おまけに彼女のお師匠さままで呼んで、二人でも動かせる大型帆船を建造したのだ。最後の総仕上げにはイブシェード青年とお師匠さまが納得いくまでその腕を振るってくれた。改めてあのオニヘビと錬金術師の顔の広さが判った光景である。



「えぇ。本当に凄いです。

 それにお兄さまや友人さま――まさかお師さままでお見送りに来ていただいて……今日は最高の船出日和ですね♪」



 出逢ったあの日と同じように。海風に艶やかな黒髪を踊らせながら、ハルカは天女のようにはにかんだ。



「あぁ、そうだな」



 ラインバルトもまた、これから見える世界に笑みがこぼれでていた。



「……でもこれから借金だらけだぜ? いちおーは君のお兄さんから借りたようなものだからな」


「うふふ♪ お兄さまは『出世払いでいいぞ!』と言っていましたね♪」


「はは。こりゃ、何が何でも出世しないとな」



 二人は船の縁に背を預けながら、笑いあっていた。



「……広いです。海」



 海風に髪を踊らせながら。ハルカは双眸を閉ざして歓喜の情に感じ入る。



 ――ハルカはねぇ、我が種族でも珍しい存在なのですぞ!――



 ……その横顔を見ていると、ふとユウキとの会話を思い出す。海賊の一件の後、傷を癒し互いに酒を呑んでいた時のあの夜を。



 ――珍しい? ハルカちゃんがか?――



 ――そうでございますぞぉ。ハルカはねぇ、我がオニヘビ種族の中では白い身体の持ち主ですからねぇ。我が種族には百年に一度、白い身体に高い魔力を持って生まれてくるオニヘビがおりましてな。それがうちの妹ですぞ!――。


 ――な、なるほど……――。


 ――妹が生まれた時は、種族総出でお祝いしたものですぞ♪ そして妹には力ある者としての自覚と責任をしっかり教え、大好きな事もいっぱい学ばせましたぞ♪ ハルカは我らの種族の誇りでありますぞ♪ ……だからラインバルトさまや――。


 ――な、なんだよ……――。


 ――うちの妹は大事にして下さいね? マジで種族全体を敵に回しかねませんから――。


 ――り、りょーかいだぜ……――。



「なぁハルカちゃん」


「はい?」


 微笑みながら振り向くハルカ。


「……ハルカちゃんは、どんな船乗りになってみたいんだ?」



 ラインバルトも心なしか笑みを浮かべつつ、彼女に尋ねる。



「私はもちろん、船乗り皆さんを助けて癒せる海の白魔導士ですよ! もう皆さんを、何があっても喪わないようにしたいです!!」



 元気良く明るい解答を返すハルカ。もうすっかり、元通りのハルカちゃんだ。喪った仲間達を忘れる事無く前に進んだ、ハルカちゃん。眩しい笑顔に誇り高い海の白魔導士だ。



「ラインバルトさまは? ラインバルトさまはどんな船乗りを目指すのですか?」



 今度はハルカが尋ねてきた。



「……そうだなぁ」



 ラインバルトはしばし考え込んで、思いを巡らせてみる。


 ……俺はハルカちゃんに誘われて船乗りになった。未だにこれといった目的は無い。


 確かに無いんだが……でも、判る。自分はやっぱり、この大海原で一生を過ごしたかったのだ。眼を閉じて、思い浮かぶのは海で。自分は臆病なのに海賊をやろうとしたのも、海から離れたくなかったのだと。果てしない海を進むも良いし当ての無い漂泊も良し。どんな海でも海と一緒にいたかったのだと。



「俺は……」



 だから。彼女に告げる。



「俺はこの海で、大海原で生涯を終えたいな。ずっとずっと、海で生きていきたいな……

 ……これじゃ駄目か?」



 照れくさそうに、彼女に答えると、



「……その海には当然、私もご一緒致しますよ♪」



 ……彼女は迷い無く、彼に満面の笑顔で返したのだった。その屈託の無さは――海だというのに――清水のようにすっきりしたもので、



「……そうだな。ずっと一緒さ」



 彼に出来るのは、頭をかいて照れ隠しするぐらいだ。ハルカはそんな様子を見て、嬉しそうだ。



「しかし俺は海賊なんぞやろうとして失敗したなぁ……」


「ラインバルトさまに海賊は似合いませんよ」



 笑いながら、二人。実はラインバルトは折りをみてハルカと向き合って話した。最初の出逢いの時に実は略奪しにきたのだと。それに対してハルカは『でも略奪しないで一緒に私の仲間達を弔ってくれたではありませんか?』と返してきて。結局は二人の笑い話になっている。



「……いつか。タカマの国とかに行ってみたいかな?」



 海風を受け、ラインバルトは呟く。



「タカマの案内なら、私にお任せして下さい。美しい桜と椿の咲き誇る場所を案内しますね」



 ハルカは迷い無い。



「ははは、楽しみだ。

 ……で、誰がタカマまでの進路を決めるんだ?」



 ラインバルトの率直な疑問に、



「わ、私はちょっと苦手です……」



 ハルカは狼狽える。



「……じゃ、俺が船長だ。まぁ俺より良い奴や俺が不甲斐ない事したら、船長は交替だが」



 ラインバルトは苦笑する。



「じゃあひとまずはそれで! 船長!! 進路はどうします?」


「ハルカ、このままで次の島を探してくれ! 海図はそこそこ正確な奴があるし、羅針盤もある! 新しい航路の一つでも見つけてみようじゃないか!」


「了解です船長(キャプテン)!!」



 ハルカは笑顔で敬礼した。




 ――様々な冒険記録を残し新たな大陸や航路を発見して莫大な富と名声を得た伝説を残した船乗り『海王ラインバルト』。金銀財宝全てを彼は手に入れたが……一番最高の、そして生涯ずっと大切にした財宝は、『海の聖女』と讃えられし如月ハルカだったと今でも語り継がれている……。

ストーリーはここで一旦一区切りです。

ここまで閲覧していただいて誠にありがとうございました。


……でもまた再開しますけど。

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