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海王と海の聖女  作者: なつき
二人の馴れ初め
14/25

二人、一緒に

やっとハルカを取り返したラインバルト。

自分の事を気にするハルカに、ラインバルトはしっかりと自分の思いを伝えました。

 ……綺麗な夕日の沈む入り江の中に、帆船『だった』残骸が散らばっている。



「とりあえずお前の金を全部寄越せ。後お前ら全員首に付いた金は貰うぞ。そんでもってお前ら全員は鉱山に売り付けて一生働かせてやる。判ったな?」



 そんなどこか牧歌的な美しい風景の中、ユウキが葉巻を吸いながら半眼で船長の首根っこを掴んで不粋な要求をしていた。



「り、りょーかひ……」



 顔中青あざとこぶが出来た痛々しい顔で呻く船長。



「よし。なら許してやる」



 対するユウキは煙を吹きかけて――もはやどっちが海賊か判りゃしない事を言っていた。



「あ、あのお兄さま……。私は大丈夫ですから……」



 何とか健気にお兄さまをなだめようとするハルカちゃんだが。



「あん? 華の乙女をキズモノにしたんだ。これぐらいしねーと俺っちの気が収まるかよ」



 ユウキはしっかりとそう言い返したのだった。



「しかし……ハルカちゃんがオニヘビ種族とはな……」



 ラインバルトも小舟の上で、信じられない事実を受け止めていた。



「あ、はい――

 ……気持ち悪いですか?」



 視線を斜め下に落としながら、ハルカが尋ねる。ローブの裾を掴んで震えている事といい、知られたくなかった事なのだろう。



「ハルカちゃんはハルカちゃんだろ? 控えめだけど元気があって、海と船が大好きな如月ハルカちゃんだろ? それで十分だぞ」



 そんな彼女に、ラインバルトも本心を告げる。



「……そうですか? 嬉しいですっっ!!」



 ハルカは心からの笑顔を向けると、ラインバルトに抱きついた。



「おいおい勘弁――

 いや! マジで離れてくれハルカちゃん!! 見てる見てる! お兄様がすっげぇ殺意のこもった目と錨を持ってこっちを見てるからっっ!!」



 歓喜の顔で抱きついているハルカちゃんと、その背後でぱしぱしと錨を手のひらにぶつけて音を出してる半眼のユウキがいた。



「……ったく。まぁいい。今回は奴隷を買って里親探しは出来ませんでしたな……」



 何とか眸で謝罪していたラインバルトに対して、ユウキは深々と息をつく。



「奴隷? 里親探し?」



 ハルカのきょとんとした問いに、



「あぁ。今は色んな所から人がさらわれて売られている時代だからな……。こうやって裏から手を回して人を買い取って、大切にしてくれる所に売り付けているんだよ」



 ユウキは頭をかいてそう答える。なるほど、それがイブシェード兄ちゃんの言っていた人身売買の理由か……。以外とまっとうな理由があった事に驚きを隠せないラインバルトだ。



「いつものお兄さまですね」



 そんなユウキの話に、苦笑しながら答えるハルカだった。



「ところでよ。ハルカちゃんは船乗り仲間は見つかったか?」



 ラインバルトの質問に、



「……」



 ハルカは俯いて、答えなかった。



「……すまん」



 その様子で、ラインバルトは察する。



「ラインバルトさまは」


「ん?」


「ラインバルトさまは、私と一緒に船乗りをやってみませんか?」



 二人の間を、海風が吹き抜ける……。



「前も思ったが……何で俺を誘うんだ? 俺よりいい奴はいっぱいいただろ?」



 ラインバルトの質問は、至極まっとうものだった。他にいい奴や船乗り向きの人間なんかいっぱいいるのに何で自分なのか……? それは一番気になるところだった。



「ラインバルトさまは」



 最初に一言そう言ってつっかえて。ハルカは深呼吸して、



「ラインバルトさまはきっと大海原を冒険する姿が一番似合うからです。広い海が、果てしない蒼い海が一番似合う方ですしそれに――」



 一息でそこまで言って、一旦区切り。



「……これは私の身勝手なのですが、ただ単に私は貴方と一緒に大好きな海を旅してみたかっただけなのです。……ごめんなさい」



 ローブの裾を掴んで。俯くハルカ。



「……そうか。今の海は不漁だからな。どこ行っても変わらんか」



 そんな彼女に向き合って、



「いいぞ。俺が最初の船乗り仲間で」



 ラインバルトは頬を人差し指で掻きながら告げる。



「……?」



 ……最初、如月ハルカにはその言葉の意味が判らなかった。



「……」



 だからゆっくりと心の中で響かせて、隅々まで理解した。



「……!」



 そしてそれを理解したと同時に。彼女の顔が徐々に綻んでゆく。その様子はまるで、春に咲き誇る満開の桜のようだった。



「本当ですかっ?! 良いのですかっ?! 嬉しいですっっ!!

 ラインバルトさま! ハルカは世界一の幸せ者ですっっ!!」




 感極まって。ハルカ嬉し涙を浮かべてラインバルトに抱きついた。



「甘酸っぱいですね。

 ……あーユウキさん、ちょっと落ち着いて」



 今にも食い付きそうなユウキの肩を掴むイブシェードに、



「判ってますってぇ。妹が選んだ男なんですからなぁぁああっっ……!!」



 オニヘビのユウキは、錨を親指だけで握り潰しながらぎりぎり歯ぎしりしながら答えたのだった……。

甘酸っぱいです。

口から砂糖水がマーライオンできます。

幸せになれって言いたくなります。

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