表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海王と海の聖女  作者: なつき
二人の馴れ初め
13/25

彼女のお兄さま

遂に彼女の秘密を知ってしまうラインバルト。

そしてそんな時に彼女のお兄さまが……?

「まさか魔法使いとはな……どうりで一回捕まえたが逃げられたわけだ。だがもう終わりだぜぇ? その怪我じゃご自慢の魔法も使えないだろ?

 ……? 誰だお前?」



 矢が突き刺さったハルカと介抱するラインバルトを交互に見やりながら、船長は疑問符を浮かべる。その合間にもわらわらと海賊達が集結し、周り全てを囲まれてしまう。


 絶体絶命だ……! ラインバルトは絶望した。自分はまだいい。しかしハルカちゃんだけは護らないといけない。しかしどうすれば良いのか……?



「まぁ誰でもいいか。とりあえず死ね。そのムカつく亜人の商品もな!」



 クロスボウで狙いを定める船長と得物を構える海賊達。



「亜人……? ハルカちゃんがか?」



 しかしラインバルトには、恐怖より別の疑問が湧いてきた。



「あ? てめえ知らねぇのか? そいつは亜人だよ!! 上手く人間に化けてるが……蛇の化け物なんだよ!!」



 慌ててハルカの身体を眺めるラインバルト。良く見てみたら確かにそうだ。この白い蛇革のローブ、ハルカちゃんの身体にぴったりくっついている。対するハルカは青ざめ半泣きの、知られたくなかった事を知られて絶望している表情だ。



「しかしこんだけ痛めつけたら亜人としても売れそうにない。仕方ないが死んでもらうぜ?」



 はっと二人が気づいた時には。すでにクロスボウが構えられていた。


 そして矢が、飛んで来る。



「――!」



 覚悟して双眸を閉じるハルカ。


 ……しかし。いつまで経っても激痛は来ない。



「……?」



 恐る恐る眸を開いて見ると、そこには矢を腕に受けたラインバルトがいた。



「ラ、ラインバルトさま……? どうして……?」


「お前らに一言言っておく……」



 ハルカの問いにラインバルトは答えず大きく息を吸って、



「ハルカちゃんは商品でも化け物でもねぇぞ馬鹿共がっっ!! てめえらみてーな人でなしが!! 人生台無しにさせていいような娘じゃないんだよっっ!!」



 思いっきり。怒鳴り返したのだ。



「まぁいいや。とりあえずお前も死ね」



 しかし海賊には通じない。クロスボウに矢をつがえ、再度死を告げられた。



「……すまねぇハルカちゃんよ……俺はこんな事言い返すだけで精一杯だ……! 本当にすまない……!!」



 ラインバルトの眼から、悔し涙がぼろぼろと落ちる。ハルカは「ラインバルトさま……」と呟いて彼にしがみつくだけで、何も答えない。



「おやおや? なァんの騒ぎですかいな?」



 腐敗したパンのようなねちっこい声が飛んできたのはそんな時だった。



「オニヘビか?」



 ラインバルトが振り向き尋ね、



「……もしかしてお兄さまですか?」



 ハルカが双眸をぱちくりしながら振り返る。



『へ?』



 全員の声が重なり、そしてゆるゆると一点に視線が寄る。



「おぉ良く見れば妹よ。元気か? 手足は長いか?」



 見ればそこには。葉巻を吸う一匹の蛇――オニヘビのユウキがいた。


 いや。問題はそこじゃない。



「あ、はい。私は今人間になれましたから手足は長いですよ」



 妹? 今何て言った? 妹って言ったのか? 妹……妹?

 ハルカちゃんが……あの、オニヘビの――妹……!!


 ぐるぐる渦巻く思考が一つの解答に至った時、この場にいるハルカ以外の全員が。だらだらと脂汗をかいて震えていた。



「そうか、お前も一人前か。それは何よりだ――

 ってちょっと待てお前、その怪我はなんだ?」



「え、あ! いや違うんですお兄さまこれは別にっっ!!」



 怪訝そうなユウキに、ハルカは胸元を押さえて慌てる。しかしこれはいけない。真実を告げたようなものだからだ。



「……そうかそうか。つまりはあれか? ドーマさぁんよぉぉおお!! あんたらうちの妹をさらっただけじゃなくてぇぇええ、乙女の身体をキズモノにしたと!!」



 うんうんと怒りの青筋を浮かべながら頷くユウキ。刹那、雷火のような魔力がオニヘビの身体から迸り。海賊船の甲板を破壊してゆく。


 逆巻く空気と迸る雷火の中で双眸を細めていたラインバルトは確かに見てしまった。


 オニヘビが――あの蛇みたいな奴が、何と筋骨逞しい青年の姿に変貌を遂げたのを!



「ドーマさぁぁんよぉぉおおっっ! ひぃとつ言うぜぇぇええっっ!!」



 魔力の嵐が止んだその場所で、人間の姿になったオニヘビがマストを思わせるような太い腕で葉巻をポイ捨てし、



「俺っちの妹に手ェ出したんだ!! あの世に逝けよ腐れゴミ虫野郎共がぁぁああっっ!!」



 石畳のような分厚い胸板を反らせて高らかに、死刑宣告をした。


「ひ、怯むな!! こうなったらやけくそだ!! 殺せぇ!!」



 完全な恐慌状態だが、何とか命令する船長。それに応えてか船員達も、ピストルを構え発砲する。


 しかしユウキはグラサンを人差し指で上げてなおすと、丸太のような脚で横蹴りを放ち――何とマストを蹴り砕いたのだ。



「……は?」



 全員大口を開けて絶句する中で、ユウキはロープを引き千切りマストを振り回し弾丸を打ち落とした。



「てめぇらぁぁああっっ!! 全員死ねやああっっ!!」



 思いっきりマストを振り下ろして甲板と船室を破壊するユウキ。



「ぎゃああっっ!! 無茶苦茶だぁぁああっっ!!」



 そして逃げ惑う海賊連中。ユウキはまさに凶戦士の如き気迫で、マストを振り回して船を破壊し尽くしてゆく。



「ど、どうしましょうか……」



 ぐるぐるお目々ですっかり狼狽えるハルカの問いに、



「んなモン判るか! とにかく逃げるぞ!!」



 ラインバルトは叫ぶ。



「って逃がすかぁ!」



 その時一人の海賊が二人に迫るが。ドンッという音と共に甲板に沈む。



「大丈夫ですか? ラインバルトさん?」



 見上げたそこには。あのイブシェード青年が銃を構えて立っていた。



「ああすまねぇ兄ちゃん助かったよ……!」


「怪我は酷いようですが何よりです。

 ……それより何故ユウキさんが暴れているんですか?」



 不思議そうなイブシェードの問いに、



「もしかしてお兄さまの知り合いですか?」



 ハルカがきょとんと尋ねる。



「え? 妹ですか?」



 イブシェード青年、咥えていた煙草がぽろりと口から落ちる。



「はい。私はユウキお兄さまの妹の如月ハルカと申します」



 深く頭を下げるハルカに、



「俺はユウキさんの知り合いで錬金術師のイブシェード・バガーだ。……確か昔、ユウキさんには妹がいるとは聞いていましたが……そうでしたか。ドーマの連中め、俺のお客さんだけじゃなくてユウキさんにまで喧嘩を売るとはとんだ貧乏くじを引いたものですね……」



 状況とハルカを交互に見ながら、イブシェードはもう一度煙草に火を点けようとして何度か失敗しながら諦めて。深々と嘆息した。もっともイブシェードは女子供の前では煙草は吸わない主義だったから、いかに動揺していたか判る瞬間だった。



「とにかくそれなら止まらないでしょう。今の内に脱出しますよ」



 イブシェードは親指で先を示す。



「死ねやああっっ!」



 ……向こうでは。ユウキがまだ暴れていた。



「い、嫌だぁ! もう勘弁してくれぇっっ!!」



 完全に血の気の引いた青ざめた顔で、船長はぶんぶん首を左右に振る。



「ほー……。嫌か?」



 ユウキは左目を歪め右目を見開いた左右非対称の顔で尋ねる。



「い、嫌だ! もう勘弁してくれ!!」



 涙を双眸に湛えて、更に首を振る船長。



「そうか……マストは嫌か……」



 しかしユウキ。何を勘違いしたか、マストを振り下ろして船首を破壊すると『それ』を空中に打ち上げた。頑丈な鎖に繋がれた半円形の金属の塊――それは間違いなく、船の錨だった。



「んじゃ錨ならいいよなぁ?! マストじゃ無くて錨ならよぉぉおおっっ!!」



 落下した錨の鎖を踏み砕いて、今度は錨を担ぐユウキ。



「そっちじゃねぇぇええっっ!!」



 完全に抜けた腰で、脱走を図る船長及び船員達。



「贅沢抜かすなクソ野郎共がぁぁああっっ!!」



 そんな可哀想な連中に、ユウキは文字通りの錨を強大な怒りを込めて何度も何度も叩きつけたのだった……。

彼女のお兄さまはこのストーリー最大の見せ場の一つです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ