再会、そして、危険
やっと再会出来た二人。
でも一難去ってまた一難です。
チャムチャックという烏に付いてゆき岸にあった小舟をこっそり拝借し。ラインバルトは今、カルク船の死角に隠れていた。
「ご主人の居場所はここか? チャムチャックとやら?」
「ぐけけけけっっ!」
「……どうもよく判らんがここみたいだな」
ラインバルトは船の縁を見上げながら呟く。この烏の言葉は自分には判らないが……烏は間違いなくこの帆船を見ていた。
(唯一気になるのが、こいつが飛び立とうとしないところぐらいかな……)
確かあの兄ちゃんはこいつに「ご主人の居るところに連れていってくれ」と頼んだはずだ。ここにあのオニヘビがいるのなら気配を感じて飛び立っても良いのに……。
「まぁいいや。とにかく乗り込むか……」
そう呟くと、ラインバルトは小舟に隠されていた鍵縄を手に取り。ひゅんひゅんと風切り音と共に振り回して力を溜める。
「こういった物は使い方がいまいち判らんが……仕方ない」
少し自信無さげに呟きつつも、ラインバルトは鍵縄を縁に向かって投げ込んだ。初めてにしては上手くいったみたいだ。縄を引いても落ちないのを見て安堵する。
「よし。登るか」
ラインバルトは鍵縄を辿って甲板に上がる。
甲板に見張りがいるのかと思ったが……誰もいなかった。
(……こんな大きい船なら船番とかいそうな物なんだがな……?)
自分の想像していた状況と違い、ラインバルトは首を傾げた。まぁでも、いないならいないで構わない。こっそり忍び込むには適していると、ラインバルトは先を進む。この船は初めてだが……間取りはあのオンボロ貿易船を覚えていたのである程度なら判る気がする。
「……? なんか騒がしいな?」
ラインバルトは甲板を進みながら眉根を寄せる。良くは判らないが船内で何か起きているような、ざわざわした空気がある……。この雰囲気は漁の時に感じる海鳥や魚のそれに似ていた。
(乱闘でも起きてるのかな? 船乗り連中は酒が入ると暴れる奴も多いからな)
それならそれでますます好都合だと、ラインバルトはそっと先を急ぐ。
刹那。船内に向かう扉が勢い良く開かれ。
「もう! しつこい人達です!!」
小柄な少女の影が飛び出してきた。
「ハ、ハルカちゃん?!」
ラインバルトはその影に向かって名前を叫ぶ。そう、宝石のように艶やかで長い黒髪の見知った美少女は間違いなく如月ハルカだった。
「ラインバルトさま?! どうしてここにいらっしゃるのですか!?」
ローブの襟元を押さえながらハルカが驚愕する。それはそうだろう。一般人がこんな所まで来るはずなどないのだから……。
「ハルカちゃんが海賊にさらわれたって聞いて追いかけて来たんだよ!!」
走り寄りながら叫ぶラインバルト。
「何て無茶をするんですかっ?! 一歩間違えたら死ぬかも知れないんですよっっ!!」
咎めるハルカに、
「それでも放っておけないだろっっ!!」
ラインバルトは渾身の勢いで叫び返した。
「ハルカちゃん無事か……? って怪我が酷いな……!!」
辿り着いた彼女の全身を見て絶句するラインバルト。無理もない。ハルカはローブの下からぽたぽたと大粒の血液を滴り落としていたのだから。
「大丈夫です。さっき捕まりかけて何とか逃げ出しただけですから……」
弾む息を静ませながら。ハルカは答える。かなり怖かったのだろう、顔色も優れない。ラインバルトはそれを感じつつ離れた事を後悔した。
「いや大丈夫じゃねぇだろ? あいにく傷薬とかは無いけどよ……早いとこ脱出して治療しよう」
ラインバルトは親指で先を示して促す。
「そうですね。先を急がないと――」
その瞬間。ハルカの肩に矢が突き刺さる。
「ハ、ハルカちゃん?!」
肩を押さえて崩れ落ちるハルカを慌てて介抱するラインバルト。うぅ……っと激痛に顔をしかめるハルカはとても痛々しい姿だ。
「へっへっへ……やっと追い詰めたぜぇ……!」
刹那。声が響く。
厭らしい声のした扉の方を向くと、そこには海賊の親玉らしき奴がクロスボウを手に立っていた。
ピンチがいっぱいです。