その男護るべきものを見つける
お待たせいたしました。今年度初の投稿となります。
「こんな光景も今となっては懐かしいな……」
泣き続ける幼子を持ち上げ、軽くあやすと泣きつかれていたのかすぐに眠ってしまう。
次に気絶した少女を介抱する。
どうやら右足を捻ったようで足首辺りがかなり腫れているようだ。
その他には特に目立った怪我はないようなので近くにあった毛布を何枚か使い簡単な寝床を作る。
この馬車には多少の衣類や食べ物が積まれていたようだが他には目立つ物はない。
使えそうな物を少女と幼子を寝かせた寝床に一緒に纏めておき、遺体となった他の人物達を確認する。
1人だけ恰幅のよかったであろう男以外は軒並み貫頭衣だけの服装だったようだ。
身分の高そうな男の遺品からはいくつかの硬貨のはいった袋と短剣のような物を頂戴した。
死んでしまえば皆同じなので馬車にあった板を使って遺体を埋葬するための穴を掘っていく。
この体のお陰か1時間もしない内に人間の遺体が全て入る程の穴が出来上がったのだが……少しだけ気になる事を見つけた。
1人以外全ての遺体に刺青のようなものがあったからだ。
大体の想像はつくが後で少女に確認すべき事だろう。
一纏めに遺体を穴に埋葬すると、目下の問題でもある《ゴブリン》であったものを拾っていく。
実はこのゴブリン達、倒して暫くすると黒い石の様な物に変わってしまったのである。
気になって確認した時に表示された文章がこれだ。
魔石 G級
モンスターを倒した場合に残されるアイテム。倒したモンスターにより等級が変わる。マジックアイテムなどに使用する事が出来る。
よく分からないがどうやらある程度価値があるものらしい。
身の回りの物がほとんどない今、あるに越したことはないだろう。
目についた魔石を集め終わると荷物を纏めた場所へと戻ることにする。
毛布に包まれた少女は未だ意識は戻っておらず幼子もよく眠っている様だ。
使える日用雑貨と貴金属を破れた幌で作った袋に包むと俺は2人を毛布と共に彼女達を持ち上げ水場へと向かう事にした。
道中何事もなく水場へと着いた俺は2人を降ろすと布の中でも綺麗なものを持ち水場で洗う。
多少湿り気を残した布を少女の足首に巻いていると痛みのせいか少女が目を覚ました。
「……痛っ!……あれ? ここは ⁉︎ 」
朧気な意識のまま辺りを見渡す少女が俺と目を合わせた瞬間、俺は彼女の口を指で軽く押さえる……悲鳴で幼子に起きられても困るしな。
「むぐっ ⁉︎ むぐぐ……」
「悪いが静かにしてくれるかな? 先程この子も寝てくれたばかりだ。今はゆっくりと寝かせてあげたいんだ。言葉が分かるなら頭を縦に振ってくれるかな? 」
よく考えたら言葉が通じるかどうか試していない事に今頃気付いた俺だが、どうやら理解できたのか少女は多少震えながらもはっきりと頭を縦に振ってくれた。
「いい子だ……では手を離すが大声は勘弁して欲しい。私は2人に危害を加えるつもりは全く無い。出来れば君達が何故倒れた馬車に乗っていたのか、それと君達は一体何者かを教えてもらいたい」
俺がゆっくりと口から手を離すと怯えていた少女は戸惑いながらも俺の質問に答えてくれた。
どうやらあの馬車は商品として人間を輸送していた奴隷商人の馬車らしい。
彼女は今年不作になった村で税金を払う事が出来ない家族の為にその身を商人に売ったという話だ。
幼子は同じ境遇の村人が手放した子供らしい。
少女達を買い取った奴隷商人は他の村でも何人か買い上げたらしく、そのまま大きな街へと売りにいく所だったようだ。
ただ、急ぐあまり通常通らないこのような場所を護衛も付けずに走っていた為ゴブリン達に襲われてしまったらしい。
逃げ惑う馬車は道とも呼べないこのような場所で無理に走ってしまった為に横転し、逃げ惑う奴隷達はゴブリン達の餌食となってしまったようだ。
横転した時に、2人は気絶してしまったようでその場に倒れていたのが不幸中の幸いとなって生き延びたのだろう。
意識を取り戻してからは隙間から辺りの様子を見て逃げるタイミングを伺っていたようだ。
「隙を見て逃げようと思ったんですけど、急にゴブリン達が騒ぎ出したので確認してみると凄い音を立てながらゴブリン達が吹き飛ばされるのを見てもう助からないんだ……って」
……どうやら俺がゴブリン達を倒す場面を見て助けが来たというよりもさらに凶悪なモンスターが来たと思ったらしい。
「まぁ、この見てくれだから仕方がないな」
頭の角をさすりながら俺は苦笑いをしているだろう口元を出来るだけ優しくするように努力する。
「あの……あ、あなたはモンスターではないのですか? どうして私達をたすけてくれたんですか? 」
多少は落ち着いて来たのか恐々としながらも少女は俺の目を見て問いかけてくる……強い子だな。
「モンスターか……そうかもしれんな。君も見ていたのだから知っている事を承知の上で話すがあのゴブリン全てを倒せる程度には強い。だが、だからといってあいつらと同じ扱いにされるのは悲しいな。私には知性があり、あの様に何も考えずに本能だけで生きているつもりはないからな」
俺の言葉に少女は頷きながら更に質問をしてくる。
「そうなんです。モンスターが人と会話出来るなんて村でも聞いた事がありません。ですから不思議なんです。あなたはどうして私達を助けてくれたんですか? 」
やはりそこが1番聞きたかったのだろう……真剣な表情でこちらを見つめる少女に俺は嘘偽りなく本心を彼女へと伝える。
「子供が困っていたら助けるのが大人の仕事だ。少なくとも私は目の前で子どもの命が失われるような理不尽な状況は許せそうにないからね」
孤児院を経営してきた俺の本心からの言葉に少女はしばらくの間呆然とした後、大声で泣きじゃくる少女の背中を優しく撫でながら俺はこの2人を守っていこうと心の中で誓うのであった。
次回投稿も知人の確認後となります