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その男異世界にて実戦する

異世界の初戦闘はっじまるよー

「ふぅ……どれも美味かったな。」


 調べた食材をほとんど食べてしまったのだが、どの食材も美味しくいただけた。


 固そうな物や調理の必要な物もあったがどうやらこの体はかなり丈夫なのか一向に問題になるような症状は出ていない。


 若干食い足りない気はするが明日の為にも残しておかないといけない為少しだけ食材を残してある。


「それに……少し気になる事も出来たしな」


 風上から臭う嗅ぎ慣れた血の匂いに、俺はこれからどうするかを少しばかり思案するのであった。




 唐突だが、現在の俺の姿は真っ裸である。


 食糧や水を第一に考えていた為出来るだけ考えないようにしていたのだが、これからの事を考えると些か問題である。


 食材を探していた時に大きめの葉や縄代わりになりそうな蔦なども集めていたのでそれで腰蓑のようなものも作っておいたが、側から見ると限りなく蛮族にしか見えないであろう。


 武器になるような物も探しては見たが、枯れ木や石程度しか見つからなかったので残念ながら素手のままである。


 血の匂いを風下から出来るだけ音を立てないように近づいていくが、どうやらかなりの惨劇があったようだ……


 かなりの量の血が流れ出たのであろう。


 移動を始めると周りから感じる気配も少しずつ多くなっている気がするが、多くの気配は身を潜めて動く様子がない。


 段々と隠れる場所が少なくなってきた山岳で俺は漸くお目当ての場所を視界に捉えるのだが、それは俺が異世界へと来たことを実感させるに相応しい光景であった……




 横転し幌の破れた馬車の近くに7人ほどの人であったろう死体が大量の血を流している。


 その死体に覆いかぶさるように30体以上の子供ぐらいの大きさの生き物が我先へと顔を埋めている……辺りを伺いながらどうしてこうなったのかを確認してみるがさっぱり理由が分からない。


 原因が分からない以上無理な行動をしたくはなかったのだが、破れた幌から『それ』が見えた瞬間俺は即座に目の前の脅威を排除する事に決めた。




 夢中に死体を貪る生き物達の風下から気配を消して一気に近づく。


 五体程が固まっている場所の一体の頭部を走る勢いのまま踏み潰す!


 踏んだ脚を起点とし回転しながら残りの生き物達を蹴散らすと動揺している近くの群れへとそのまま突撃する。


 動けない一体の頭部を鷲掴みにするとそのまま地面へと打ち付ける。


 鈍い音とともに痙攣するそれを他の群れへと投げ捨ていち早く逃げようとする一体の足を掴みそのまま振り回していく。


 悲鳴をあげる肉の塊をそのまま仲間達を打ち払う武器として打ちつけ、振り下ろしている内に約半数以上が物言わぬ骸となる。




 残り16……いや17体となった生き物、それらには『ゴブリン』などと表示が出ているが今の俺には関係ない。


 今の俺が優先する事はただ一つ。


 この生き物達が幌の中にいる『子供』へと向かわせないだけだ。


 俺を敵だと判断したゴブリン達がようやく手に武器を持ち此方へと向かってくるが、俺としては倒す敵が武器まで用意してこちらに死にに来てくれているだけでしかない。


 槍を構えて走り込んでくる奴に対しては逆に踏み込むことで間合いを潰し、槍をこちらに引くと同時にその驚く顔に向かい膝を放つ。


 カウンター気味に入った膝は顔面を陥没させこちらへ向かってきていたゴブリン達へとお返しする。


 手に取った槍はただの木でできた槍の為、一番近い奴へ投擲する。


 軽く投げたつもりだが、激しく風を切る音とともにその槍は胴体を貫き後方へと吹き飛んでいく。


 三匹同時に短剣のようなもので襲い掛かってきた奴は突き出してきた短剣の側面を打つ事で力の向きを変え、互いに刺さるように調整していく。


 お互い仲間同士で刺し合う状態に混乱するゴブリン達を一纏めに蹴り飛ばすと、流石に不利な状況を悟ったのか目に見えて動きが止まる。


 久々の戦闘にどこか歯がゆいものを覚えながら俺は、烏合の衆となった残りのゴブリン達を殲滅していくのであった。







「参ったな……力の『練り』が甘い。単純に力を制御出来ていない証拠だ。修正していかないとな」


 辺り一帯から死臭を漂わせながら俺は先程の戦いを反省している。


 この体思った以上に力が強く、思い通りに動かない。


 鬼牙流は戦線を制御しながら戦う為、己自身を完全に制御する事が大切なのだがこうも元の体と違うと扱い慣れるのに時間がかかりそうだ。


「辺りに気配は……なし。ようやく本題に入れそうだな」


 考えながらも警戒だけはしていたのだが特に反応はない。


 それどころか留まっていた気配さえこの場から離れているように感じる。


 破れた幌から見えたものは間違いなく子供の手であった。


 しかも震える手で更に小さな『何か』を抱きしめていたように見える。


 孤児院で働くようになってから引き取る子供達がよくそんな状態だったので見間違える事はないだろう。


 問題があるとすれば俺自身の姿なのだが……そこは勘弁してもらおう。


 俺は倒れた馬車にゆっくりと、出来るだけ怯えさせないように近づいていく。




 あと2、3歩で到着する状態になっても中の様子は変わらない。


 小さく震える吐息が2つ……吐息の長さやその音から2人というのは間違いないがどこか体に異常があるのかかなり息が乱れている。


「そこに2人いるのは分かっている。私には君達を害するつもりはないが見た目が普通ではないのでな。怯えさせるつもりはないがそこは容赦してもらいたい」


 俺はそう言うと馬車の中へとゆっくりと向かっていく


「…… ⁉︎ 」


 中の子供達が硬直する様子がこちらにも伝わってくるが安否に問題がある為これ以上時間を無駄にするつもりはない。


 横転しかなり損傷の酷い馬車の幌を出来るだけ丁寧に破き太陽の元、中の様子をようやく確認出来たのだが……


「はわわわわわ⁉︎……キュウ!」


 10歳前後の少女が幼子を抱えながら震える瞳で俺の顔を見て……気絶した。



「ふぇ!ビェェェェ!」


 気絶した少女に抱かれた幼子はそのまま大声で泣き叫び始める……




 よく考えたらゴブリンとの戦闘の所為で俺の体は返り血で真っ赤である。


 鬼以前に人としても駄目な姿であった。




 気絶する少女と泣き叫ぶ幼子を見ながら己の失態をどう挽回するか途方にくれる状態がしばらくの間続くのであった。































今年はここまでとなります。


来年も宜しくお願いしますね

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