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その男神より啓示を受ける

おぉ鬼牙よ、死んでしまうとは情け無い。

「全く、困ったもんだよ……何でこんな事になっちゃうのかな」


 全ての感覚を失った筈の俺の耳に呆れたような声が聞こえる。


 おそらく十代前半であろう少年らしいソプラノ調の高い声は今まで聞いた声の中でも最上級のものだろう……しかし、何故死んだはずの俺にこのような声が聞こえるのか? 死後に聞こえるという事は死神か、或いは地獄の鬼の声なのかも知れない。


「あのさぁ、気がついたならそんな事を考えるより普通は辺りを見渡さない? 何でそんなに冷静なのさ」


 どうやら此方の動きは完全に把握されているようだ……しかも思考まで読まれているのかも知れない……あの世とやらではこれが普通なのだろうか? 取り敢えず全身の確認は終わったが、どうやら感覚以外に反応がない……声の持ち主の居場所すら今の状態では分からないようだ……仕方がない、最後の感覚である視覚を使おう。


「それだけの判断を1秒も掛からず出来るのは素晴らしいけど、どうしてそんなに不満気なのかな? しかも君呆れているよね。どういう事? 」


「不満気なのはここが地獄ではないから。呆れているのは目の前の少年がおそらくこの状況を説明できる『立場』の人物だから」




 蒼穹の空の下で咲き誇る花々……そしてその中に佇む金色の髪の少年に視線を向けながら、俺は半透明になった己自身の姿に多少の動揺をしながらも返答する。


 金髪の少年は見た所小学生といった所か……しかしながら南国の海のような瞳には少年らしさが全く感じられない……大体、地平線すら見えないこのような場所が普通であるわけがないし天国と言われても納得できる光景ですらある。


「残念ながら天国ではないよ。此処は僕が臨時で作り出した仮初めの世界。今回のようなイレギュラーの場合にしか存在しない所さ」


 溜息を吐きながらこめかみを抑える少年の姿に孤児院経営を継いだ頃の自分を重ねてしまい懐かしさを感じたものの、予想以上に不味い立場となった己の立場に俺は意識を集中する事にする。


「イレギュラーという事は地獄ですらないと言うことかな? まぁ仕出かした事を考えれば当然かも知れないが……何故そこで私を睨むのかね? 」


 顎に手をやりながら少年に対して俺自身の考えを言っただけなのに上目遣いで睨んでくる少年。


「そんな考えだからややこしい事になったんだよ! 君、このままじゃこの世界にいられないんだからね! 」


 ……どうやら俺の考えはおかしいそうだ。




「大体天国に行けるレベルの善行を行なっているのに自分の考えだけでそこまでマイナスになる人なんて今まで見たことも聞いたこともないよ! 」


 そんな文句を言いながら手に持ったシュークリームを食べている少年に少しだけ申し訳なさを感じながらも俺は少年の言葉を聞き続ける……因みに少年が食べているシュークリームはいつの間にか存在していた。


「自分の財産を全て孤児院に使い数多の子供達を救うどころか、虐待されている子供を法的に自分に親権を移すようにしたり闇取引で扱われていた子供達を物理的に取り戻したり……一体何でこれで天国に来ないのさ!」


「いや、私はそれ以上の人達を不幸にしてきた。それだけで十分地獄行きだろう……私が知る限りでも3桁ではきかない人数が亡くなっているのだ。当然だろう」


「あのね? 君は戦争だから相手を殺したんでしょう? そういう場合は計算に入らないから! 勿論私利私欲の為に人を殺したら重罪さ。でもそんな事を言ってたら英雄と呼ばれる人達全員地獄行きだからね! 神様になるような英雄もいるのにそんな理屈は通らないから」


「だとしても私は自分が許せない。自分の手は血に染まり続けてきた。そんな自分が許される事は断じて私が許さない」




 孤児院で涙を流すまで俺には感情の機微というものがどうしても分からなかった。


 幼き頃からの修行の所為か、元々そういう風だったのかは定かではないが軍人として相手を殺す事に躊躇は無かったし、傭兵として働いていた時にも相手に慈悲を覚える事は一切無かった。


「それでも無抵抗な人や一般市民を巻き込んだ事は一回もなかったでしょ? 調べた所、君が感情や欲望の為に人を殺した事が一切無いから何回も見直すぐらいだったんだけど……」


「軍人が軍律を守るのは当然だろう。一般市民や捕虜に対しての暴行など許されるものではない」


 当然の事を言っただけなのに少年から非難の眼差しを送られる……理不尽だな。


「はぁ……結局の所、その取り戻した感情の所為でこうなっちゃったんだけどね。君のその強烈な意思のせいでこの世界に歪みが生じてしまったんだよ……全く、人の身でありながらこの世界にすら干渉してくるなんて本当に異常だよ」


 お手上げの様子を身振りで示してくる少年に申し訳なさを感じてしまうものの、恐らく変わる事のないだろう己の在り方を自覚しながら俺は少年に対して提案を試みる。


「それならばいっそのこと私を消してしまえば良いのではないか? 私としてもこの世界に対して悪い影響を与えたままでいるのは心苦しいものもあるしな。悪い提案ではないとは思うが」


 その言葉を言った瞬間、少年の雰囲気が一気に変わる!


 ……これ程の『圧』は今まで感じた事がない……どうやら俺は虎の尾を踏んでしまったようだ。


「馬鹿言わないで。簡単に消すなんて言葉を今後一切使わないように。僕はこの世界を気に入っている。この世界に生まれた全てをだ。君だってその中の1人だからね? 」


 少年はそう言うと空を見上げるように顔を上に向ける。


「僕は君に幸せになって欲しかったけどどうやら君はそうじゃないようだね。自分の為に生きる事のなかった君の人生は僕から見てもおかしいのに、君はそんな人生がどうやらとても気に入っているようだ」




 俺は少年の言葉を聞きながら己の人生をふりかえる。


 稽古と勉学だけを教わり続けた幼少時代……父は厳しく母は容赦がなかったがそれでも俺には良くしてくれたと思っている。


 上からの命令により世界各地の戦域で戦い続けた毎日……無理難題とも言える命令を仲間と共にやり遂げた自分に悔いはない……軍律を違反するような命令は命令自体を取り消させたしな。


 某国に渡ってからの傭兵時代は知人が依頼を選んでくれたお陰で全ての依頼を達成する事が出来た……大方の依頼がテロ活動や犯罪者達の襲撃だったのは彼女の好みだったのだろうか?


 そして孤児院で働く事となったあの時から俺は過去の過ちを清算すべく未来ある子供達を育てていく事を決意した……才のある子達にはその才を磨ける場所を準備し、才がない子であろうと生きる事が出来るように最低限の教えを受けさせたつもりだ……その内の何人かには鬼牙流の護衛術も教えている。




「改めて見てもおかしい人生だね? だけど君にとっては満足出来る人生だったんだね」


「当然だ。やり残した事に悔いはない。あるとすればやった事に悔いがあるだけだ」


 こちらに視線を戻した少年に対して俺は己の本心を告げる。


「そっか……そうするとこれしかないよなぁ」


 少年はそう言うと真剣な表情で俺を見据え、威厳ある口調でその言葉を告げる。




「汝が殺した人間の数だけ異形の身にて人を救うがよい」









取り敢えず知人に呼んでもらってから次回を決めたいと思います。

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