ある男の人生
ある人物より提供された設定にて作られた小説となります。
誤字脱字があるかも知れませんがお許しください。
「まさかこんなに長生きするとはな……」
枯れ木のような手を目の端に捉えながら、俺は今までの人生を暗い感情と共に思い出していく。
農家の末っ子として生まれた俺は生まれてすぐに養子に出された。
俺を貰い受けた家は軍人として名を馳せていた名家であったが、子供に恵まれずに苦労していたらしい。
やっとの事で出来た子供も生まれて直ぐに死んでしまったそうだ。
消沈する妻を見ていられなかった夫は、同時期に生まれた俺の事を聞きつけたらしく俺を養子として迎え入れ妻を慰めるつもりだったらしい。
しかし、我が子を亡くした妻はその時既に心が壊れてしまっていたのだろう……
夫が連れて来た子供を我が子として受け入れてしまった。
そうしてこの俺、『鬼牙 蓮十郎』は鬼牙家の長男として人生を歩む事となったのであった。
軍人として数々の武勲を上げてきた鬼牙家の長男としての人生は波乱万丈だった。
幼き頃から鬼牙家直伝の技を覚えるべく父親からの情け容赦のない組手を朝から晩まで受け続ける。
夜になると母親から文字や礼儀作法を教わるのだが、微笑みを絶やさず教え続ける母親に幼き頃の俺は父親よりも恐ろしさを感じたものだ。
エリート街道を進み続けた俺は当然のように軍学校に進んで行くわけだが、ある戦争により俺は人生の岐路へと立たされる。
士官としての初めての戦争にて小隊を任されていた上官が戦死した時、俺は軍刀一本で小隊の殿を務め逆に相手の大将まで殺してしまったからだ。
1士官として異例の戦果を上げてしまった俺は軍上層部の目に留まり、《特殊兵団》としてその後の戦争に加わるようになる。
陸軍、海軍を問わず戦場へと送られた《特殊兵団》だが、ある意味一騎当千とも言える人物達が集まった俺達は敵側からは恐怖の対象として恐れ続けられてきた。
鬼牙家の武術は戦場にて作られた流派らしく、武器を選ばす無手での技も多い。
しかも多数の相手をする事を前提としており、敵すらも己の武器として使う俺の姿は『鮮血鬼』と恐れられていた。
しかし次々と起こる戦争の最中に1人また1人と仲間達は失われ、終戦を迎えた時には《特殊兵団》も3人しか残っていなかった。
戦時中に両親を亡くした俺は、戦後知人の伝手により某国へと渡っていくことになる。
某国にて新たな人生を歩み始めた俺だが、平穏な人生とはいかず傭兵として更なる闘争へと進んでいくことになる。
数々の戦場を渡り歩く事となった俺は知人の創設した傭兵団の団長として多大な戦果を上げていく。
毎日が血と銃弾に染められた人生が終わりを告げたのは50代後半の時であった。
傭兵団を去る事となった俺に残されたものは見るのも億劫になる程の桁となった預金と空っぽになってしまった己自身である。
戦場であれ程生きている事を自覚できる毎日を過ごしてきた俺にとって、どうやら平和な世の中というものは合わなかったようだ。
悩み抜いた末にたどり着いた結論は、祖国に戻り無くなった両親への墓参りである。
終戦時に死亡扱いになっている俺は祖国へ帰国すると驚きを禁じ得なかった。
終戦時には焼け野原となっていた祖国がまるで違う国のようになってしまっていたからである。
とても敗戦国とは思えない様を見せられながら俺は元実家である鬼牙家の墓へと向かったのだが、其処は既に更地となり何も残されてはいなかった。
どうやら俺が死亡扱いとなった時点で鬼牙家は政府により無かったものとされたらしい。
拝む墓すら無くなった俺はその状況に呆然としながら某国へと戻るかどうか思案していた。
丁度その時に目に入ったものが俺の人生を変えていく事となる。
『茜孤児院』
元鬼牙家の家であったものが孤児院として使われている様を見てしまった俺は誘われるようにその門の前へと歩いていく。
其処には十数名の子供達と1人の若い娘が楽しそうに遊んでいる姿があった…
「みんないい笑顔でしょう? 」
いつの間にか隣に立っていた老人が笑いながら俺に問いかけてきた事に俺は驚きを覚えながらも、自然体であり続ける老人に敵意を感じ取れなかった為、小さく頷き話しかける事にする。
「孤児院の子供達だというのに皆楽しそうですね。どうやら此処はとても良い環境のようだ」
俺の言葉に微笑みながらその老人は子供達を見守りながら言葉を返してくる。
「元々此処は軍人さんのお屋敷だったのですがね、一族の方々が皆お亡くなってしまい国の預かりとして売りに出されていたんです。それを私が買い上げてこの孤児院を始めた訳なんですよ。妻と共に身寄りの無い子供達を見守っていきたくてね」
照れ臭そうにいう老人の話に俺は今まで覚えたことのない感情に包まれながら老人の話を聞き続ける。
個人で海外貿易をしていた老人夫妻は戦後の好景気の波に乗って大きな会社を持つまでになったらしい。
その会社を自分の子供達に引き継ぐと共に余生をどう過ごそうかと考えていた時にこの館を見つけたのだそうだ。
元軍人の屋敷であり、ある意味曰く付きであるこの館はそれまでずっと売れる事なく残っていたらしい。
余生をのんびりと過ごしたい老夫妻はこの館を孤児院として経営しながら子供達の成長を見守って行く事を選んだというのだ。
「どうしてそこまで出来るのですか? 貴方達は余生をゆっくりと過ごしたいと思っていたはずでしょう? なのに何故このような大変な事業に手を出すのですか」
自ら苦難を選ぶ老人の考えが分からない俺は、色々な感情が自分の中に湧き上がる事を自覚しながら強い口調できいてしまう。
「どうしてかと聞かれても……ねぇ? 老い先短い私達が未来ある子供達を見守るのは当然の事じゃないですか」
当然のように答える老人の言葉に俺は直接脳を叩かれたような衝撃を受け、まじまじとその顔を見てしまう。
その顔に浮かぶ笑顔を見た時、俺は今までの人生がただの作業でしかなかった事に愕然としてしまい膝から崩れ落ちてしまった。
「だ、大丈夫ですかな? 何かまずい事を言いましたかね? 」
おろおろする老人を見ながらも俺は流れ出す涙を拭うことも出来ずに只々初めての感情に身を任せてしまうのであった……
その後憑き物が落ちたかのようにすっきりとした俺は、老人に孤児院に雇ってもらう為に全力を尽くし数年後に老夫妻が亡くなるとその跡を継ぐ事となる。
俺は残された資産と俺自身の預金を使いながらより多くの孤児達を幸せにするべく全力を尽くしていく。
そうして更に30年以上の時間が過ぎていき……
「流石にこれ以上は持たないかな……こらこら、そんなに泣くもんじゃない。かわいい顔が台無しじゃないか」
ベットに横たわる俺はかすれた眼に映る子供達の泣き顔を見ながら震える手で一人一人の頭を撫でていく。
「私が死んでも創設者の会社の方達が後継人として動いてくれるから安心しておくれ。それにこの孤児院を卒業した人達もお前達の支えになってくれる筈だ。だから笑って私を見送ってくれないか」
最後の力で微笑みながら全員の姿を心に焼き付けようと努力するも、力の抜けていく身体を自覚しながら今までの人生に後悔を抱いてしまう。
……あぁ、あれ程の人達を殺してしまった俺がまさかこんな幸せを感じながら死んでしまうなんて……な
こうして戦争の中で数々の逸話を残してきた男の人生が終わりを告げ、
新たな幕開けへと向かうのであった!
ある人物より評価を経てから次回へと移りたいと思います。