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約束  作者: Giveup&up
8/18

第7話『匂い』


俺は家に着きネクタイを外した。

面接用のスーツも今回は意味なかったが。


俺は膝の力が抜け、

ガクッと崩れ落ちるように座った。

明美がまた狙われてしまった。

2年前と同じ、、


あの時とは違い、俺が明美を救った。

いや、まだ事件は解決していない。

本当の意味でまだ明美を救っていない。

だからこそ、達成感は全くない。

むしろ心配や不安で心が埋まる。


俺には家族がいない。

訳があって一人で家に住んでいる。

電気もつけず、しばらくボーッとしていた。


明美にも家族がいない。

明美は施設で育った。

それが理由で、明美は小学生の頃

よくいじめられていた。


俺には明美の悲しみが分かる。

そんな気がする。


俺は一人で考え込むことが多い。

一人きりの時間が多いから。

明美もきっとそうだ。


今回の事件で俺にも不安な気持ちがあるんだから、

狙われた本人の明美はもっと不安なはずだ。



そういえば、あの柳田刑事って人

どこかで、、、


「ピンポーン」


俺の家のチャイムが鳴り響く。

こんな時間に誰だろう。

一瞬、居留守しようかと思ったが、出た。


「はーい。」


俺はドアを開けた。


「すまない。俺だ。」


そこには、柳田刑事が立っていた。


「どうしたんですか?」


そう言いながら俺は玄関の電気を点けた。

疲れたから事情聴取なら明日にして欲しい。


「後部座席にこんなものが。」


そう言いながら柳田刑事は俺に紙切れを渡した。

紙切れにはこう書かれている。



ジロウくんへ


直接だと恥ずかしいので

また、連絡があるなら嬉しい


明美


その下には、

携帯番号とLINEのIDがあった。


多分これは明美の字だ。

ジロウ「くん」と書いている。

てことは、昨日、

2年ぶりに会った後に書いたのかな?

今日はそんなメモを書く余裕が無かったはずだ。


ん?ということは、会えるか分からないのに

こんな紙を用意してくれていたのかな。

また駅とかで会えると信じて。

それとも、会えると分かっていたのか?


そう考えていると柳田刑事が話を続けた。


「この紙切れが後部座席にあって、

明美さんがわざと置いたのか、

落としてしまったのかは分からないが、

キミへのメッセージみたいだから。」


「、、わざわざありがとうございます。」


俺はこの紙をポケットに入れた。

俺へのメッセージか。

何か嬉しい気持ちになった。

明美を家に送った後、

俺は助手席に座ったから見つからなかったのか。


そして柳田刑事を見ると、

柳田刑事は優しく笑っていた。

俺と明美のやり取りや、

嬉しそうな俺の表情を見て笑ったのだろう。

まるで自分の子供を微笑ましく見守るかのような

そんな笑顔。

この人悪い人じゃ無さそうだ。

あ!そうだ。この笑顔は、、

彼女と同じ匂いがした。


「柳田刑事、、」


「ん?何だ?」


「柳田刑事って、もしかして、

柳田裕美(ヤナギダヒロミ)さんのお父さんですか?」


「、、、、そうだ。よく分かったなぁ。」


柳田刑事の笑顔はどこか裕美の笑顔と似ていた。

目尻にできるシワと

うっすら見える八重歯。

そして優しそうな目。


裕美は中学と高校の同級生だ。

サトシと俺と裕美と明美は

中学生の頃よく一緒にいた。


ファミレスで勉強したり、

恋愛トークをしたり、

夜中の学校へ忍び込んだこともあった。


サトシはもういない。

4人で過ごす日々はもう二度と来ない。


裕美は2年前の事件当時にも、

現場の教室にいた。

実際に事件を目の当たりにしている。


そう言えばお父さんが刑事という話を

どこかで聞いたことがある気もする。


「だから調べてるんですか?2年前の事件を。

俺達の教室で起こったから。」


「、、、それもきっかけではあるが。

あの事件には気になる点がいくつかあるんだ。」


「それは、、」


それは何か。そう聞きたくなる衝動を抑えた。

首を突っ込むな。そう忠告されたばかりだ。


「いえ、何でもないです。」


「聞きたくなるキミの気持ちも分かる。

それに、こちらからも明美さんやキミに

事情聴取をさせてもらうつもりだ。

できるだけ近い内に。

だけど、自分から積極的に事件へと

関わろうとしない方が良い。

痛い目に遭うかもしれない。

これ以上、裕美の友達を無くしたくないんだ。

裕美を悲しませたくない。

警察に任せておいて欲しい。」


「、、、分かりました。」


「キミは、自分自身の衝動に駆られて、

自制が効きにくいときがあるかい?」


「え?そんなことは、、、」


否定しようとしたが、少し心当たりがある。

2年前の事件と今回の事件について

俺の勘が良すぎること。

まるで事件が起こると分かっているように。


そして、無意識に行動してしまうこともあった。

まるで、もう一人の自分がいるかのように。

まさか、もう一人の自分なんて、、


「、、、自制が効きにくいこともあります。」


「、、そうか。でも、人は誰しも欲求を持っている。

その欲求に素直なのは良いことでもあるんだ。」


「、、、そうですね。」


欲求に素直。

柳田刑事もそうなのかな?


最近の俺、いや、

それまでの俺も

明美に恋焦がれた気持ちが

溢れそうになる。


2年前の事件の後も

明美のことばかり考えてしまっていた。

2年前の事件当時も明美のことばかり。

でも、そのせいでサトシが、、、


人を愛する気持ち。

それは両想いじゃないと意味がない。

そうじゃなければストーカーのようになってしまう。

大切な人を傷つけてしまう。


俺はストーカーの心理も

何となく理解できる気がした。

でも、それは本当の愛ではなく

ただの依存心なのだろう。

絶対にしてはならないことだ。


欲求に素直な気持ちと自制心の

バランスが大切なんだろうな。


柳田刑事は車に戻り帰宅した。


数日間、俺と明美は

柳田刑事から事情聴取を受けた。

もちろん被疑者としてではなく、

参考人、被害者としてだ。


今回の事件についてがほとんどだったが、

2年前の事件についても少しだけ聞かれた。


それにしても、

事情聴取ってこんなに事細かにするんだな。

そう感じるほどに一つ一つ丁寧に聞かれる。



2年前、サトシが亡くなる直前に残した言葉が

脳裏に浮かぶ。



「約束、、して、くれ」

「この事件を解決する、こと

それと、裕美の、、こと、をよろしく、、頼、む。」



俺はサトシからずっと相談を受けていた。

サトシが裕美を好きなことを。

気持ちを伝えるべきかなどの恋愛相談。

でも結局、サトシは裕美に想いを告げられなかった。



俺はどう生きていこう。

何のために、どのようにして生きれば良いんだ。


俺はまだ明美に連絡できずにいる。

俺は明美のメッセージが書かれた紙切れを眺めた。


俺はしばらく面接を受けるのを止めにした。

今は自分の市場価値を高めるために、

簿記やTOEICの勉強をしている。


やりたいこともまだ決まっていないが、

俺は大切な人との約束を守らなければならない。

少なくともそれだけは思っている。


俺は本屋で、公務員試験の問題集を手に取った。


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