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約束  作者: Giveup&up
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第5話『背景』


目に見えている事実より、

その背景に隠された事実の方が

大切なことも多い。




俺と明美は警察署に向かった。


いきなり背後から知らない人に押され、

明美が電車の線路に落ちそうになった。

そのことを警察署のお巡りさんに話した。


「なるほどね。それが本当なら、

れっきとした殺人未遂事件だね。」


警察官は、「それが本当なら」

と留保を付けたがる人が多いのかな。

人を信用するより、

まず疑うという姿勢を感じる。


もしそうだとしたら、一種の職業病だ。

人の言うことをもう少し信用してほしい。


「駅のホームに防犯カメラはあるんすかね?

それを確認していただけたらと思います。」


少し嫌みを込めてそう言った。


「防カメも確認しないとね。

でも、その前に色々お話を伺いたいんだけど、

お時間大丈夫かな?君はスーツだけど。」


あ、、、俺は最終面接を控えていたんだ。

今、思い出した。

時計を見ると、

既に面接開始時刻は過ぎている。


「時間は全然大丈夫です。

少し電話してくるので待っていてください。」


一番大切なのは、明美の事件を解決することだ。

俺の記憶も鮮明な内に話した方が良い。


面接を受けるはずだった医療機器メーカーから

着信が来ていた。

俺は、すぐに電話をかけ直し、

緊急の人助けのため今日は行けない旨を告げた。


すると人事の方から、


「そうですか。大変でしたね。

しかし、今回の採用の方は

お見送りさせていただきます。

誠に申し訳ございません。」


との回答があった。

不採用となってしまった。


企業は俺が人助けしたことを信用しなかったのか。

あるいは信用できたが、

早期の人員補充の必要があったのか。

それは分からない。

企業側にも事情があるだろう。


俺はすぐに切り替えて警察署に戻った。

今大事なのはこの事件を解決すること。


「お待たせしました。

電話は終わりましたので、

何でも聞いてください。」


すると、明美は心配そうに聞いた。


「ジロウ、大丈夫なの?

大事な面接とかだったんじゃない?」


明美はいつの間にか俺のことを

「ジロウ」と呼び捨てにしていた。

そのことに気がついた。


「大丈夫大丈夫。

面接日を延期してもらえたから。

では、お巡りさん何からお話しましょう。」


俺は軽く嘘をつき、話題を事件に戻した。

嘘をついたのは、無駄な心配をさせないためだ。


「ジロウさんでしたね。

まずは、キミに質問です。

駅のホームであった出来事を

もう一度聞かせてもらえる?」


巡査からの質問。

でも、これは既に言った。


「さっきも言いましたけど、

駅のホームでいきなり

黒いパーカーを着た人が、明美の背中、、」


「ちょっと待って!」


せっかく答えようとしたのに制止された。

なんだこの巡査。腹が立つ。


「そもそも、なぜ。

キミは駅のホームにいたの?」


なんだこの質問。

まるで俺を疑ってるみたいだ。


「面接があったからです。」


「うんうん。なるほど。

どこの駅に向かうつもりだった?」


「○○駅です。」


俺のことを聞いて何になるんだ。

事件のことを聞かないと。

この人じゃダメだ。

刑事課の優秀な人に来てほしい。


「明美さんは?

どこの駅に行くつもりだったの?」


「△△駅です。」


あっ、そうだ。そういえばなぜ

明美はこの駅にいるのか。

なぜ、△△駅に行くのか。


それに明美はさっき、、、、


考えている途中で巡査が話し出す。


「うんうん。

○○駅と△△駅は同じ方向にあるね。

でも、この時間だと、

○○駅には快速電車を、

△△駅には普通電車を使うよね?

つまり同じ場所にはいるものの

1番線と2番線で並ぶ位置が違うはずなんだ。

どうして、ジロウさんは、

明美さんの後ろに立つ

黒パーカーの人物に気がついたの?」


へー。全然ダメな巡査かと思ったら

ちゃんと考えて聞いてるんだな。

まぁ、俺を疑っている感じは気になるが。


「うーん。

階段から降りて○○駅に向かう快速電車を待つ

1番乗り場に向かおうとしたんです。

でも、2番乗り場に待つ明美さんが視界に入りました。

すると、その後ろにいる男に何か違和感を感じ、

足を止めました。」


「その違和感って?」


違和感は違和感だよ。

直感みたいなものだし。

そう思いながらも、

自分が感じたものの正体を分析した。


「んー。なんか、黒パーカーの人と

明美との距離が少し近く感じた。

それに身長や雰囲気から多分男性だと思って、

女性専用車両の場所へ並んでいたから。

なんか不審に思った、というくらいです。」


「うーん。ま、いっか。

じゃあごめん話を戻すね。

その黒パーカーの人が何をしたの?

そして、その時キミはどうしてた?」


「黒パーカーの人が

明美の背中を押して逃げました。

黒パーカーの人が

明美の背中に手を伸ばそうとした瞬間、

自然と身体が動きました。

線路に落ちそうになった明美の手を引き、

落下を未然に防ぎました。」


「そうなんだ、、、明美さん?

ジロウくんが手を引いて

助けてくれたのは本当?」


「はい。本当です。」


「へー、すごいね。

ジロウくん、勘が良いんだね。」


この巡査、俺を疑っている感を出してくる。

素直に褒めてくれれば良いのに。


でも言われてみれば確かに。

俺ってこんな勘が良かったっけ?


すると思いもよらない言葉が


「約束してくれたんです。

ジロウは私を守るって。」


明美が不意に発したこの言葉。

俺は涙を1粒こぼした。

明美はただ、疑われている俺を

フォローするために言ったのだろう。

それでも、嬉しかった。


その様子を見た巡査が聞く。


「、、、失礼ですが、

お二人のご関係は?」


互いに言葉が詰まる。

元交際相手で

今はただの元同級生だ。

言ってしまえば赤の他人になる。


「、、、友人です。」


明美が耐えきれずにこう答えた。


俺も重い空気を変えるべく言葉を足す。


「今の話と駅ホームにある防犯カメラの映像とを

照らし合わせてください。」


「、、、まぁ、そうしてみるよ。

ジロウくんは随分勘が良いみたいだけど、

これまでにそんな経験はあったの?」


そう言った直後、大きな落雷が落ちた。


大きな音が鳴り響く。

そして、急に大雨が降る。


「、、ビックリした。」


明美が呟いた直後、俺はこう言った。



「2年前のあの事件。」


そう、あの時も俺の勘が働いた。


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