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約束  作者: Giveup&up
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第2話『自分』

「はっ!!、、、はぁ、、、はぁ、、、」


「ふーっ」


またあの夢か。


俺は二郎(ジロウ)。19歳。

ニート、いや就活生だ。


あの事件から、2年が経った。

事件の後、少しの間だけ休学になり、

そのまま夏休みに入った。

中間試験は夏休み中に行われたらしい。


「らしい。」というのも、

俺はあの事件の後すぐに

学校を自主退学した。

だから伝聞になる。


自主退学した理由は、、、

あまり思い出したくない。


しかし簡単に言うと、

明美との約束を守れなかったからだ。


俺と明美は、小学生からの幼なじみ。


明美は小学生の頃、イジメに遭っていた。

俺は同じクラスに居ながら、

彼女を直接庇うことはできなかった。


イジメを庇うと

次は自分がいじめられるから?


いや、そんなんじゃない。

小学生の頃は、周りよりも身体が大きく、

喧嘩も強かった。

クラスでの立ち位置も悪くなかった。

「力」を持っていた。

彼女を救う力は。


しかし、その「力」を使えなかった。

いや、使わなかった。


それは、恥ずかしかったから。

見栄というか。体裁というか。

しょうもない理由。


女の子を皆の前で助けると、いろいろ騒がれる。

「ジロウは明美のこと好きなんじゃないかー!!」

とか、

「ダサいことしてんじゃねぇーよ!」

とか。


イジメがあった時、

俺はイジメっ子数人のところへ行く。

そいつらと肩を組みながら

「ドッジボールやりに行こうぜ。」

とか、そういうことを言って

教室の外に連れていき

間接的にイジメを止める。

そんなことしかできなかった。


それだけでも立派?

そう言う人もいるかもしれない。


けど、俺はそう思わない。

彼女の苦しみを知りながら、

きちんと止めることをしなかった。

止めるだけの力があったのに、だ。


その理由が「恥ずかしさ」という

軽薄極まりないものなのに。


俺は小学校の卒業式後、

家の近くの公園のブランコに座っていた。

自分に酔いたかったのかもしれない。


すると、明美がやって来た。


「ジロウ!いた!

あのね、言いたかったことがあって。

私がいじめられていた時に、

毎回止めに入ってくれてたよね?

ありがとう。」


「私はジロウのことが好きなの。」


明美はそう言った。


俺はとても嬉しい気持ちになった。

明美は、卒業式の日に

俺と会って話したかったのかな?

だから来てくれたのかな?


人生初めて告白された瞬間だった。

俺も明美のことが好きだったのか?

どうだろう。

その時の複雑な感情は思い出せない。

しかし、


「ありがとう。これからも。

いや、これからは。

俺が明美を守るから。

ちゃんと守れなくてごめんな。」


俺はそう言った。

なんでこんなことを言ったんだろう。


すると明美は


「約束!」


そう言って右手の小指を

俺の方に向けてきた。


指切りをして、彼女と約束した。

それまでも親や先生と

約束をしたことがあったかもしれない。


でも、これが自発的な約束というか。

心からの約束というか。


俺にとっての最初の約束だった気がする。


小指の感触が心地よく、

ボーっとしたのを覚えている。

その後、俺は明美を家まで送って帰った。


その時見た夕焼けは、

俺の中で鮮明に残っている。

多分、俺にとって大切な日なんだろう。


明美はそれから徐々に垢抜けていった。

中学3年の頃、俺は明美と交際した。



そんな明美との約束を

なぜ守れなかったのか。


谷本先生は、なぜ。


明美を刺しにいったのか。




そんなことを思い出す日々が、2年続く。

事件があった日から2年。

明美との思い出。


「そろそろ行くか。」


俺は今日も面接に行く。

今日は土曜だ。

土曜は休日とする企業も多いが、

今日の企業のように土曜に

面接をするところもある。


業種は何だったかな、、、

何かのメーカーである。

そこの営業を募集している求人。

何を作るメーカーなのかは、

向かう途中の電車で確認しておこう。


俺は、退学してから2年間、

60件近くの面接をした。


が、58件近くは不採用だった。

就活を始めたのは退学してから

1年後くらいなので実質1年間。


初めてから数ヶ月で2件だけ採用されたが

そこで働きたいとは思わなかった。

だから内定を受諾しなかった。


すると、悪循環になり、

内定が全く出なくなった。


退学してから最初の1年間は、

谷本先生の事件について調べていた。


それは、正義感からではない。

俺が明美との約束を守れなかったからだ。

俺が明美を守っていたら、、、、

そんな自責の念から俺は事件を調査していた。


しかし、警察などに聞いても

情報を提供してもらえるはずがない。


俺の捜査には限界があった。

いや、捜査と呼べる程のものでもない。

俺は明美のために調べていたのでは無い。


自分の罪悪感を少しでも緩和させるため。


谷本先生は、殺人の罪で起訴された。

懲役10年程度だった。


谷本先生も第三者から脅されてやった

と弁護士は主張したみたいだ。


脅された内容が、

谷本先生の子供2人を人質にし、

「明美をナイフで刺せ。

じゃないと子供の命はない。」

というものだったらしい。


そんな言い訳が通るはずない。


結局、弁護士側の主張の根拠が薄かったのと、

仮にその主張を前提としても

本件では緊急避難が成立しないとの理由で

有罪判決が出たらしい。


よく分からない。

でも、俺はそれ以上調べようとはしなかった。

自分の頭で理解できる限界だったから。

と自分に言い聞かせた。

けど、本当は全部自己満。

自分のため。罪悪感を薄めるため。


俺は、高校を中退したから、中卒になるのかな。

高卒認定試験とやらを勧められたこともあるが、

やる気がでなかった。

そこでする勉強が

自分のスキルになるとは思えなかった。

大学に行かないのも同じ理由。


でもそれは、

やらないための言い訳に過ぎないのかも。



そして、電車に乗ると、

一人の女性に声をかけられた。


「えっ、、、、」


俺は言葉に詰まる。



そこには、明美が立っていた。


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