第11話『涙』
俺は帰宅した。
俺は眠りについた。
夜あったことを思い出しながら、、、、
「ピンポーン」
俺は柳田宅のチャイムを鳴らした。
「はーい。」
柳田刑事が出てくれた。
「よく来たね。
さぁ、入って入って。」
「おじゃましまーす。」
玄関に入ると、長く渡る廊下が見える。
懐かしい、、、、
そこには、ヒロミのお母さんがいた。
「ジロウくん!
お久しぶり!
全然変わらんねー、、、
顔見せずにどこ行ってたんよー。
さぁさぁ、疲れてるじゃろ。
こっちこっち。夜ご飯作ってるけーね!」
訛りが入った暖かい喋り方。
涙が出そうになった。
ヒロミのお母さんの手招きに沿って歩く。
覚えている。あの先にリビングだ。
リビングに入ると、
「ジローーーウーー!!」
いきなりヒロミにハグされた。
柔らかいヒロミの身体に少しドキッとする。
ヒロミの勢いが強すぎたせいか、
少し後ろに押され、足が椅子に当たった。
「いてーー!」
俺がそう言うと、
ヒロミのお母さんが少し怒った口調で
「ヒロミ危ないけん、やめんかい!」
俺はヒロミを離すように手を動かすが
ヒロミはギュッと離さない。
ヒロミの目に涙が浮かんでいることに気づいた。
「おばさん大丈夫ですよ。」
そう言いながら、ヒロミの肩をポンポンと叩く。
「相変わらず力強いなー!」
冗談混じりでヒロミにそう言った。
これがヒロミとの久しぶりの会話だった。
2年前の事件を機に、
俺は人生をリセットした。
同級生や友達とは
誰にも会わないようにしていた。
そんな俺が
中学からの仲間で
唯一気軽に話せるのはヒロミだけだ。
中学時代
よく一緒にいた4人組。
俺とサトシと明美とヒロミ
サトシは亡くなった。
明美とはフラれてから
気まずい関係になった。
ヒロミは俺の大好きな友人だが、
親友とは言いにくい。
なぜなら、やはりヒロミのことは
どこか異性として見てしまうから。
明美に抱くような恋心は無いが、、
食卓には、ご飯とハンバーグ、味噌汁、
サラダが4人分並べられていた。
「さぁ、お食べ!」
「俺も良いんですか?」
そう言いかけた時、
「良いに決まってるじゃん!
ハンバーグ、ジロウの好物でしょ?」
ヒロミ覚えていてくれたんだ。
すると、柳田刑事が言った
いただきますを合図に
みんなが「いただきます」と言った。
何年振りだろう。
家庭で「いただきます」って言ったのは。
食卓での話題は、
ヒロミの大学生活についてだった。
ヒロミは有名私立大学に入学し、
1回生だった。
バイトとサークルもしているらしい。
普通の大学生活だ。
俺も学校を辞めなければ、
そうなっていたのかな。
いや、どうだろう。
食事を終え、
ヒロミのお母さんがコーヒーを
3人分用意してくれた。
「さぁ、ジロウくん。
ゆっくりしてくんじゃで。
お風呂入ってもえーんじゃから。」
そう言うとヒロミのお母さんは、
2階に上がって行った。
コーヒーを飲んで一息つく。
ヒロミが、じーっと見てくる。
「ジロウ!なんで連絡してくれなかったの?
いきなり学校辞めるし、心配したんだよ?
あれから、、」
「ヒロミ!!」
柳田刑事が少し強めにヒロミを制止した。
「、、、」
ごめんな、ヒロミ。
「ジロウくん。
俺たちはジロウくんの味方だから。
何かあったらいつでも相談して良いんだよ。」
「そうだよ。
ジロウが一人で抱え込むことは無いんだから。」
そうだよな。
サトシがいなくなって、
俺の気持ちは閉鎖的になった。
けど、俺にはまだ仲間がいる。
「ありがとう。」
俺は、、、
「俺は、自分が怖いんです。」
俺は今、自分の中にある思いを打ち明けた。
2年前の事件、線路落下未遂事件
この2つの事件の真犯人は
俺なんじゃないかと思っていること。
俺には明美を狙う犯行動機があること。
2つの事件で勘が良すぎること。
無意識に行動してしまうことがあること。
そう考えると、もう一人の自分に
自分が操られている気がすること。
そのような嫌な感覚に襲われたから、
柳田刑事に電話したこと。
もう一人の自分が犯人なら
今の自分がいる内に
自首したいと思っていること。
「、、、、」
柳田刑事が何か考えている。
「キミの明美さんに対する犯行動機って
どういうものなんだ?」
「俺は明美にフラれました。
けど、俺は今でも明美が好きです。」
そう言うと、ヒロミが泣き出した。
「俺は小学生の卒業式、
明美と約束したんです。
何かあったら、俺が明美を守るって。
でも、守るって
危険な目に遭うことの裏返しで。
約束を果たすために、
明美を危険な目に遭わせたんじゃないかって。」
ヒロミは涙が止まらなくなった。
なんで泣いてるんだろう。
いや、俺には分かる気がする。
中学時代、ヒロミが俺のことを好きだと
サトシから言われた。
聞いた時は半信半疑だったが、
ヒロミの俺に対する態度で
そう感じることがある。
柳田刑事はヒロミのことを
心配そうな目で見ながら
こう言った。
「、、、線路落下未遂事件の駅ホームにある
防犯カメラの映像を解析したよ。
明美さんは少し見切れたりしたが、
顔はちゃんと写っていた。
そして、黒パーカーの人がいた。
キミの言うとおり、身長は175㎝程だ。
多分男だろう。
その男が、明美さんを
突き落とそうとした場面。
さらに、キミが明美さんを救った場面も
ちゃんと写っていたよ。
それに2年前の事件も谷本による犯行だ。」
「そうよ。ジロウが犯人な訳ないじゃない。」
でも、
「俺の中にあるもう一人の自分が、
谷本先生や黒パーカーの男を唆して
明美を狙っていたとしたら?」
ヒロミが悲しそうに答えた。
「もう一人の自分って何よ!
多重人格って病院で
診断された訳じゃないんでしょ?
それに、人を操って犯行させるって
そんなの現実に可能なの?」
それは分からないが、、
「柳田刑事言ってましたよね?
以前車中で。
2年前の事件には黒幕がいるって。
いくつか気になる点があるって。」
「本当なの?お父さん。」
「ああ。言ったよ。」
「何なんですか?気になる点って。」
「、、、、」
柳田刑事は発言をためらっていた。
そりゃそうだ。
警察以外の第三者に言える話では無い。
「お父さん!
私とジロウは2年前の事件の被害者よ!
サトシや明美みたいに、
直接被害に遭った訳じゃないけど。
目の前であんなことがあって
心に大きな傷を負ったのよ。」
「、、、分かった。
気になる点はいくつかあるが、
二人には1つだけ、伝えよう。」
他言無用であることを前置きしながら、
柳田刑事は続けて話した。
「谷本の弁明については
二人共知っているな?」
俺とヒロミは頷いた。
谷本先生は、
自分の子供2人が人質に取られ、
明美を刺さなければ、2人の命はない。
そう脅されたから犯行に及んだ。
と弁明した。
でも、実際には、
谷本先生の子供が誘拐されたなどの
事実はなかったと聞いたが、、、
「その弁明には、
1つ裏が取れたところがあるんだ、、、」




