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第5話 部長、自己紹介がまだでした

なんだかんだしてる間に日は暮れてきて、今日の所は取りあえず私たちは一緒に火を囲み一夜を過ごすこととした。

「そういえば自己紹介がまだでしたね!私の名前は七色絵美。明星高等学園三年生で美術部部長やってます」

私はびしっと自己紹介を決める。

「びじゅつぶ、とはなんだ?」

「えーっと簡単に説明すると所属している部隊みたいなもんです!」

今、全然違う!と言った読者様のつっこみは聞かなかったことにしておこう。

「ナナイロ、エミか……」

「お兄さんのお名前はなんですか?」

「別にわざわざ名乗る程の者でもない」

「いや、こっちはちゃんと名乗ったんですからそちらも名乗るのが礼儀じゃないんですか?それに私たち一応、キスした仲なんですから名前や何してる人ぐらい教えてくれてもいいじゃないですか」

真顔で私がつっこむと鎧の人は頭を抱え、力なく深い溜息をつく。

「そんなに溜息いきつくと幸せが逃げちゃいますよー?」

「誰のせいだと……」

だが、私を見て怒る気も失せたのか鎧の人はまた溜息をつく。

「……グラン・ツッア・アルベルト。医者をしている」

「えっ、お医者さんなんですか?」

意外な職種が言葉に出てきて私は素直に驚く。

すっかりそんなご立派な装備をしているから私はてっきり、何処かしらの国の騎士様なのかと思ったよ。

「でも、お医者さんが熱中症で倒れてちゃ意味がないのでは?」

「ぐっ……。今日がこんなに熱いとは思わなかったんだ」

私に痛いところをつかれて一瞬言葉が詰まった様子の先生さん。

焚き火の様子を見ながら何故こんな鎧を着ているのか先生さんは私に説明してくれた。

「この鎧と剣は護身のためだ。国の外には魔物がうじゃうじゃいるからな」

「えっ……」

じゃ、ここもかなりマズイのでは……?

私は背中にひんやりと嫌な汗が流れるのを感じた。急に闇に染まった森が怖く思えてきた。

「……そんなに怯えなくても大丈夫だ。私は医者だが、お前一人を守りながら魔物蹴散らすぐらい造作もない」

だから安心しろ、っと素っ気ない態度で言う鎧の人だったが、その手は優しく、犬を撫でるみたいにポンポンと私の頭を撫でる。

途端に私は顔の辺りの温度が急上昇するを感じた。

「せ、先生さん!お腹、減ってませんか?」

急になんだか恥ずかしくなった私は慌て話しをそらす。

「あ、あぁ……。取り敢えず携帯用の干し肉とパンがあるが」

そういうと先生さんは腰につけていた小さな袋から干し肉とパンを私にも分けてくれる。

「わぁ。ありがとうございます」

でも、これだけじゃさみしいなぁ。

私はパンと干し肉を膝に置き、スケッチブックを手に取る。

「ん?一体何をしているんだ?」

「えへへ。お楽しみです」

私の行動を見て疑問を浮かべる先生さんであったが私は構わず絵をスラスラと描き進める。

私が描いていたのは平皿に盛られた温かいコーンスープとブドウジュースだった。

「な、なんだこの力は……!」

突如出てきたスープと飲み物に驚く先生さん。

まぁ、こんなの見たらびっくりしますよね?

「いや、実は私も詳しい仕組みはわかってないんですがね。これが私の能力らしくて……」

「こんな能力スキル見たことがないぞ……」

先生さんは私の説明にいささか納得していない様子だが本当に分からないといった私の姿を見てこれ以上は詮索してはこなかった。

そして、黙って先生さんは私の能力スキルとやらで出したコーンスープを飲む。

「……うまいな」

「!本当ですか!」

私もそれにつられ、スープを飲む。

あぁ、コーンの優しい甘さが疲れたきった体に染みる~!

ごくごくと私はコーンスープを飲み干し先生さんがくれたパン干し肉を食べる。パンは柔らかく、干し肉も私でも噛みきれるぐらいのかたさだったのでも私も美味しく召し上がれた。

横では先生さんも器用に兜をつけながらスープとジュースを飲む。

ご飯の時ぐらい外せばいいのに。

私はそう思ったが、せっかくなごやかな雰囲気なので深くはつっこまないでおいた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ご飯も綺麗に食べ終わると特にやることもないので寝ることとなった。けど先生さんは起きて見張りをやらなければならないと言い、私はそれじゃあフェアじゃないので交代しませんか?と提案したが直ぐに却下された。

ちぇ、先生さんの頑固者。

私の体に冷たい風が当たる。

「くっしゅん!」

うぅ……!昼間は温かいとはいえ、少し冷えてきたな。

夜空の風はジャージ一枚の姿じゃ流石に寒い。

私が寒そうに手で体を揺すっていると私の様子を見かねたのか先生さんが私に羽織っていた黒いマントを被せてきた。

「わっ……!」

「これでも羽織ってろ」

ないよりかはマシだろう、先生さんはそう言って私にマントを貸してくれた。

けどこれでは今度は先生さんの体が冷えてしまう。

「いけません!これじぁ、先生さんが風邪をひいてしまうかもしれません!」

「子供がいらん気遣いをするな。黙って寝てなさい」

「あっ!そうだ、私。良い方法思いつきましたよ」

私は先生さんにマントをつけ直すと、ちょこんと先生さんの隣に座りマントの中に潜り込む。

うん、これなら二人でも問題ないし、マントが見事に夜風を遮断してくれて暖かい。

先生さんも隣に安心もいるから安心して眠ることできる。

私一人が納得していると先生さんから早速、「おい!」っと抗議の声が上がる。

「何を勝手に……」

「いいじゃないですか。寒いんですもん!」

「だからマントを貸してやると言ってる」

「安心するからここがいいんです。お願いします」

私が必死にお願いすると先生さんは困ったような表情を浮かべ、十数秒悩んだ後、大人しく寝てるんだぞ?と渋々私の願いを承諾してくれた。

「ありがとうございます!」

私は漆黒のマントに包まれ、鎧の姿だが隣に感じる確かな鼓動に揺られながら静かに眠りについた。

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