第3話 部長、出逢ちゃいました
国を出たのはいいけど、森の中は木、木、木ばかりで全然人とすれ違わない。
まぁ、私も今どこら辺を歩いているなんて分からないんけど。
休まず森を抜けようと歩いていると緑一色の世界はずなのに私の視界に黒い塊のようなものが入る。
んっ?なんか今変なのを見たような……?
私は気になったので茂みの中に入り、黒い塊が見えた所まで歩く。近づいてみるとどうやら人らしく「うぅっ……」と男の呻き声が聞こえた。
うぉ! 生きてる!!
私はおそるおそる近寄り様子を見る。男は黒い鎧と兜を着けおり顔はよく見えず、黒マントを羽織っており大きな猫のように蹲っていて倒れている。
「あの~、大丈夫ですか?」
今度は倒れている男の人にかけより声をかけ体を揺さぶってみると朦朧とした感じで「み、水……」と掠れた声で呟く。
「えっ? あ、水?」
もしかしてこの人、熱中症…?
でも、どうしよう。近くに水場なんてないし……。
あっ! そうだ! 絵!!
私は手に持っていたスケッチブックに目を移す。でも、まずは男の人が息苦しそうにしてたので私は息をしやすそうに処置行為として膝枕をする。
「ウワォ……!」
マントのせいで見えてなくて気付かなかったが、まるで男の人は西洋映画や漫画などに出てきそうな格好いい黒騎士っぽい装いをしていた。そして、鎧の上からでも見れば分かるほどのしっかりと鍛え抜かれた筋肉質な体にどっしりとした男らしい肩幅。
はぁー、はぁー! ぜひ、後でスケッチさせて欲しい!!
私は絵を描き進めながら鎧姿の男の体を見てうっとりとしてしまう。だって、仕方ないじゃない! この鎧を着ていても分かる流れるような腰のラインである外腹斜筋、がっしりとした腕の上腕二頭筋! そして逞しい肩の三角筋の数々…ッ!!
私はこれまでこんなにも男性で綺麗な体つきをしているなぁと思った人物とは出会ったこともなかったしそもそも思ったこともなかった。
つまり私好みのどんぴしゃの体をしていた。
…って! い、いかんいかん!病人相手に何興奮してんだ、私!!
これじゃただのド変態みたいじゃない!
私は心の中で自分を殴り飛ばし、叱責する。改めて絵にと意識を集中させる。
うん、集中しろ私! 絵のスケッチは助けてからもお願いできるし!
まず私はこの素晴らしい筋肉を持つ男性をどうしても助けてあげたかった。私は滑らせるように絵を描き進める。
一本一本線は丁寧に引き、でも迅速に鉛筆を動かす。私はスケッチブックの中にあっという間にたっぷり水が入ったペットボトルが描かれていった。
するとさっきみたいに淡い光りが現れ、ぽろりと水が入ったペットボトルがスケッチブックから落ちる。
私はまず暑そうなマントを脱がす。
「うぅ~! 何この鎧!全然剥がれないよう」
まるで魔法か何かでくっつけてるみたいにぴったりと張り付いてしまっていて剥がれなかった。
私は懸命に鎧を外そうとしたのだが、外し方が分からなかったので私は諦めた。兜も水をあげるのに邪魔だったので取ろうとするがこれも外れない。
「一体全体どうなってるの?メイドイン異世界の物は…」
唯一開けることができたの口元部分のみ。
これってフラグってやつかのなんですかねぇ?
この兜をつけたままじゃ満足に水を飲ますこともできないし、このままにしといたらこの人の命にも関わる問題だ。
ええぃ!ここは乙女の恥じらいを捨てて人命を優先すべきだ!
ガバッとサクッと済ませてしまおう!
私は覚悟を決め、ペットボトルの蓋を開け口に水を含ませて鎧の人に口づけをする。ごくごくと男の人は私の口の中の水を飲み干していく。
よし、もう大丈夫そうかな?
そう思って唇を離そうと私が頭を上げようとしたその時。がしりと強い力で後頭部を掴まれる。
「ん?! んーーッ!!」
えっ、ちょま?!なにこれ!?
私は必死に状況を整理しようと頭を巡らせるが頭の中が真っ白になってそれどころではなかった。なんとか唇を剥がそうと私は鎧をバンバン叩いてみたり頭を上げようとするがびくともしない。
「んっ…! んっ、んんん!! ぅんー!!」
私の口の中に熱い舌が入り込んできて、私の舌を見つけだすと大きな熱を持った舌が絡めるにように合わせてくる。
うひぁ! まるでこれじぁ一歩先に進んだ恋人同士のキスじゃないですか!
どんどんと入り込んできて、口一杯に蜂蜜のように甘い味が広がる。びっくりして手を離してしまったペットボトルから水が流れるていく音が聞こえる。
首すじをなぞられ、ぞくりと痺れる感覚が走る。思わず私は「ふぁ…!」という恥ずかしい声が漏れてしまう。
うぅ、触り方がなんかえっちぃよ! この人!!
もっとその前に言わなければならないこともあるかもだけど、長い濃密なキスのせいで次第にそんなことも考えられなくなっていく。
「んっ……! んー……」
頭がぼぉーとしてきたその時、ようやく押さえつけられていた手が離される。
「ふはぁ…!」
唇と唇の間に唾液の銀の糸がひき、やっと離れる。我ながらなんとも色気のない声だと思う。
私の頭の中の世界がくらくらしてふわふわとする。
この方私は絵しか興味しか持ってなかったため男性とお付き合いなんてしたこともなかったし、キスすら初めてだったのに。
まさかディープキスも奪われるなんてしまうなんて……。
「んっ…?ここは一体……」
どうやら鎧の人の意識が戻ったようだが、今の私は喜んでいる余裕なんてなかった。