ソメイヨシノ
《ソメイヨシノ》
もう訪れないものを待っている
もう償えないものを
手のひらで温めている
報われる事なんて無い
また会えることなんて無い
情けも、救いなんてものも、
流れ去るように
全てはただあるがまま
意味もなく散って
望まれず咲いて
茶色く地面に横たわる花々が
私に語りかける
「貴方も同じよ
だけど生きなさい」
私が必死に守った君の記憶が
チラチラと葉の裏から
じわじわと風の裏から
顔を出してみせる
私は大事に包み直して
そっと胸の奥底に仕舞う
もう、こうして消えていくだけ
後は、なくなっていくだけ
だから何も言わない
この両目に貴方を湛えたまま
目を見開いて進むよ
胸の中いっぱいに抱えた貴方が
零れ落ちないように
もう会えないなんてわかってる
―――そんなこと
「こんなにも早く散って
一体何が見れたというのですか
たったあれだけの為に
貴方は死んだというのですか」
ひとの一生に意味が無いのなら
狡くしたっていいじゃないか
ただ傍に居るだけの為
貴方だってきっとそう思ってくれた
いやだよ
こんなひたむきなモノが
―――無益にただ散るだなんて