第四話 再会
「な、なにこれ!!」
ん? 何か聞き覚えのある声が聞こえる。……いや、幻聴か。俺も相当疲れているな。寝るか。
「これは、家ですか……見た事ない作りをしていますね」
「ね? マジだったでしょう?」
うん、聞こえるね。
状態を起こし窓を開ける。目の前には先の件で俺を見事に裏切ってくれた四人がボロボロになった服で立っている。顔からはかなりの疲労が見て取れる。
生きてたのかよ、しぶとい奴らだ。
窓に手をついて奴らを見ているとカタリナが俺に気が付く。
「お!! 貴様、生きていたのか!?」
「まあな」
その声で他の三人も俺を驚いたように見る。
「え? な、何で? マジで本物!?」
「そうだよ」
「お……おばけ」
「生きてるよ」
ギャルとレーデは少しホッとしている様に胸を撫で下ろす。
「お前らこそ、何でこんな深い所まで来たんだ?」
こいつらには砂浜に船の残骸で造った拠点があったと思うが……食料ならもっと浅い森で取ればいいし。
バッと前に出るカタリナ。
「いや、実は海の方からクラーケンが出現してな、森の方へと逃げてきたのだ……」
「お……恐ろしかったです」
身を震わすレーデ。他の奴らも軽くトラウマになっている様だ。災厄級の魔物に襲われるというのは、何度経験してもなれることはないんだな。
「所で……この家は一体なんなのだ?」
カタリナが俺に疑問をぶつける。他の奴らも興味心身の様だ。
「ああ、俺の能力だよ」
「能力!? 貴様は能力持ちだったのか!? なぜあの時すぐに出さなかったのだ!?」
「条件があるんだよ」
目を見開く女共。
まあ能力持ちは希少だから、当然の反応だよな。
頷く俺にさらに疑問をぶつけるカタリナ。
「ちなみに、どんな能力か教えてもらってもいいかな?」
「う~ん、まあ簡単に言うと絶対防御の快適空間を作り出す能力かな~」
そう、今のこいつらが喉から手が出るほどほしい能力だ。あっ! いいこと思いついた。
俺は冷蔵庫に入っていたショートケーキを取り出し窓の前で食べ始める。
「こんな風に、おいしい物も食べ放題なんだよね~」
俺の食べてる姿を見て、お腹を鳴らす四人。涎を垂らしものほしそうな目でこちらを見ている。
「お、おいしそう」
「マジやべ~」
「こんなところで……ケーキ」
おいおい! 何てそそられる目をしているんだ。
「あっ! 食べ終わっちゃった……」
一様にがっくりとする四人。
「さて、もう一個食べるか」
パッと顔を明るくする四人。
た、たまんねぇ~!
ジュルと口の涎を拭き、俺の前に来るプリシス。
「サ、サドニア様。本当に無事で何よりです。私はもう心配で心配で……ですがきっと生きていると信じておりました。ああ、本当に良かった」
瞳をうるわせ、笑顔を見せるプリシス。
白々しい。どう考えたって嘘じゃん。ばれないと思っているんだったら相当図太いなコイツ。
それを見て、後ろの三人も泣き真似をし始める。
「う、ウエエン?」
「わあああん?」
「し、しくしく……」
おい後の奴ら、演技下手過ぎるだろ。
「……無事で何よりって、これが無事に見えるのか?」
俺は背中の包帯を奴らに見せる。それを見て皆バツの悪そうな顔をする。
「お前らに裏切られたせいでベアースレッグから受けた傷だよ」
「裏切るなんてそんな! あの場であなたなら生き残れると思ったからこその対応。決して犠牲にしたわけではありません!私は初めからサドニア様の事を信じておりました」
「じゃあ何でロープを切ってくれなかったんだよ、それは俺を信じてなかったって事の証拠だろ」
「いやそれは、その、男女の因果と言うものは誠に遺憾であると言いますか、あの……」
必死で取り繕うとしているプリシス。そんなプリシスに加勢し始める三人。
「おい! プリシス様も苦渋の決断だったのだ! それこそ己の身を削る程に」
「そうよ! それなのにグチグチと過ぎたことを! それでも男なの!?」
「だ、大丈夫? プリシス……」
「み、皆さん。ありがとう、でもこれはサドニア様に不信感を抱かせてしまった私の責任。ええ、全て私が悪いのであってサドニア様は何も悪くない」
その言葉を聞いてジト目で睨んでくる三人。
何この茶番。俺が悪いってか? ここまで開き直られると逆に清々しくて笑えてくるな。
おっと忘れていた、ケーキにはやっぱり紅茶だよな。
ティーカップを取り優雅に紅茶を飲む。もちろん女共に見えるように。
「「なっ!」」と驚く女共。
「うわああん!!」
突如、泣き崩れるプリシス。
「私達だって辛かった! クラーケンに住処を奪われ、魔物に襲われるんじゃないかと怯えまともに眠ることもできず、食料や水が手に入らず空腹を我慢して、この三日は心休まる時がなかったのです!」
あ~はいはい。今度は泣き落としね……。
「こんな状態では、すぐに死んでしまいます! 雨が降ったら野ざらしの私達は体を壊すでしょう。雪でも、いや日に当たりすぎても同じです。そうなれば抵抗できず魔物のエサになってしまいます! そして思い出すのです、我が家を! あの温かい空間にもう一度戻りたいと願いながら、けれどその夢は儚くも叶わず、涙しながら命を落とすのです」
顔を上げ悲痛の表情を俺に見せるプリシス。その顔は、思わず慈悲を与えたくなり、その声は直接心に訴えかけてくるような響きがあった。
「お願いです! あなたに少しでも人の心があるのなら私達を救ってください! もちろん私は信じております。サドニア様はとてもお優しいお方であると!」
俺は自分の心の震えを押えることが出来ず、思わず口を押えてしまった……。
そして、祈るような体制で俺を見上げるプリシスと、その後ろで顔を押えて泣いている三人。
「……扉はそこだ」
俺は入口の場所を指さす。その言葉を聞いて、顔を明るくする女共。
「あ、ありがとうございます! あなたを信じてよかった」
ああ、きれいな笑顔だ。そんな笑顔を俺に向けてくれるなんて……。
足取り軽く扉に向かう女共。そしてプリシスがドアノブに手をかける。
「失礼します」
ガチャッ……