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自宅が狙われています  作者: 原十二月
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第一話 無人島漂流

「エス・サドニア様ですね。はいどうぞ」


 身分証を確認し、笑顔で対応する係員に軽く頭を下げ船に乗り込む。

 黒く光る大きな扉に自分の姿が反射する。

 クリーム色のサラサラした髪、24歳だが少し幼げに見える顔立。目が半開きのせいか「眠いの?」と良く聞かれるがこれが俺のナチュラルだ。

 扉を開けると中には大きなシャンデリアに数個の大きめなテーブル。 その上に数々の食事が用意されており、それをつまみながら裕福そうな老若男女達が楽し気に話している。


 今俺がいるのは大都市であるヴァルデア王国が一般人向けに開発した遊覧船『アクアマリン』の中。一般人向けって言っても、装飾や食事のクオリティーを凝ってしまったため、少し高めの値段設定になってしまい、結局、一庶民が足を運び難いものになってしまっている。

 各いう俺も、ただの旅人でありそこまで裕福なわけじゃない。だけど折角大都市に来たんだから思い出にと軽い気持ちで金を払いこの船に乗り込んだんだが……。

 自分の服装を見る。茶色の安っぽい布服にボロボロの大きな鞄。


 完全に浮いてるな俺。


 気まずくなった俺は、ワインの入った瓶を掴むと真ん中を突っ切って甲板に出た。

 その後、高そうなローブを来た学生らしき集団。派手な服装と装飾品を付けた数人の男女が入ってきて、遊覧船は出港した。



 *************



 数時間後。酒を飲みながら沖からヴァルデア王国の夜景を見る。煌びやかに光るその光景は美しいものなのだろうが、俺の目にはどこか嘘くさく、ただのメッキの様に映る。

 何となくイライラし始めた俺は安物の煙草をくわえ、火をつけようとする。


「ダメですよ」


 頭上から聞こえる透き通るような声に反応し、動きを止め頭を上げる。


 上品な真っ白い膝下までのワンピース、首元に高そうなネックレス。そして月に照らされて光る美しい銀髪の女がいた。

 この船は、二階層に分かれており、俺がいる下の階は一般用。上の階が貴族用になっている。


 上にいるってことは、どこぞの貴族様か? 


「あの、聞こえてます?」


 ボーっと見上げていた俺を不思議に思い、尋ねる銀髪女。


 ちょうどいい。イライラをこいつで発散させてもらうか。


「……えっ? 何だって?」


 聞こえないふりをして煙草に火をつける。当然銀髪女の声は聞こえている。そんな俺を見て「なっ!」と驚く銀髪女。


「ちょっと! ここは禁煙ですよ!」

「……えっ? 何か言った?」


 吐き出した煙が上に上っていく。


「ゲホッ! ゲホッ! あなた聞こえているでしょう!?」


 涙目になりながら怒りの表情を見せる銀髪女にさらに煙を吹きかける。


「こ、この!」


 グラスの水をこちらにかけようとする銀髪女。しかしそれを余裕で躱しもう一服。


「はぁ~。あぁ~うめぇ~」

「ぐぬ!!」


 おお、怒ってる怒ってる! その悔しそうな顔が俺の糧になる事も知らずに。


「プリシス様、どうかなさいましたか?」


 俺が銀髪女で遊んでいると、赤い髪の軽そうな銀鎧を纏った女がやってきた。


 へぇ、あいつの名前はプリシスっていうのか。……ん? ”プリシス”?


 俺は出港前に見たパンフレットの内容を思い出す。この国の歴史やらあり方やらが永遠と載っていてしんどいから適当に読んだだけだったが。


 そういえば、この船の立案者の名前もプリシスじゃなかったか? と言う事は、もしかして? いいネタになるかも。


「……実は」


 視線を俺に向けるプリシス。その視線に「ん?」とこっちを向く赤髪女。


「あっ! 貴様ここは禁煙だぞ! 煙が吸いたいなら、この船を降りてからにしろ!」


 眉を顰め叫ぶ赤髪女。


「俺だって降りたいよ。こんなクソ船」


 その言葉にぴくっと反応するプリシス。 やっぱりな! にやけが止まらない。


「ど、どういうことですか?」

「割高な料金、よくわからん食事や酒、上にいる貴族様たちへの気遣い、厳しいマナー」 


 俺はポケットからこの船のパンフレットを出しページを開く。


「何々? ”一般の民にもひと時の幸せを与えたい”か。果たしてこんな所にいて民達は幸せを感じることが出来るのかねぇ~。高価なものに囲まれることが幸せじゃないと思うけどなぁ~」

「おい! 口を慎め!」


 赤髪女が焦ったように、体を乗り出す。


「この内容を書いた奴は、一見いいこと言っている様に見えるけど、実際は民を高い所から見下して、優越感に浸ってるだけの頭の悪い奴なんだろうな」


 パンフレットを海に捨てる。


 ……さて、どんな反応をするかな? 


 上を見ると、そこには激高し剣の柄に手を添えている赤髪女と無表情の銀髪女。


 無表情? これだけ言われて堪えてないのか? おかしいな、俺の経験上、位の高い奴ほど図星を点かれたら怒るはずなんだけど……言いすぎて殺しにかかる奴もいたな。


「よくもこのお方の前でそのような戯言を言ってくれたな!」

「えっ? ひょっとしてこの船考えたのってそちらのお嬢さん? ごめん全然気が付かなくて! ああは言ったけど結構いいと思うよ。何だっけこの船? アクアマリン(笑)だっけ?」

「叩き斬ってやる」


 やべ! ちょっと言い過ぎたかな? 逃げるのは得意だけど、ここは海のど真ん中だし。船の上だと力も使えないし。


 しかし俺の焦りは杞憂に終わる。


「カタリナ、おやめなさい」


 赤髪女を制すプリシス。


 ふぅ、良かった。しかし思う通りに赤髪女、カタリナはキレてくれるのに、プリシスは依然と無表情か。……さて、そろそろやめとくか。このままいくとマジで死刑とか言われそうだし。


 つまらなそうにその場を去ろうとした瞬間プリシスが話し出す。


「確かに、私は自分の価値観を民に押し付けて、自覚はないですが優越感に浸っていたのかもしれません。あなたの発言はとても勉強になりました。ありがとうございます」


 頭を軽く下げるプリシスに、それを見て驚くカタリナ。俺も少し驚いた。


 これだけの事を、俺みたいな明らかに位の低い輩に偉そうに言われたのに、大人な対応をするとは、中々のやり手なのか、それとも本当に反省しているのか……。


「いや、俺も偉そうだった、忘れてくれ」

「いえいえ、忘れるなんて事しません。あなたの語らいで気が付きました。上から見ているだけではなく、下に降りて直に触れ合わないとわからない事もある。なるほど今後に生かしていきます」


 顔をあげて微笑むプリシスに俺は意表をつかれた気になった。


 ……ふっ、なるほど。こういう奴が上にいるなら、この国も案外棄てたもんじゃないかもな。


 プリシスを見て、俺はこの国の未来を想像した。みんなが明るく、平等な国。そこには上座でふんぞり返る奴はおらず、虐げられる奴もいない。そんな国を、この美しい女は作ってくれる、そう信じたいと思えた。


「……達者でな」

「待ってください! お名前を教えていただけませんか?」


 去ろうとする俺を引き留めるプリシス。


 随分とベタな流れだが、乗っておくか。


「エス・サドニア。ただの旅人だよ。それじゃあなプリシス」


 振り返らずに片手を上げる。


 ちょっと臭いかな? でも別れる時のお約束だし……もう二度と会わないだろうからいいか。




「……では、ここでいなくなっても誰も困りませんね」

「え?」


 何? なんていったのこの子? 


「これは仮の話ですが、主人に狼藉を働いた身元不明の旅人を護衛が思わず殺めてしまったとしても、主人はそれを責められないと思うのです。だってそれは忠義の証。そんな忠義心を持つ護衛を持てて、その主人は幸せ者ですね。いえ、特に深い意味はありませんよ? 仮の話です。ね? カタリナ」

「はい、そうですねプリシス様」


 その言い方はちょっと誤解を招きませんか? ほら護衛さんいい笑顔になってますし。


「さて、私は入場者名簿”からも”、一つ名前を消してこないといけないですね」


 身を翻しその場を去るプリシス。


 ”からも”ってなんだ!? あっ! お嬢さん、実はブチ切れていらっしゃったんですね。あの表情は一周回っただけなんですね。


 そんな事を考えていると、上からカタリナが飛び降りて来て剣を抜く。あら、大変よく切れそうな剣ですね。


「おいおい!? ちょっとふざけただけじゃない――おわっっ!」


 横なぎされる剣を後ろに転ぶことで躱す。


 この女、すかさず切りかかってきやがった! よけなかったら確実に首が飛んでたぞ!


「あっぶねー! おい! あんたの騎士道精神は無抵抗の一般人を殺すようなそんな汚いものなのか!?」


 違うよな? 違うと言ってくれるよな?


「あの方が望むのなら、私はどんなに手を汚したってかまわない。それが私の騎士道だ」


 かっこいい事言って目がいっちゃってるよこの人。ていうかやばい!


 迫ってきた二撃目を躱す。


 クソ、早い! 明らかに剣技では向こうが上だな。こうなったら海に飛び込んで逃げるか。


「死ね!!」


 俺は海に向かって走り出す。しかし……


 ドンッ!!


 衝撃が奔り船が大きく揺れる。衝撃により後ろに飛ばされた俺は頭を思いっきり壁にぶつける。


 痛つっっ! いきなり何だ?


 目の前の海面が盛り上がり、中から超巨大な生物が現れる。


「ク、クラーケン!?」


 怯えながら叫ぶカタリナ。


 クラーケンって言えば、海に生息する災厄級の魔物じゃん。 たしか最後に確認されたのが百年前だっけ? へぇ、珍しいもの見たな。


 クラーケンの触手の一本が船の上部分を破壊する。粉々になった上を見る。


 あっ、死んだかも。


 振り上げられた触手を見て、俺はそう思った。



 *************



 目を開けると辺りが明るくなっていた。どうやら朝になるまで気絶していたらしい。


 ここはどこだ? 


 辺りに目を向ける。

 横と後ろの壁はボロボロの木で出来ているらしく所々穴が空いている。天井と正面の壁には申し訳程度に薄い布がかぶせてあり、下は……砂か。どうやら俺は大人が四人入るといっぱいになるくらいの狭い空間にいる様だ。


 ……とりあえず外に出てみるか……あれ? 体が動かない。


 自分の体を確認しようとして下を見る。


 何で俺は縄でぐるぐる巻きにされてんだ? ぐっ! この! ……駄目だ、外せない。


 俺は芋虫のように地面を這いずり外に出る。 日の光が直接顔に当たり目を細める。


 な、なんだここ?


 目の前に飛び出してきた光景に驚く。

 白い砂浜、青い海、深い森に崖、そして大量の船の残骸。どうやら俺が先ほどまでいたのは残骸で造った小屋のようだ。

 いまいち状況が呑み込めない。確か、船で変な女達に殺されそうになって、そしたらクラーケンが出て来て……ひょっとしてここは天国か? いや、そんな訳ないか。じゃあここは……。


「やっと起きましたか?」


 俺が唸っていると横から声が掛かる。


「ん?」


 聞き覚えのある声に反応し顔をそちらに向ける。そこには船に乗り合わせていたプリシス、少し後ろにカタリナがいた。



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