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第六章 兄との再会
「まさか兄貴の婚約者が師匠の娘のみゆきさんだったとは・・・。」タケルは面喰っていた。
カズユキ「お前、みゆきさんとどういう関係なんだ?」カズユキはやたら興奮気味に話してきた。一緒に暮らしてたときですらこんなに感情的になったことはなかった・・・。
タケル「別になんでもないよ。俺のホームレスの師匠がみゆきさんの父親だっただけだよ。」タケルはエライ迷惑だといわんばかりの表情で返した。自分を家から追い出した兄とその元凶の女が目の前にいる。いきさつがあったとはいえ心中穏やかではなかった。
みゆき「カズユキさん、タケルさんの知り合い?」
カズユキ「知り合いも何も俺の弟だよ。まさかみゆきさんと知り合いだったとは・・・。」
タケル「べつに知り合いってほどじゃないよ。というか巻き込まれただけだよ。」
カズユキ「お前、みゆきさんに変なことしてないだろうな?」
タケル「するわけないだろ?だいたい巻き込まれただけなんだし。」
タケルはあまりの出来事と久々に会った兄の態度にイライラしていた。こんなことはひきこもり時代にはなかった感情だ。
みゆき「まさかそんな偶然て・・・あるんですね。驚いたわ!」
そう切り出すとみゆきは続けて言った。
みゆき「でも…これもなにかの運命かもしれませんね。父が出ていってそのあとに私がカズユキさんと出会って。タケルさんは実家を飛び出したあとに私の父と出会う。なんかロマンチックじゃないですか?」
カズユキ「ハハ、そうだね。みゆきさんの言うとおり!」
タケル「俺は実家を飛び出したんじゃなくて追い出されたんですけどね。誰かさんに・・・。」
タケルは皮肉をこめて言った。
カズユキ「お、おい!コラ!やめろ!」カズユキは焦ったかのようにタケルに注意を促した。どうやら相当、みゆきに惚れているらしい・・・。
みゆき「改めておねがいします。タケルさん、父に私とカズユキさんを引き合わせてください!私は父に自分の晴れ姿をみてほしいんです。そして…できればまた一緒に暮らしたい・・・。」
カズユキ「タケル、俺からも頼むよ・・・。俺はみゆきさんを心から愛してる。彼女がお父さんと暮らしたいのなら俺もそうしたい!頼むよ!」
タケル「俺にあんたを許せというの?」タケルは急にカズユキに問い詰めた。
タケル「あんたは結婚したいがために無理くり俺を実家から追い出した。それでいて今度は婚約者との父と引き合わせろとか虫がよすぎるんじゃないの?」
カズユキ「そ、それは・・・。」カズユキは答えに詰まってしまった。
家を出るときに恨んでいないと言っていたっがその実、タケルは根にもっていたのかもしれない。
タケル「みゆきさん、申し訳ないけどこの話はなかったことにしてほしい。俺にもプライドがある。自分をホームレスに転落させた相手の片棒かつぐなんてまっぴらだ。」
みゆき「そんな・・・。」みゆきは再び涙目になっていた。感情の起伏が大きい女だ。
カズユキ「ちょっと待ってくれ!」とカズユキが声を大にしていった。
「謝罪すればいいんだな?」と言うとカズユキは店の通路側に出てタケルの前で手をついて土下座し始めた。大の男が飲食店で土下座である。異様な光景だ。
これにはタケルもみゆきも驚いた。
みゆき「ちょっとカズユキさん!なにしてるの?」
カズユキ「いいんだ。みゆきさん、君とのためならこんあことくらい・・・。それに俺はタケルに取り返しのつかないことをしてしまった・・・。もしかしたらお前のことを邪魔者扱いしていなくなってくれればいいと思ってたのかもしれない・・・。すまないタケル、この通りだ・・・。」
タケルはしばらく沈黙したあとカズユキに声をかけた。
タケル「わかったよ、兄さん。顔あげてくれよ。」
そういうと続けざまに話した。
タケル「さっきは悪かった。みゆきさんに対する兄さんの気持ちを確かめたかっただけだよ。別に家追い出されたこと恨んじゃいないよ。もともとは俺が勝手にひきこもってただけだし・・・。それに今じゃこうして普通に人と話せるくらいまでになったんだ。だからむしろ感謝してる。」そういうとカズユキの手をそっととった。
いつにまにかカズユキは涙を流していた。それをみているみゆきも泣いていた。
タケル「兄さん、ひとつ聞きたいんだけどいい?」
カズユキ「なんだ、タケル?」
タケル「師匠はすごい気性が荒い人だからみゆきさんをくださいとかいきなりいったら河に埋められるかもしれないけど覚悟できてる・・・?」
カズユキ「え?マ、マジか・・・?」
タケル「アハハハハ、冗談だよ。本気にした?ビビッた?」
カズユキ「おい!やめてくれよもう~!」
カズユキはホッとした表情になった。
タケル「いや、でも思いっきりぶん殴られるかもしれないし入院は覚悟しといたほうがいいかも?」
カズユキ「・・・。」
みゆき「あははは、父ならやりかねませんね!」
カズユキ「み、みゆきさんまでそんなこと言わないでよ~!」
3人はいつの間にか笑顔になりながらレストランを後にした。