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            第五章    八兵衛の娘


 一夜明けてタケルは目を覚ました。いつものように空き缶回収の準備にとりかかる。隣ではいつのまにか八兵衛が酔っぱらって寝ていた。

 タケル「昨日はいろいろあったみたいだし今日は師匠は寝かせといて自分だけで行って来よう。」と思った。

 タケルはなぜか八兵衛を師匠と呼んでいた。ホームレスになってなんとかかんとか生き延びられてるのは八兵衛のおかげにほかならない。自分1人ではもうとっくにどこかで野たれ死にしていたかもしれない。そういう思いからか普通に師匠とよんでいたのだった。

 通りで空き缶を拾い業者に売り渡して現金を受け取る。今日は2000円だった。つい一ヶ月前にきたばかりなのにすっかりなれて板についてきたなあと思った。

 「おなかすいてきたからなんか食うか。」と近くの飲食店に入ろうとした矢先である。

 「あの、すいません。」

不意に女性に呼び止められる。聞き覚えのある声だった。振り返ってみるとそこにいたのは昨日八兵衛に会いに来た女性だった。

「あれ?あなたは昨日の・・・。確か師匠の娘さんですよね・・・?」

 女性「はい!昨日は父のことでいきなりお邪魔してすいませんでした。今日は折り入ってあなたにお願いがあって来ました!」

 「俺にですか・・・?ハア、なんでしょう?」気のない返事でタケルは返した。おおかた八兵衛のことだろうと予想はつく。昨日の感じから関係のない自分は巻き込まれたくないというのが本音だった。しかし八兵衛の娘なら無下に断るわけにもいかないと思い渋々返事をする。

 タケル「わかりました。とりあえずどこかでご飯食べながら聞いてもいいですか?腹が減ってるんで・・・。」

 女性「わかりました。ではあそこのレストランで食べましょう。」

ということで2人は近くのレストランに入る。

 席についてメニューをみてとりあえず定食を頼む。

 「そういえば俺、女性と2人で食事するなんて人生初だな・・・。」とタケルは思った。タケルは女性とデートというものをすること自体人生初であった。

 「あの、お話ししてよろしいでしょうか?」

 「あ、はい。」

「私は八兵衛の娘のみゆきといいます。いつも父がお世話になっています!」女性はいってきた。八兵衛とは似ても似つかないほどの綺麗な顔立ちとしつけのよさそうな話し口だ。と、みゆきは話し始めた。

 「昨日、父の前でお話しした通り私は近々結婚するんです。それで父になんとか式にきてもらいたくて・・・。」

「ああ、やっぱりそんなことか・・・。」とタケルは内心うなだれた。昨日あったばかりだが正直一目惚れしそうなほどの女性だった。なにか自分に個人的に用事があってきたのかとちょっとだけ期待したが案の定、そんなことはなかった。

タケル「それで僕にどうしろというんですか?」

みゆき「父との仲を取り持ってほしいんです!たぶん、あなたの頼みなら聞いてくれます!そんな気がします!」

 「なんか面倒なことになってきたなあ・・・。」タケルは思った。

特に自分には関係のない人間の話。しかも結婚相手がいるらしいし自分にはなんの得もない・・・。断ろうかと思ったが・・・。

 みゆき「もちろんただでとは言いません!前払いで10万円お支払いします!謝礼も出します!ダメでしょうか・・・?」といってきた。

 タケル「じゅ、じゅうまん・・・。」タケルは言葉を飲んだ。

実は家出前に親からもらった金はいろいろ食べたり飲んだりしてほとんどなくなっていた・・・。たった1ヶ月でだがいろいろストレスがあってかホームレス生活開始してから毎日のように八兵衛と夜通し飲み歩いていた。おかげですっかり金は尽きていた。10万円稼ぐのは容易ではない。しかも謝礼もあるとのこと・・・。タケルはちょっと間を置いて回答した。

タケル「わかりました。ではとりあえずやってみます。10万円は契約金ということでうまくいくいかないにしてもいただきますがよろしいですか?」

みゆき「はい、それでよろしいです。お願いします!」

あまりの潔い態度にタケルは戸惑った。

「あんな飲んだくれのキチガイ親父のどこがいいんだ?」と思いみゆきに聞いてしまった。

タケル「あの、ひとつ聞いてもよろしいですか?」

みゆき「ええ、なんでしょうか?」

タケル「なんであの人のことそんなに大事に思ってるんですか?借金作って散々迷惑かけられたと聞いてます。もう別居してるなら結婚しようがしまいが関係なくないですか?」

みゆき「それは・・・。」少しの間沈黙した後みゆきはタケルに答えた。

みゆき「父はああみえて昔はずっと優しかったんです。工場も普通に経営がうまくいっていて・・・。でもあるとき母が病気で倒れて1日中寝込んでしまって・・・。そこからおかしくなってしまったんです・・・。」

タケル「え?お母さんが倒れてたんですか?」

みゆき「はい、母が倒れてから生活は一変しました。病院代を得るために父は知り合いや銀行からお金を無心していたんですがだんだんと借してもらえなくなり・・・それで街金までかりるようになったんです・・・。」

タケル「・・・聞いてた話と全然違うじゃないか!」タケルは八兵衛が自分に言っていた話がまるで違っていて驚いていた。

みゆき「幸いその後母は持ち直して元気になりました。でも気づいたら相当な借金をかかえていて・・・。」

みゆきは話してる途中から涙を流しだし話を続けた。

 みゆき「父は苦肉の策で自分の工場を売りに出してそのお金で借金の返済にあてたようです。でもそれだけじゃ足りなくて家も売りに出してなにもかも失ってしまったんです。それから数年後…父は毎日酒に溺れるようになってしまいある日忽然と私と母の前から姿を消してしまったんです・・・。」

タケル「・・・。」

みゆき「母は自分のせいだと悔やみながらもパートなどで生計をたてて私を大学まで出してくれました。でも最近になってまた持病で寝込んでいるんです。母が生きてるうちに父と仲直りさせてみんなで暮らしたいんです!」

タケル「なんというか・・・すごい人生歩んできたんですね・・・。」

タケルはそういわずにいれなかった。

みゆき「今は私も就職して母の面倒をみながら暮らしています。そんな私を会社の上司がよくしてくれて…。その方と結婚することになったんです。彼に父のことを話したら結婚した後に母とともに父も面倒みるから一緒に暮らそうと言ってくれたので・・・。私もそうしたいんです!」

タケル「そうでしたか。すごい苦労されてきたんですね・・・。なんか自分のことのようで・・・。わかりました。できる限り協力させていただきたいと思います!」

タケルは快く承諾した。始めは金目当てだったが今はそんなことどうでもよかった。恩人である八兵衛と娘のみゆきの仲を自分がちょっとでも取り持てれば…とそう感じていた。

みゆき「ところで・・・父に紹介したい相手がいるんですが一度その人に会ってもらえませんか?」

タケル「俺がですか?まあいいですが・・・。ひょっとして婚約者の方?」

みゆき「そうです。今、私を迎えに来てくれるんですがちょっとだけタケルさんに会っていただきたくて・・・。よろしいでしょうか?」

タケル「え?今ですか?」あまりの唐突なことにタケルは驚いた。顔に似合わずみゆきは大胆な女であると感じた。

タケル「まあ、別にいいですよ。どうせすることないので・・・。」

みゆき「よかった!タケルさん、雰囲気がなんとなく彼にそっくりなんでぜひ父に紹介する前に彼に会ってもらいたいとおもってたんです!」みゆきは感激したかのような顔をしていた。「なんかますます面倒なことになったな。やっぱり断ったほうがよかっただろうか?」と考えてると店のドアがチャリーンと開いた。

みゆき「あ、彼が来たみたいです。タケルさん、連れてくれんで待っててください!」とみゆきは一目散にその相手を迎えに行った。「ラブラブだなあ~まったく・・・」やってられないぜ的な心境になりつつ待っている。しばらくしたら相手を連れてみゆきがやってきた。

みゆき「タケルさん、お待たせしました!私の婚約者のカズユキさんです!」とみゆきが婚約者を紹介する。

「ん?カズユキ?どこかで聞いた名前だな?」と思いつつ相手に挨拶をする。

タケル「どうもはじめまして。みゆきさんのお父さんの友人のタケルです。」ととりあえず挨拶してみると・・・。

「タケル?お前タケルか?」とその婚約者から声をかけられた。

「え?」とキョトンとした表情になり相手の顔を伺う・・・。「そういえばどこかで聞いたことのある声だ・・・。まさか・・・」

そこにいたのは・・・そう、タケルの兄のカズユキだった。カズユキの結婚相手とはなんと八兵衛の娘のみゆきだったのだ!なんという運命のイタズラであろうか・・・。

カズユキ「お前、こんなとこでなにしてんだ?みゆきさんとどんな関係なんだ?」

タケル「いや、それは・・・。」途端に険悪な雰囲気になった・・・。「最悪だ・・・。」タケルはその場からすぐにでも逃げ出したくて仕方なくなっていた・・・。








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