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第三章 謎のホームレスじじい
「おい、おめえ!一体ここで何してんだ、小僧!ここは俺の敷地ダゾ、ボケエ!!!」酔っぱらいじじいは怒鳴りかからんばかりの声でタケルに詰め寄ってきた。
「す、すいません、ちょっと行くあてなくてここで休憩してました。まさかこんなとこに住んでる人がいるなんて知らなかったもので・・・。ゴメンナサイ!!!」タケルは慌てて誤った。じじいは相当、酔水していたようだったがそれでも10年以上家にひきこもっていたタケルより喧嘩なれしていて下手すれば死ぬまで殴られるかもしれないと思った。ついさっき自殺しようか考えていたのがウソのようにタケルはビビリまくってしまった。
じじい「なんだおめえ、行くあてないって家でも追い出されたんか?」酔っぱらいじじいは怪訝な顔しながらそう聞いてきた。
タケル「実は・・・。」タケルはとりあえず家を追い出されるまでの事情を話した。
じじい「そうか、そんな事情だったとはな。怒ってわるかったな。小僧。そういうことならとりあえずゆっくりしていけや。」じじいは急に態度をガラリと変えて穏便になった。どうやらこのあたりをねぐらにしているホームレスのようだった。そういえば酒の臭いの他にいろんな臭いがする。おそらく何日も風呂に入ってないのだろう。
じじい「てっきり俺の敷地を他のやつに取られちまったかと思ってよ。おめえ、名前はなんつーんだ?どこからきたんだ?」
タケル「名前はタケルです。極貧市からきました。」
じじい「ほう、タケルかいい名前だな。極貧市とはまた遠くから来たな。俺はこのあたりを住処にしてる八兵衛っていうんだ。よろしくな。」そういうと八兵衛というじじいはダンボールと新聞紙を広げてそこにうずくまって大きないびきをかいて寝始めた。
「グガー、グガー!」すごいいびきだった。
途端に力が抜けて行った・・・。
知らない人間に詰め寄られて死を一瞬覚悟した。自殺を考えていても自分の本心ではやはり死にたくないんだ・・・っていうのがよくわかった。
脱力したタケルはそこでそのまま夜を明かしていた・・・。
翌朝・・・。
「おい起きろ、タケル!!!いつまでも寝てんじゃねーよ!!!」
甲高い声に叩き起こされ目を覚ました。
目を開けると八兵衛がタケルの枕元に仁王立ちしていた。タケルはぎょっとして飛び起きる。
八兵衛「いつまで寝てんだおめえ!さっさと支度しろ!いくぞ!」
タケル「行くってどこへですか?」
八兵衛「決まってんだろ、市内を歩き回って空き缶回収すんだよ。あとで業者が一缶10円で買ってくれるからよ。はやくしろ!」
昨日、バッタリあってしまっただけなのになぜか自分を駆り出そうとしてる八兵衛。タケルは「いや、僕は今日ここを出るんで・・・」と断ろうとしたが「つべこべいってんじゃねーよ!俺が行くって言ったんだから黙ってついてこいや!」と物凄い勢いで囃し立ててきた。
「断ったらエライ目に合わされそうだし・・・。仕方ない、行くか」と渋々ではあるが手伝うことにした。にしてもこの八兵衛という男、やたら血気盛んである。とても60を超えてる爺さんとは思えない。一体、どんな人生を送ってきたのだろうか・・・?
「よし、今日はこれで運ぶか。」八兵衛は大きめのリヤカーを持ってきて「おいタケル、おまえこれ引っ張ってくれ。」と言ってきた。
「なんで僕がこんなことやるんだ・・・?」心の中で思いつつも渋々リヤカーを引っ張る。
八兵衛「おいおめー、俺よりずっと若いんだからそんぐらいもっと楽に引けよ。情けねえなあ~。」八兵衛はただ歩いてるだけだがめちゃくちゃ毒を吐いてきた。
タケル「クソ、言いたい放題言いやがって。これじゃまるで前に勤めてた会社の上司と変わらないじゃないか?」そんな感じで心の中で思いつつ路上に出る。
市内にはいたるところに空き缶が散乱していた。個々の周辺住民はどうもマナーが悪いらしく八兵衛はリヤカ―で空き缶回収して生計をたてているようだった。
2時間ほどリヤカーを引いたら結構な量になっていた。リサイクル業者がやってきて空き缶と交換で現金を八兵衛に支給する。
業者「今日は300缶ですね。1缶10円なんで3000円になります。」八兵衛はその小銭をサッと懐にしまった。
「これだけ働いて無給か・・・」タケルはやってられないなあと思った。「とっととこんな人のいるとこから離れよう。」と思った。
八兵衛「おい、タケル!」と八兵衛はタケルを呼んだ。
タケル「は、はい!なんでしょうか?」
タケルは完全に八兵衛にビビッていた。ひょっとしたらヤクザよりもタチの悪いじじいに絡まれてるのかもしれない・・・と焦っていた。
八兵衛「今日はご苦労だったな。とりあえず飯でも食いにいくぞ。」とまたもや強引に言ってきた。
タケル「い、いや僕はもう違う町に出ますんで・・・。」
八兵衛「固いこといってんじゃねーよ。どーせ行くあてねーだろ?まあ、しばらくここでゆっくりしていけよ。今日は俺のおごりだ。朝から飲むぞ!」と無理くり近くの食堂に連れて行った。
「ああ、僕、これからどうなるんだろう?」タケルは絶望感に打ちひしがれていた…。