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           第一章    37歳の引きこもり男、タケル


 37歳のタケルは無職で実家に引きこもっていた。37年生きてきて彼女いない歴=年齢。正社員歴は数年でその後は実家でひきこもり生活を送っていた。

自分にはもう、人並みの生活は送れない、もう人生終了したものだと思い込んでいた。

 大学卒業後、最初に入った会社はいわゆるブラック企業であった。

毎日朝8時から夜の12時くらいまでサービス残業の日々。

営業職なのでノルマを達成できないと上司と先輩に怒鳴られる日々…。「バカ野郎、おめえ!!今月売上いくらなんだよ?給料に見合った以上の仕事しろや、使えねえなあ!!!」「おまえ1人雇うのにいくら使ってると思ってんだ!仕事できねえやつはウチにはいらねえんだよ!!!」そんな人格否定的なことをほぼ毎日言われていた。

それでも文句ひとつ言わず働いてきた。

しかし、3年目のある日上司に呼ばれて言われたのは非情なる宣告だった・・・。

「君、来月から来なくていいから。申し訳ないけど君のような会社の戦力にならないような人間は置いておくわけにはいかないんだよ。」あまりにも残酷すぎる言葉だった・・・。

 タケルはショックのあまり病気になり一年ほど通院生活を余儀なくされる。

「あんなに必死に頑張ったのになんで僕がクビなんだ?世の中間違ってる!僕以上に不幸な人間はいない!神様はなんて残酷な仕打ちをするんだ!」そんな風に自暴自棄になる闘病生活だった。

 やっと通院生活を終え、タケルは仕事を探すが今度は就職活動で地獄を見る。

履歴書を送っても送っても面接される前に落とされる。

やっとのことで面接までこぎつけるも面接官には「なぜ前職を辞められたんですか?」「空白期間はなにしてたんですか?」「仕事を辞めたのは単にあなたに根性が足りなかったからではないんですか?」とここでも人格否定されるようなことを言われる・・・。

散々ボロクソに言われた挙句、不採用の通知が届きタケルは完全に心が折れてしまった。

27歳だったタケルはそれから完全に実家に引きこもってしまった・・・。

「こんなに酷いこと言われるなんて耐えられない!社会に出たくない!」そんな風に考えるようになっていった。

 親と兄は最初、タケルに同情的であった。「しばらくゆっくりして元気になったら働けばいい!」そんな風に言ってくれていた。

 しかしタケルは完全に労働意欲というより人間関係そのものが嫌になっていた。必死に勉強して大学に入ったにもかかわらず社会に出た途端、人格否定されゴミのような扱いをされたのだ。こんな屈辱的なことはタケルの人間としてのプライドが許さなかったのかもしれない。

 「もう2度と社会では働きたくない、誰とも関わりたくない。」そう心に決めていた。タケルが負った心の傷はあまりにも大きすぎた・・・。

 それから10年の日々が経っていた。

 その間、親や兄、親戚などはなんとかかんとかタケルを社会復帰させようとしていた。地域のボランティア活動に参加させたりサークル活動に無理やり参加させたりしてみた。しかしどれもこれも3日足らずでタケルは飽きて辞めてしまった。ちょっとした人間関係、人と話すということすらもタケルは恐怖にかられるほど病んでいた。タケルの心は絶望というおおきな闇に覆われていたのだった・・・。

 タケルが社会復帰しないと心に決めたのを知り、家族はなにも言わなくなった。何を言っても無駄と思ったのだろうか。

 10年間のほとんどをタケルは自分の部屋にひきこもり生きてきた。外に出たのは強制的にボランティア活動とサークル活動をしたときくらいだ。

10年の引きこもり生活でタケルの体系はエライ変化していた。60㎏だった体重は100㎏を超えブクブクの体系になっていた。1.0あった視力は0.2ぐらいまで落ち、メガネが必須になっていた。

 この10年間、一度たりとも働いたことはなかった。家の手伝いすらしていない。我ながらクズであるとタケルも認識するほどであった。当然ながら家には1円足りともいれていない。親からすれば大学まで入れたのにこの上なく親不孝な息子であろう・・・。

 「もう一生働くこともなく、このまますねかじりして死んでいくんだろうな・・・。」タケルはそう思っていた。

 ある日タケルは家族と食事中に思ってもいなかったことを言われる。

父「申し訳ないがこれ以上、お前を家に置いておくわけにはいかない。近いうちに家を出て行って欲しい・・・。」

父は断腸の思いでそうタケルに告げた。

母は涙を流し、兄のカズユキもまた辛そうな顔をしながら言葉を口にした。

カズユキ「俺、結婚を前提につきあってる女性がいるんだ。その人と結婚しようと思ってる。そのあとは・・・ここで父さん母さんと4人で暮らしたいと思っている。おまえに家に居座られたら彼女との結婚は破談になってしまうかもしれない・・・。すまないタケル、家を出て行ってくれ!」

あまりの唐突すぎる話に動揺しつつもタケルは頷き言葉を口にした。

「そうか、兄さんおめでとう!いいんだ、誤らなくて。俺のほうこそ10年も家に何もせずに居座って申し訳なかった。俺がちゃんと働いて金を家に入れてればこうはならなかった。自業自得だよ。父さん、母さんも自分を責めないでくれ。」

母「ごめんなさいタケル、あなたのことが嫌いだからじゃないの。カズユキのためなの。許して。」母は嗚咽しながらそう言った。

父「すまん、タケル。少ないかもしれないがこれで勘弁してくれ・・・。」父はそういって貯金通帳と印鑑を一個タケルに差し出した。通帳には50万ほどの貯金がはいっているようだった。

タケルは思った。「ああ、これはつまり…この金で親子の縁を切ってくれということなんだろうな・・・。」



1週間後、タケルは実家を後にした。

わずかばかりの貯金通帳と印鑑を持ちあてのない身に陥ってしまったタケル。果たしてこの先どうなってしまうのか本人にもなにもわからない状態の船出であった・・・。












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