涙より笑顔……母親との約束
第五話目の投稿です。今回はなるべく早めに投稿できるようにがんばりましたっ
『落ち着いたかの?』
「あぁ……なんとか……」
学園長のハーレム発言の後、動揺が止まらなかったが今はだいぶ落ち着いてきていた。でもまだこの学園に入ると決めたわけじゃないしな……まぁ、最悪あの家で一人暮らしでも……って、あのバケモノに壊されてたんだったな。
『それじゃあまずはあのバケモノの説明を行うからの、お主も被害者じゃからな。』
「あぁ……よろしく頼む」
『それじゃあ教室に行っておれ、今からそっちに担任を向かわせるからのぅ』
「教室?」
そう俺がつぶやくと咲が大きな髪を広げて俺に見せながら、あるところを指さした。
「今ここに書いてあるのは全部この学校の敷地なんです。それでここが、教室。ここからそう遠くはありませんので、歩いて行ける距離ですね」
「いや、その前にこれ全部が学校の敷地ってことに驚きなんだが……」
その地図は一つの都市がまるまる書かれているような地図だったが、そこには桜歌学園と書かれ、なにやらいろんな施設の名前までびっしりと書かれていた。
「そこはほら、ここの学園長とすべての国が話し合ってお金を出して作った場所だから、これくらいはあってしかるべきだと思うわよ?」
「え……? それってどういう……」
「それも……教室で説明されますから……今は……行きましょう」
俺が聞き返そうとした時、唯楓さんに遮られてしまった。確かに教室でまとめて話してもらった方が効率もいいしな。というわけで俺達は教室へ向かうことにした。
あれから十分歩いた後、とあるドアの前で咲がくるっと回って俺の方を向き、ドアの方を指さした。
「ここが私達専用に作られた特別な教室です。ここでこれからいろいろと説明をすることになりますね」
「あぁ、ありがとな」
「い、いえ……私はただ案内しただけですし……」
そういって顔を赤らめる咲を見ていると俺はふと思う。なんだこの可愛い生物は……と、お持ち帰りオッケイだろうか……。それはともかく、引き戸のドアをゆっくりと開ける。今までの豪華な道を通ってきた分、教室も物凄い豪華なんだろうと思い、何が来ても驚かない準備をする。そしてゆっくりと引き戸を開ける……すると。
「おにぃ~さ~ん!」
「きゃん!?」
開けた瞬間なにかに激突された俺はそのまま壁にぶち当たった、なんか自分でもびっくりするほど可愛い声を出したことは無視することにしよう。そして、今日はなんだかいろんな場所を強打する日だとしみじみ思いながらもぶつかってきたものを確認する。コーラルレッドのツインテールを揺らしながら俺の胸に擦り寄ってくる少女だった。
「……えっと……なにこの小学生は……」
「むっ……ひどいよおにぃさん! 私は正真正銘お兄さんと同じ14歳なんだよ?」
心外というばかりに俺から離れて、腕を組みながら丸っこい目を少し釣り上げる自称14歳、チェリーピンクの瞳で俺から目を離さずに続けた。
「そうだっ、自己紹介を忘れてたね。私は瑞乃汐織っ! 好きなものはアイスクリーム! 嫌いなものはピーマン! よろしくねっ」
ウィンクしてにこっと笑う姿を見ながら、初対面の相手にテンションが高いことこの上ない子だという印象しかない子だが、他に言うとするならば子供っぽい……というか子供だ。ピーマンが嫌いって小学生かよっ。
「す、すみません九葉さん!瑞乃さんが粗相をっ!」
そういって瑞乃汐織を俺から引き剥がす咲。その体格差から親子に見えなくもなかったので、少し微笑ましいと思ってしまった。
「この子が……さっき話題に出たもう一人の子です。……見た目はこんなんですが……私達と同い年になる……」
と、唯楓さんが説明してくれる。
「こう見えて……というか、こんなんでも私達の中では一番知識を持っているのよね。信じられないと思うけど」
本当に信じられないでしょ? とでもいうような表情で俺の方を向いてくるクロ、確かに同意だ。
「失礼だよー! くろちゃん!」
むぅ……と頬をふくらませている姿を見ると……、うん、やっぱり子供だ。
「むぅ……なんかお兄さんに失礼なことを考えられた気がしたけど、まぁいいやっ。はいは~い、皆席について~、今日は特別に~私がおにぃさんにいろいろ教えちゃうよ~っ!」
と、パンパンっと手を叩きながら教壇の上に乗った汐織ちゃん、見た目の関係で汐織ちゃんと呼ばせてもらうようにするが、その汐織ちゃんが手で机の方を指さし座るように急かす。三人はやれやれといったふうに席に着く。どうやらこういうのはよくあるらしい。
「さて、それじゃあ授業を始めま~すっ」
といって眼鏡をかける汐織ちゃん、眼鏡の丁番のところを指先で上げ下げし、ふふんっ、と言ってドヤ顔をこちらに向けてくる。ロリな容姿のせいでその光景は異様に見えてしかたなかった。
「なぁ……なんで汐織ちゃんはメガネをかけてるんだ?」
咲の方を見ながら聞くと。
「さ、さぁ……なんでしょうかね」
と、苦笑いで返されてしまった。
「たぶん私達の担任の影響じゃない? あの人も眼鏡だし、ああやってドヤ顔してくるし……」
と、クロが教えてくれた。担任の先生か……今はまだ会えてないけど変な人なんだろうか……。
そう考えていると、汐織ちゃんが教卓をぱんぱんと叩き、授業をはじめるよ~、と言って合図を送ってくれる。その姿を見るとやりなれてる感じがする。
「それじゃあまずは~お兄さんが見たあのバケモノについて説明をするよ~」
液晶の黒板に俺が見た蜘蛛型のバケモノが映し出される。それを見た瞬間、体からは嫌な汗が流れて鼓動も早くなっていると感じていた。前のようなパニックにこそならないが、体調はあまり良くない。
すると突然、手がなにかに包まれる感覚がした。
「え……っ?」
その感覚を感じて咄嗟に右に振り向くと、唯楓さんが両手で俺の手を包み込んでくれていた。そしてゆっくりと視線を合わせて口を開いた。
「大丈夫……」
「っ……あ、ありがと……」
その声音は無表情なのにも関わらず優しく感じられた。ただ一言、大丈夫の一言だけでさっきの嫌な汗も止まっていた。その優しい暖かさに母さんと重ねてしまったが、すぐに頭の中から溶けていくように消えていった。
「……それじゃあ、続けるね?」
「あぁ、悪いな。続けてくれ」
うんっ、と優しく微笑む汐織ちゃん、周りからもふぅ、と安堵したかのような音が聞こえた。皆にも気を使わせてしまったことに少し罪悪感を覚えながらも、嬉しい気持ちをすごく感じた。
「それで続きだけど、この蜘蛛の正式名称はカオス・マター……私達は短くカオスって呼んでるんだけど、実はこのカオスは蜘蛛だけじゃないんだよね、はいっ、くろちゃん!」
ビッと、クロを指さす汐織ちゃん。どうやら指名形式で教えてくれるらしい。クロが席から立ちあがる。
「カオスに決まった形はないわ。この世に現存している物の形をかたどったものもいれば……ドラゴンなんかの架空の存在になるものもいるわね」
「は~い、くろちゃんだいせいか~い!」
そっと席に着くクロ。
ふむ……ってことはどんなものがくるかは来てみないとわからないってわけか。ドラゴンとかが出たら大変だな……って、あれ?
「ちょっといいか?」
「はい、お兄さん!」
手を上げると教卓から身を乗り出してくる汐織ちゃん。落なければいいな、と思いながらさっき思った疑問を聞いてみることにした。
「そんなカオスが存在しているのに、俺は今まで一切聞いたことがなかったんだが……それはどうしてなんだ?」
するとまた眼鏡を指でもちあげながら口を開き。
「いい質問だよ~! カオスは、今までにこの学園から出たことがなかったの、ううん……出してなかった、の方が合ってるかな? この学園はさっきくろちゃんが言っていたように学園長とすべての国が話し合ってお金を出して作った場所なの」
確かにクロはそう言っていたが、あの時はその意味がわからなかったのだ。なぜ全ての国が学園長と話し合ってこの学園を作ったのか。
「実はね~、カオスはこの学園でしか発現が確認されてないの」
「は……?」
つまりはあのカオスというバケモノはこの学園の敷地内からしか現れないということだろうか。だったら……
「なんであの時は外に……」
そういうと汐織ちゃんだけでなく、他の三人も申し訳なさそうな顔をする。
「それは……ね、運が悪かったの……」
「運が悪い?」
汐織ちゃんはこくっと頷き。
「カオスが外に出たときはね、カオスが外に出ないように学園の柵にかけられているバリアの調整中だったの……その時に出てきて……」
……それじゃあ……母さんが死んだのはたまたま、運が悪かった。たったそれだけのことで……。
「そんな……そんなのって……」
なんとも言えない気持ちになった。母さんが死んだのは偶然、たまたまで……ただ運が悪かっただけ。それがすごく悲しかった……優しかった母さんが……こんな出来損ないの俺を、優しく抱きしめてくれた母さん……。
「ごめん……なさいっ…」
「え……?」
母さんのことを思い返していると……後ろの方から声が聞こえ、声の聞こえた方を振り向くと、そこには……涙を流した咲がいた。椅子に座りながら、膝の当たりで手を強く握り締めて俯きながらでもはっきりと涙を流していた。
「どうして咲が……謝るんだ?」
俺がそう言うと……。
「私達が……私がっ! もっと……早く見つけて倒していればこんな事には……本当にごめんなさいっ! 私を殴ったり……罵ったりすれば怒りが収まるのなら……喜んでお受けしますっ!」
……俺はそう言って涙を流して震えながら俺を見る咲きを見て思った。俺は何をしているんだろうか、目の前の女の子を泣かせている。周りの子がそれを止めないのも、皆が皆……咲と同じ思いだからだろう。
「……っ……え?」
俺は咲の頭を撫でていた。なんで撫でたのか、ほぼ無意識だったけど、きっと俺は小さい頃母さんに言われたことを思い出していたからだろうか……。俺は咲の頭を撫でながら、あの頃のことを思い返していた。
**
俺が思い返したのは、とある原っぱで俺と母さんの二人でピクニックに行った時だった。
「蓮……」
母さんは優しい声音で俺の頭を撫でながら俺の名前を呼ぶ。
「なに? お母さんっ」
「誰かが泣いている時、その人を笑顔にしてあげられる……そんな人になってね」
そう言う母さんに対してその理由が分からなかった俺は。
「なんで?」
そうお母さんに聞き返した。すると母さんはふふっと、笑って言った。
「だって……それがもし悲しい涙なら、その人の悲しみをなくしてあげないと、その人の気持ちは悲しむことに慣れてしまうでしょう? そうなったらその人はずっと悲しんでしまうから……だから、涙は嬉し涙だけ……お母さんはそうあってほしいって思ってるの」
そういった母さんの目は優しくも、少し悲しんでいたように思った俺は、いてもたってもいられなくなって母さんに抱きついた。
「蓮……?」
「約束する……僕……悲しんでいる人を助けられる人になるよっ! 」
「ふふっ……ありがとう、私の可愛い蓮」
そういって俺の頭を撫でながら笑っていた母さんの顔を俺は思い出したのだった。
**
そして俺は咲の頭を撫でている。俺は今どんな表情をしているだろうか……わからない。でも、俺は告げる。
「大丈夫だ……確かに母さんを失ったのは悲しいし……怒りだってある。でも、それは咲や皆に向けるものではないからな。だから大丈夫だよ」
「九葉さん……」
咲は涙をぬぐい、目元を赤くしながらもにこっと微笑んだ。これでいいんだよな、うん。俺は……ダメダメで何もできないけど、こうやって人を笑顔にできて……よかった。
母さん……俺は母さんが願った男の子に近づけたかな……
**
ーー少年は思い出を振り返りーー
ーー笑顔を守るーー
ーー少年は倒す力を知るーー
ーー少年は戦えるの……かーー
皆さん、五話を読んでいたたぎありがとうございます。
つい最近のことなのですが、この小説になろうのホームページを開いた時にお気に入りが増えていたのとと感想が来ていたのを見て、とてもうれしくなって人前でついはしゃいでしまいました。
こういうものは本当に励みになりますね。今後書いていく活力になるのと、それを見てにやにやしてしまいますが、これだけでもご飯三杯は軽く行けると思いますっ
次回もなるべく早めに投稿できるようにしていきたいと思いますので、皆さん、よろしくおねがいしますっ