one stormy (k)night
思春期さしかかりごろのお話
その夜は、珍しく嵐のような風雨で、深夜には雷まで鳴り出した。
私は自室の寝台の中で丸まってブルブル震えていたが、ピカッという雷光とドドーンという大きな音で、もういてもたってもいられずブランケットを体にぐるぐる巻いて部屋を飛び出した。
一応警備のため近衛兵が廊下にいるのだが、そうそう張り付いているわけでもなく、たまに休憩室でくつろいでいるのも知っている。なんというか呑気な国だから。
そんなわけで、特に問題なく、ルイの寝室までひとっ跳び。
なんといっても生まれたときからの気心知れた仲、ノックもせずにルイの部屋へ飛び込んだ。
「え? マリ? どうしたの?」
寝台に沈んでいたらしいルイはすぐに起き上がった。どうやらまだ眠っていなかったらしい。よかった。まあ寝てても起こしたけど!
「ルイ……一緒に寝てくれない? 雷がどうしても怖くて」
「えっ」
「私が雷ダメなの知ってるでしょ? ミルカは一度寝ると起きてくれないし……」
そうなのだ、あの呑気な女官は一度眠ったら雷が鳴ろうが地震が起きようが槍が降ろうが私が奇声をあげようがまったく目を覚まさない。朝の起床時だけはちゃんと起きるのだが、それはきっと女官長が怖いからだ絶対そうだだって私もそうだもの。
「だ、だめだよ、自分の部屋に戻れよ」
「いいじゃない、大体去年までは一緒に寝てたのに、どうして部屋を分けたのよ。寝台が狭くなったのなら大きいのに替えればいいのに」
そう言いながら私はとっととルイの寝台に乗り上げた。
「マ、マリ! だめだよ、マリは女の子で僕は男なんだから!」
「なに当たり前のこと言ってるのよ。いいから少し寄ってよ」
モメているうちにまた雷がピカッと光った。
「ひゃああああああ!!!!」
私はひしっとルイに抱きついた。ぎゅっと目を瞑ってしがみつく。ひー、雷コワイ! 女官長と張るぐらいコワイ!!
暫くしがみついていると、ルイが微動だにしないことに気付いた。見ると私が抱き着いている胴の両脇にあるはずであろう両腕が上にあがって万歳のカタチになっている。
「ルイ、どうしたの? なんで建国記念日でもないのにバンザイしてるの」
「…………」
「ルイ?」
「……いや、なんでもない。うん、なんでもない。ほんとに、なんでもない」
ルイは呪文のように『なんでもない』を繰り返した。
「あれルイ、なんか少し太くなった? 前と少し匂いも違うような……」
ルイの腰回りを擦り、首もとをすんすんと嗅ぐ。ルイが「ひー」と変な声を挙げた。なに。
とかやってる間にも雷はゴロゴロ言っている。こっちだって「ひー」だ。ダメだ。ともかくルイを隣に据えてデュベに深く潜って眠ろう。
「ともかくもう寝よ。朝になったら自分の部屋に戻るから」
ルイがしつこく『ダメ』とか『女官長を起こせ』とか『ミルカを寝台から蹴落とせ』とか言ってたけどもう知ったことではない。ルイの胴に手をまわしたまま横たわる。久しぶりに隣に温もりを感じ、私はあっという間に眠りに落ちた。
翌朝、爽やかに目が覚める。窓の外を見やると、そこには昨夜の雷が嘘のような爽やかに晴れた空。
ベッドの隣を見ると、ルイはこちらに背を向けて寝ていた。
「ルイ……? おはよう……起きてる?」
眠っているのか、反応がない。そういえば、小さい頃からいつも先に起きるのは私だった。
「相変わらずお寝坊さんなのね」
私はこっそりそう呟くと「ありがとね」と寝ているルイの頬にキスを落とし、寝台を出た。
私がルイの寝室を出たあと、ベッドの中がもぞりと動いたことは、知る由もない。
「ふざけるなよ…………!!」