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SpiritⅡ 奇妙な同棲生活

けっこう勢い任せで書いている作品だと作者は思いました…(汗

――――朝。

ベッドから身を起こし、大きく伸びをする。ベランダへと続く窓へと近づき、白地にピンクの花柄のカーテンを開ける。

私の今の部屋は1K。ベッドの側の壁にあるクローゼットと収納が一つと、本棚、テレビ。ベッドの隣には丸いテーブルがあり、クッションと座椅子がそれぞれ2つずつ置いてある。

日の光が部屋に入る中、私は着替えをしようとクローゼットへと向かった。


「あ、はよっす」


――――バッタンッ!!


欠伸を噛み殺しながら片手を上げ、笑みを浮かべた少年がクローゼットの中で横になっていた。

2段になっている上の段で。勢いよく閉めた反動で手を痛める。


「どうしたんですか…?こんなに朝早くから、そんな大きな物音立てたら…ご近所に迷惑がかかりますよ?」


余りの痛さに蹲っていると、同じように欠伸を噛み殺した茶髪の青年がキッチンへと続く扉の向こうから現れた。

私はすぐさまソイツに詰め寄り、涙目で睨み付ける。


「どうしたもこうしたも無いわよ!どうしてアイツがクローゼットで寝てんの!?」


「え?どうしてって…他に寝る場所も無かったですし。それにライザは暗い所が好きなんですよ」


「そんなの誰も聞いてない!」


得意げに頬を赤らめる“変態”に、私はもう一度クローゼットに近づき、扉を開ける。


「なんだよ~…冷てえな、アネキは…」


そこに居たのは休日のオジサン並に横たわり、腹の辺りをぽりぽりと掻く“パンク少年”の姿があった。


「もう…――――出て行ってぇーー!!」


静かな朝に、私の声がこだましたのだった。

――――どうしてこうなったのか。それは昨夜へと遡ることになる。



少年・ライザくんの登場により、部屋は崩壊。そして突然変態…「スピリット№0」に“変身して”くれと頼まれ、私はチョコを頬張った。

その瞬間わたしの体から青色の光が溢れ、気が付けば白いレースと青のリボンのチョコの香りを漂わせた膝上丈のワンピースに身を包んでいた。

靴も青でソックスは無い(ストッキングくらい履かせてよ!)。黒髪だった髪はチョコレート色に変わり、ショートだったのにロングでくるくるのポニーテールにされ、板チョコを模った髪飾りのおまけ付きだ。

耳元には小さなチョコ型のイヤリングと胸元についたリボンには星の形をしたブローチがついていた。


『な、何これ!?』


魔法少女とでも言いたげな(どちらかというと洋菓子店などで店員さんが着ていそうな)服装に、私は目をこれでもかと見開く。


《おお!やはり凄いですね、芽瑠さん!こんなにもすぐ変身でき、尚且つ私とこんなにも適合しているとは!》


私の中…ではなく、側に立つ変態の声が二重になって聞こえた。


『変身って、やっぱりこういうこと!?』


《大変、お似合いですよ》


『お世辞はいらない。』


わざとらしくウインクしてきた変態に真顔で返す。


『あ~…変身したってことは、そいつお前の“箱”なわけ?』


(え?……箱?)


ライザ君の言葉を反芻するように首を傾げていれば、隣で変態が難しい顔をしていた。


『ま、いっか。箱じゃないにしろ、俺らの事を知られた以上――――死んで貰うっきゃないよね!!』


黙りこくった変態と私に痺れを切らしたライザ君が襲い掛かる。

その手に瞬時に黒い槍が出現した。

三又に分かれた黒い槍は鋭く、ライザ君の背と同じくらいの長さだった。


(槍なんて戦国時代の話でしょ!?美術館とか記念館とかでしか見たことないわよ!!)


目を閉じる事すら忘れ真っ直ぐに迫るライザ君を凝視する。

けれど近づくにつれライザ君の動きが鈍くなっていることに気付く。飛び出した時は車より早いのではと思うほどの速さだったのに、今ではスローモーションのようにゆっくりと槍の先が迫って見えた。


《芽瑠さん、右に一歩動いて攻撃を避けて下さい》


唐突に変態の声が脳裏に響く。先程重なって聞こえたのは脳へ直接話しかける声と、耳から入った声の二つを一変に聞き取ったからだと気付く。

半信半疑で頷きつつ、私は言われた通り右にずれた。次の瞬間、ライザ君が脇を通り抜け、床に思い切り槍を突き刺した。


『あれ?』


不思議そうに床に刺さった槍と私を交互に見つめるライザ君と同じように、私も今何が起きたのか理解できず目を丸くする。


《今です、芽瑠さん!反撃です!》


『え?え??……あ』


又も変態の声が重なって響く。

私は狼狽えつつも近くに会ったボロボロの雑誌を手にし、それを丸める。そして――――


『えいっ!』


ライザ君の頭に“軽く”叩きつけた。するとライザ君の顔は床に吸い込まれるように打ち付けられ、まるでクレーターのように床が凄まじい音を上げながら凹み、ライザ君は其処に減り込んだまま動かなくなった。


『え……』


『やりましたね、芽瑠さん!貴女の勝利です!』


変態のやけに嬉しそうな声を聴きながら、私は只々呆然とするしかない。

軽くのつもりだったのに、この力だ。驚かない方がおかしいでしょうよ。


(どういうこと!?)


ガラガラと音を立て未だ崩れ落ちている屋根に、瓦礫で埋もれたテレビやベッド。最早部屋とはいいがたい惨状に私はぺたんと座り込んだのだった。


――――「んで、その後目覚めた俺はアネキの強さに惚れ、こうして一つ屋根の下に…」


「許可した覚えはないでしょ」


嬉しそうに頬を染めながら座椅子に座るライザ君にため息を吐きつつ置き鏡の前で髪を梳かす。

今いる部屋はあの時ライザ君が壊した部屋だ。

何でも『魔法』を使って直したらしいけど…確かに一瞬で元通りに戻った部屋を見た時は驚いた。

他にも驚いたのはご近所さんには一切昨夜の事を聞かれに来なかったことだ。部屋が崩壊したというのに…。後で「誰も気づかないようにしたんだ」と得意げにライザ君が言っていた。

魔法とは本当に不思議なものだ。


「ですが芽瑠さんはライザに勝ったんですから、相手を好きにしていいのは確かですよ?」


ライザ君と対面するように座っていた変態がニコニコ顔でそう言った。


「そもそもアレは何なのよ。変身ってあんな……」


思い出すだけで恥ずかしい。


(三十間近になってあんな…!)


熱を持った頬を隠すように手を置き、鏡の側に置かれたチョコのトップが付いたネックレスを見つめる。


ライザ君が目を覚ました後私は変身した姿から元に戻った。

茶髪になっていた髪も変身が解けると黒色に戻り、服装も元に戻っていた。

ただ前と違うのは首元にこのネックレスが掛かっていたことくらいだろう。それが何なのか、それは変態が教えてくれた。


『それは人間の言葉で言えば“変身道具”ですかね…僕らの言葉では変身することを“ラッピング”というんです。なのでそれは“ラッピングペンダント”です!』

…なんて言っていたけど、それも信じられないというか。


(そもそも昨夜の出来事自体信じられてないし…。まあ、一度は信じて変態の手を取り、チョコを取り…)


「全く失礼な。事実ですよ、全て。なんなら今ここでもう一度説明しましょう」


失念していた。彼は私の中に寄生している。私が考えていることは彼に筒抜けなのだ。


「いいですか?ライザたちは僕たちが敵対している“デビルガーデン”のデビルと言う者です。芽瑠さんが変身したことにより、ライザ達デビルガーデンは芽瑠さんの命も狙ってくることでしょう」


「それは聞いたよ。でも…何で私なのよ?他にも変身できる人はいるんじゃないの?それに何で貴方が狙われている事案に私が巻き込まれなきゃいけないのよ」


自分でも少し冷たいことを言ったとは思う。でも実際に私は変態とは昨夜あっただけの関係で、変身してくれって頼まれたからしただけだし、好き好んで巻き込まれた訳じゃない。


「俺たちがスピリットどもを狙うのはスピリットガーデンの技術を壊滅させるためだよ」


そう答えたのはライザ君だ。

彼はいつの間にか冷蔵庫から取ってきたのか、ソフトクリームのアイスを片手に真剣な表情をしていた。


「壊滅…って」


「俺らにとってスピリット№0みたいなスピリットの存在は野望の為には邪魔な存在な訳。その理由の一つがアネキみたいな人間に寄生して、スピリットの力を分け与えることにより常人では考えられない力『魔法』を使えるようにしてしまうこと。

そしてそれは彼らの創る『お菓子』によって軽々と人々の手に渡り…」


「ちょ、ちょっと待って!」


ソフトクリームをぺろぺろむしゃむしゃ食べつつ真剣な声音ですらすらと話し出すライザ君を止める。

情報処理に付いていけないことも確かだったけど、それよりもまず…。


「そんなこと簡単に話しちゃっていいの?」


変態も『敵対』という言葉を使い、ライザ君も『壊滅させる』と言っているのに。敵である変態を前に自分たちの目的などをそう易々と話して良いのかと視線で訴えかける。

するととても陽気な声で返事が返ってきた。


「あ、俺は元々スピリット側に潜入する任務をやってたんだけど、失敗しちゃってどうしようかとおもってたら、まだ覚醒前のスピリット№0を見つけたから倒しちゃおうと考え、結局はアネキに惚れちゃったから…。正直もうデビルもスピリットも関係ないかなって」


(関係ないって…。でも昨夜命狙われたんですけど?)


ソフトクリームを口の端に付け「てへっ☆」とウインクするライザ君にツッコミたい精神をなんとか抑えていると、変態がコホンと喉を鳴らした。


「芽瑠さんやライザが言ったように僕たちは寄生し力を分け与えることが出来ます。けれど誰でも良いという訳では無いのです。」


「そうなの?」


「はい。初めにお会いした時に言いましたが、芽瑠さんは私と驚くほど適合しているのです。僕のチョコを食べた時、変な味がしませんでしたか?」


変態にそう問われ、初めに食べた時の事を思い出す。


「うん、変な味だった。皆おいしいって食べているからどんなの物なのかな…と思って買ったのに、全然おいしくないからぼったくられたかと思ったわ」


「そこまでですか…。ですが、それが適合出来た者の証なんです」


変態が言うにはスピリットガーデンで出しているお菓子は全て「スピリット」と呼ばれる変態みたいなのの覚醒前の個体が入っているらしい。

普通の人間が食べればその菓子は至極の美味しさで、適合する者が食べればそれはもう地獄のような味がするらしい。

私の場合は後者で、適合した者の体内には必ずスピリットが寄生するらしい。それでもスピリットの声を聞く者は少なく、大抵は寄生しても直ぐに普通の菓子に戻り胃で消化されるという。


「じゃあ、私は適合した挙句…アナタの声を聞いた稀な人物ってこと?」


問い掛けに変態は嬉しそうに微笑むと何度も頷いた。


「昨夜も言いましたが、大事な事なのでもう一度。芽瑠さん、僕と共にラッピングしてデビルたちを倒してくださいませんか?」


「嫌。」


真剣なまなざしを向けられたが、即答する。少しの沈黙が続き、変態が再度口を開く。


「ですが一度寄生した私たちは目的が果たされるまで体から出て行きませんよ?」


「う…」


「それに先程の話からお解りいただけていると思いますが、芽瑠さんはもうデビルガーデンの連中に正体を知られている。そしてもしここでラッピングすることを拒んだ場合……芽瑠さんの生存確率は非常に低く…――――」


「分かったわよ、やればいいんでしょ!?」


だんだんと青い顔をして生存確率だの真面目な話をしだす変態にヤケクソ気味にそう叫んだ。

私だって訳の分からない連中に突然命を狙われて、挙句の果てに殺されるなんて真っ平ごめんだ。

この際自分の年齢は気にしない事に決めた。

昔見たアニメのヒロインである魔法少女には憧れを抱いていた。勿論、女の子なら誰しも一度は憧れるのではないだろうか。そこで学んだことだ。


(…ぐだぐだ悩んでいるなら、変態だろうと悪魔だろうと精霊だろうと引き受けるに限る!……じゃないと物語は進まないって言うしね)


テーブルの上に置かれていたペンダントを手に取り首から下げ、私はキッチンへと向かう。


「昨夜は取り乱してて何も聞かなかったけど……話しの内容からすると、ライザ君も貴方も此処に居座る気満々ってことなのね?」


その通り!とばかりにライザ君は決め顔で親指を突き出し、変態はただ無言で深く深ーく頷いた。


「分かった。とりあえず私は会社に行くから、朝ごはんの用意をするわ」


「おお!アネキの手料理っすか!?」


キラキラと輝いた瞳を向けてくるライザ君を押しのける。


「姉貴…じゃなくていいわよ、ライザ君。芽瑠…って呼んで?」


「はいっす!メル姉!」


最初の出会いこそ最悪ではあったけど、接してみるとライザ君はとても素直な子だと分かった。

気恥ずかしい呼び方ではあったけど、そう呼んでくれる弟が出来たみたいで少し嬉しかった。そこで目の端に変態が入り、其方に顔を向ける。

そこには驚くほど優しげな目をした変態がいた。


「本当に不思議な方です。本来なら敵であるライザまで魅了してしまうとは…」


「魔性の女だ、とでも言いたいの?」


皮肉たっぷりに言ってやれば、変態は微笑んだ。


「いいえ。そこまでは言いませんが…僕も貴女に魅了された一人なので、ライザがしつこく芽瑠さんに付き纏っていると………焼けるんですよ」


「っ!?」


一気に頬が赤くなるのを感じた。…が。


「と言うのは冗談です」


「冗談かよ」


ライザ君の鋭いツッコミが入る横で、私は平静を装う。照れた自分が馬鹿みたいじゃないの。


「あ。そういえば貴方の名前は聞いてなかったけど…」


「はい?ライザが言っていましたでしょう?私の名はスピリット№0、正式名称は“スピリットガーデン チョコレートシリーズ試作N-12105 スピリット№0”です」


長々とした名前に自然と開いていた口を一度閉じ、再度開く。


「それ名前じゃなくて製造番号みたいなやつじゃないの!?」


「まあ、そのようなものですね」


私の驚愕した声にも動じず変態ことスピリットガーデンチョコレー…(以下略)は頷く。


「メル姉、さっきもいったけどコイツみたいスピリットはスピリットガーデン製造の菓子には絶対に入ってるんだぜ?そりゃあもう数えきれないくらいのスピリットがいるんだ。

人間だって同じ商品にわざわざ違う名前を付けないだろう?」


「た、確かにそうだけど……」


ライザ君の指摘に頷きそうになって俯く。

菓子の中に入っているとはいえ、たとえ変態だったとしてもスピリットは生きている。

だったら個別に名前くらいあったって良いのではないだろうか。


「私の事は気にしないで下さい。なんだったらショコラでもチョコでもポチとでも呼んで下さい」


無意識に顔をしかめていたからかもしれない。変態は私を気遣うようにぎこちない笑みを浮かべそう言った。


(ポチって…犬じゃあるまいし)


変態に釣られるようにして私も笑う。それを満足げに見つめ変態とライザ君も笑った。


「分かった。じゃあ、私が名前を付けてあげる」


「え?」


意外だった…だろうか、変態は目を丸くした。

確かに出会ってすぐ変態と呼ぶ人間がいきなり名前を付けようとすれば驚くだろう。

今では少し反省している。だってあの時は助けようとしてくれて、あんなに近くにいただけだから。


(それにずっと変態って言ってたら可哀相だしね…)


何がいいかと考える。そこでふと思いついたのは彼が先程“名前”だと言った名のこと。


レイ…はどう?」


レイ…数字のゼロと言う漢字の別の読み方ですね」


「うん。スピリット№0って言うんでしょ?ならレイが良いんじゃないかな~…ってさ」


自分で言っていて恥ずかしくなり俯く。すると近づく気配に気づき視線を顔ごと上げれば、目の前にスピリット№0が立っていた。


「嬉しいです…レイという名、大切にします」


頬を紅潮させ微笑むと、レイは跪き私の手を取った。そしてそのまま口元へと持っていくと、手の甲にキスを落とした。


「や…やっぱり変態よ!!」


恥ずかしさのあまり握られていた手をそのままレイの顔に打ち付ける。


―――パシンッ!!


それを見届け、ライザ君はニコリと笑みを浮かべると私の腕に抱きついてきた。


「メル姉、朝ごはん作るの手伝うぜ!」


「うん!ありがとう、ライザ君。…変態は放っておいて。」


「ちょ!なんでライザは良くて、僕は駄目なんですかー!?」


レイの文句はこの後数分続いたけど、料理包丁片手に「朝ごはんになりたいの?」と笑顔で言ったら黙りました。


――――こうして、寄生者・レイと元敵デビル・ライザ君との奇妙な同棲生活がスタートした。



ここまで読んで下さり、ありがとうございます!


誤字脱字などありましたら、お知らせ頂けると有り難いです…。



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