3.出来たら冷蔵庫に30分ほどおきましょう。美味しく作るためのコツ。
「あ、おはよー! 景花」
「はよ」
「……おはよう」
彼女は殻尾景花さん。僕たち三人のクラスメイトであり、僕の……想い人だ。
「あれ? 空君セーラー服なんだね。よく似合ってるよ」
「へ……あぁ、どうも」
なんと、あの空が素直にお礼を言うとは。殻尾さんすごい。
「ちぇー、アリスが言ってもヤダしか言わなかったのに」
空のけち、と有栖がべーっと舌を出す。
「なっ……! そ、そりゃあお前が……」
あー、また始まった。これはもう、仲裁するのは諦めるしかないか。
「ふふ。毎日楽しそうよね、二人とも」
「そうだな……周りから見るとただの夫婦喧嘩にしか見えな……!」
いつの間にか隣に殻尾さんがいることに気づいて、思わず言葉を失ってしまった。え、何。今何がどうなってこの状況に? 殻尾さんと話せているなんて、我が家の食卓に唐揚げが並ぶくらいありえない。
「? どうかしたの?柄川君」
「っ……あ、いや、なんでもない。ごめん、話切らしちゃって」
「そう……? ならいいんだけど……」
いけない、殻尾さんが不審がっている。何か話題話題……。どうしよう、唐揚げのことしか思いつかないっ。
「あ、そうだ柄川君。今日提出の数学の課題で不安なところがあるんだけど、教えてもらってもいいかな?」
「え、僕なんかでいいの?」
向こうから話題が出てちょっと助かった。でも殻尾さん、かなり成績が良い方だった気がする。確か、中間考査でも十位以内に入ってた気が…。
「え! いやぁ私数学とか理系の科目ってちょっと苦手なのよね……それにほら! 柄川君この前の小テスト満点だってクラスで発表されてたでしょ!? だから是非その数学のコツなんかを教えてくれたら嬉しいかなって!」
句読点ぶっ飛ばしの早口で返されてしまった。もしかして、今の態度が良くなかったのだろうか。心なしか顔も赤くなってるし……いけない、このままだと殻尾さんの中の僕の印象がどん底に落ちてしまう!
「分かった! そしたらとことん付き合うよ、殻尾さん!!」
「へっ!? つきあ…? あ、違うよね…って、あ、えーっと…お願いするね?」
何か前半言っていたようだったけど、空と有栖の声にかき消されてしまった。早く止んでほしいよ、全く。
「じゃあ、ここ廊下だし二人うるさいし、教室行こうか」
「え……止めなくてもいいの?」
「うーん。ま、どうせHRの予鈴鳴ったら戻ってくるでしょ」
「そう……? でもそっか、毎日そうだから大丈夫よね」
そして、僕と殻尾さんは二人で並んで教室へ――。
「ちょっとー! 何アリスたち置いてこうとするのーっ!? 景花、一緒に教室行こ!」
「あ、有栖ちゃん……!? え、えーっと」
有栖……夫婦喧嘩はどうしたんだよ。
そのまま彼女は殻尾さんと並んで歩き始め、僕の隣には先程の勢いをすっかりなくした空。
「昇……お前は俺の最期、見届けてくれるよな……?」
「空、お前もう少し粘れよ」
「あぁ、殻尾さんと一緒に教室行けないことか? それはすまない……」
「それもそうだけど……ってちょっと!」
殻尾さんに聞こえたらやばいだろ! と叫びたくなる気持ちを抑えて、有栖と前を歩き始めた殻尾さんの様子を窺う。
「気になってたんだけど、有栖ちゃんの髪の毛って地毛なの?」
「ううん!高校入る時に染めたんだぁ。ずっとママとお揃いにしたかったのー」
「へぇ、そういえば有栖ちゃんのお母さんは、西洋の人だって言ってたね」
……どうやらこちらの会話は聞こえていないようだ。
「お前……気をつけろよ?」
「わりぃ、わりぃ」
「まあ、空も有栖大好きだもんなぁ……」
「!」
図星か。
「のっ昇、お前いつから」
「見てたら分かる。ばればれ」
にしても、朝から廊下でこそこそコイバナとか、状況といい男同士といい、ちょっとあれだよなぁ……。
こんな時は昼メシの話題だな、うん。
「空、お前の今日の弁当、唐揚げ入ってるか?」
「また唐突だな、お前」
「入ってるのか?」
「入ってます」
「じゃあおかず交換こな」
「おい、言い方可愛いけど結局あれだよな。交換するのは唐揚げと唐揚げなんだよな?」
「勿論だ」
「はぁ……なんていうか、ホントお前って……」
この時のことは、何といえば良いのだろう。それは今でもよく分からない。
ただ空と、そして前で話していた有栖の口から、同じ単語が出てきたことは確かだ。
「カラチューだよな」
「カラチューだよね」




