2.調味料を入れ、よく揉みこみましょう。袋に入れてやると便利です。
僕が通っている鳥ノ宮高校は、県内でもなかなか有名な進学校だ。ここに合格した時、周りの人がとても喜んでくれたのは嬉しかった。特に母親は「唐揚げにしか興味がなかったあんたが、こんな立派な学校に受かるなんて! お母さん嬉しくて、唐揚げ揚げかけちゃったわ!」と大喜びだった。実際揚げてはくれなかったけど。
でも僕がこの高校を選んだ理由を知ってしまったら、弁当からも唐揚げが消えることになるかもしれない……。
「おっ、昇君じゃないか! おはようっ」
「あ、おはようございます、樹矛さん」
今声をかけてくださった方は、学校の目の前にある中華料理店『烏龍』を奥さんと二人で営んでいる樹矛さん。因みに日本人。
……僕が鳥ノ宮高校を選んだ理由だ。
「今日も唐揚げ、たーんと食ってけよな! 沢山揚げとくから!」
「ありがとうございます! 今日も放課後食べに行きます」
「おうっ! あ、そうそう。実は今日から隣のカラオケ店とウチとが連携することになったんだよ! といっても、ウチの料理をカラオケ店に配達ってだけなんだけどな」
「へぇ、そうなんですか」
そう、なぜか学校の目の前には樹矛さんの中華料理店やカラオケ店、ほかにも文具店、駄菓子屋など、学校帰りの学生が思わず立ち寄ってしまうようなお店が沢山並んでいるのだ。特に中華店とカラオケ店は、小腹の空いた部活生やストレスを発散したい人、さらには生徒間での打ち上げ等で連日大盛況なのだ。なのでその二大人気店が手を組むのも納得できる。……まぁ、僕は大体樹矛さんのところだが。
樹矛さんと会ったのは中華店の目の前、ということは学校の目の前でもあるので、僕はいつも通り朝のHR10分前に校門をくぐった。周りを見ると、先週まで見なかった白いワイシャツやセーラー服姿の生徒が数人いた。
そういえば、今日から衣替えの移行週間だったっけ。ついついいつものように学ランを着てきてしまった。道理で今日は少し暑いと思った……。
そんなことを思いつつ、下駄箱でスニーカーから上履きに履き替え、教室へ向かう。僕のクラスである1年2組は4階にある。1階から4階まで毎日階段を上っていると、自然と体力がついてきそうな気分になる。気になるだけだが……。
今日の昼メシ(唐揚げ)と樹矛さんの唐揚げのことを考えながら廊下を歩いていると、誰かがすごい勢いで走ってくるのが見えた。……って、僕の方に来る!
「のぼるぅぅぅうぅうううううう!!!!!」
肩くらいまで髪を伸ばしていて、少しハスキーな声をしたセーラー服の生徒だ。夏服である真っ白なワンピースタイプのセーラーは、こちらの印象を爽やかにする。でも……うーん、僕にそんな知り合いはいたか?
「ちょっと昇! 無視すんなよ!! 俺だよ!空!」
「えっ?」
なんと中学からの親友(男)だった。
「ちょっ……なんで女装してるんだ? お前」
「そんなことより! 早くしねーとあいつが来ちまう!」
「あいつ……?」
と、僕が首をかしげたタイミングで、
「そらぁーっ! 待ってよー♪」
「げっ、有栖!」
続くようにやって来た彼女は、空の幼馴染の有栖。長い金色のポニーテールを揺らしながら、満面の笑みでこちらに向かってくる。
「もう、空が止まってくれないとアリス、空の髪の毛可愛く出来ないじゃない!」
「だぁーっ! 別にそんなことしなくてもいいだろ!? いつも通りでいいだろ、いつも通りで!!」
「そんなのつまんなーい」
「俺は困るんだよっ」
えーっと……。
僕は二人の言い合いに挟まれながら、なんとか状況を理解する。
つまりは、
「有栖は空にセーラー服を着せて可愛くしたい。空はそれが嫌」
「「そう!!」」
ハモった。でも今の段階で、有栖の目的は既に半分達成されてるよな……?
「だってアリス、空は絶対鳥ノ宮の夏服似合うって思ったんだもーん! 髪の毛も伸ばしてるし」
「だからってこれはおかしいだろ! しかもわざわざ衣替えシーズン狙うし!」
「えへへ」
「えへへじゃない!」
あー、また言い争いが…。二人の騒ぎに反応してギャラリーも集まってきたし。
どうしよう…といよいよ頭を抱え始めたとき、
「柄川君、有栖ちゃん、空君、おはよう」
と、鈴が鳴るような美しい声が聞こえた。




