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監獄街  作者: 俊衛門
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第一章:2

 白人が、3人いた。

 一人は大柄な肥満体を派手なジャケットに包み、頭に青いバンダナを巻いている。髭とピアスで装飾された顔は、下卑た笑みを貼り付けている。

もう一人は、下品な文句が書かれた青いTシャツを着ていた。腰から上は銀のアクセサリーをジャラジャラと着け、動くたびに金属音を響かせる。シャツの袖から、引き締まった筋肉質な腕が伸びる。

そして、三人目……。他の二人に比べて最も地味な格好で、しかし最も存在感を示していた。

 黒いTシャツを着ている。袖から覗く二の腕から手首にかけ、腕一面にタトゥーを施している。

口元を青いバンダナで、マスクのように覆っていた。鋭く研ぎ澄まされたそれは、獲物を狙う猛禽の眼を思わせる。黒いシャツに、アクセントのように金色の首飾りが光っていた。

 そのマスクの男だけ、異様な雰囲気を纏っていた。黒く、重い空気が、その男の周りだけ存在するかのようだ。


 容姿、服装は三者三様だが、3人とも体のどこかに「青」を身につけている。一目で分かった。

(こいつらが、『BLUE PANTHER』か)



「愛の逃避行は楽しかったか〜い?」

 バンダナの男が話しかける。含むような、いやみなしゃべり方。耳にするだけでも不快になる声だ。

「だけどな〜子供の火遊びはここで終わりだ。明日からは工場の機械油と宿舎の堅いパンが待っている。お前も大人なら、何をすべきか分かるよな〜?」

 舐め回すような、視線と言葉。不快感をあらわに、省吾は男をにらみつけた。

「いろいろツッコミたいことはあるんだが、とりあえず、それでジョークのつもりならセンス最悪だな」

「よく言われるよ。まあお前を笑わせたって一ドルにもならねえから大して気にしてねえ。でもまあ〜ここで大人の対応をしてくれたらもうちっとましなジョークを言ってやるよ」

「アヒルがダチョウに変わったところでたいした事ねえよ」

 今度はシルバーアクセサリーの男が口を開いた。

「んなこたどうでもいいんだよ。おとなしくついて来るのか、来ないのか」

 バンダナの男とは対照的に、省吾を脅すように凄む。気がつくと、男3人は省吾を囲っていた。

「いやだといったら?」

「自分の脳の色を見ることになるな」

 いつの間にか、銃を取り出していた。シルバーの男が持っているのは、S&Wの38口径だ。それを頭に突きつける。

「下等なイエローの、黄色い脳みそをぶちまけられたくなきゃおとなしく従え」

「肌が黄色いからって脳まで黄色いってことは、ないと思う……よ!」

 電光石火の動きだった。

 省吾は、シルバーの持つリボルバーを左手で引っ掴んだ。

 同時に、彼の正面にいた肥満体系の、バンダナの腹を蹴りこんだ。厚い脂肪に、省吾の靴が埋もれる。ぐえっと、蛙が潰されたような声を出してうずくまった。

 「貴様!」

 シルバーアクセの男は銃の引き金を引くが、撃てない。リボルバー銃は、シリンダーと呼ばれる回転部分を押さえられると撃てなくなるのだ。省吾はそれを知っていた。

男の、銃を持っている右の手首をつかみ、後ろに引き倒すように手首をひねった。関節をありえない方向に曲げられ、男はバランスをくずして仰向けに倒れる。

 その倒れた顔面に、右手刀を打ち込んだ。ここまでわずか4秒。

「ぐは!」

 顎を砕かれ、男は意識を失った。

 だが、ここにきて省吾は気がついた。もう一人いるはずだ。マスクを被った男、そいつの姿が見えない。

 しまった、早くそいつを始末しなければ。

「こっちだ」

 くぐもった、質量を持った声が背後からした。その声の方向に向き直るが――

 ひょう、と空気を裂く音が耳元で鳴った。

 続いて、顔面に鋭い痛み。

 男の手には刃渡り20cmほどのナイフが握られている。その刃は血で濡れており、それが 省吾自身のものであることを認識するのに、時間は要らなかった。同時に、男のナイフが省吾の顔を斜めに切り裂いたことを、理解した。

「て、てめえ」

「次は心臓だ」

 突き出されたナイフは、一直線に彼の胸部を狙う。早い。武器を奪おうにも、省吾が事を起こす前にその刃は彼の体につきたてられるだろう。

 ダメだ、もう間に合わない――

 諦めかけたその時。


 2人の間に、黒い影が割り込んだ。



 割り込んだ影は、省吾の体を突き飛ばし、男のナイフを蹴り上げて省吾とナイフの激突を防いだ。ナイフは弧を描き、海のそこへと消えていった。あまりの出来事に、黒マスクの男はあっけに取られている。

 結構な勢いで飛ばされたため、省吾は背中から地面に叩きつけられる。後頭部をしたたかにうち、視界が揺らいだ。

「何しやがる!」

 抗議の声を上げた。

 飛ばされた衝撃から、屈強な男を想像した。だが、頭上から降ってきた声は省吾の想像の範疇を超えたものであった。

「早く、逃げるわよ」

 明瞭な英語。それは澄んだ水のように透明で、凛としたソプラノだった。

(……女?)

 目の前の人物を見る。

 小柄な少女がそこにいた。

 顔は分からない。ただ、その姿はすくなくとも白人ではなかった。背は、目測で省吾よりも20センチ以上低い。なだらかな肩の線、華奢な手足。その骨格は西洋人ではなく東洋人のものだ。

 そして何よりその髪――黒く、艶やかな髪は少女の体を包み込むように、腰の辺りまで伸びている。その髪がたなびくたび、潮風に混ざって芳香を放った。香りにあてられ、別の意味で視界がぼやけそうになる。

「あ、あんた一体何」

「早く!」

 ふと女の後方を見やる。武器を失った男が、懐より新たなナイフを取り出し、省吾の方にゆっくりと歩を詰めていた。

 少女は省吾の手をとると、一目散に走り出した。つられて省吾も走る。

 去り際に、二人を見据えるナイフの男と目が合った。

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