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監獄街  作者: 俊衛門
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第五章:8

 “モンスター”を繰り、真っ直ぐ『BLUE PANTHER』の男たちの元に走った。

 「Damn you, motherfucker! Kick your ass!!」

 有らん限りの罵倒を口にしながら、青のギャングは銃を抜いた。重なった銃声が、死者の地に響き渡った。

 「ブタ共が、耳障りなんだよ」

 機上で省吾、手裏剣代わりのナイフを構えた。男達の周囲をバイクで走りながら、打剣。投げナイフが7本、空を舞い男たちの喉を一本ずつ正確に、貫いた。

 (残り10人余り……か)

 急に省吾、バイクの上に立ち上がった。そしてバイクの推進力を利用し、跳躍した。

 「WHAT!?」

 驚く男たちの頭上に、灰色の影が舞い降りた。中央に降り立ったそれは刃の嵐を吹き起こした。

 着地後、抜刀。高速の居合い抜きが、男の腕を飛ばした。今度は振り向きざま、1人を両断に仕留める。さらに3人の喉を突く。男たちの断末魔の叫びが、一続きに聞こえた。

 1人が背後で発砲、省吾の右肩に着弾した。省吾は目だけを動かして距離を測る。およそ3歩。

 (接近戦なら、剣の方が早いぜ)

 向き直り、右足を踏み込んで撃った男に詰め寄った。3歩の距離を、膝の抜きと重心移動で1歩に縮める。男は狼狽している。

 男は引き金に指をかけた。と同時に省吾は袈裟に斬った。男の腕が落とされる。

 返す刀で、斬り上げ。睾丸から顎までを、一気に斬った。

 「……あの傷の男」

 梁は、なおも刀を振る省吾を見て、呟いた。


 「てめえか、機械の腕を持つっていう青豹の頭は」

 省吾がビリーに、刀を突きつけた。その身に返り血ひとつ、ついていない。

 「……パーティーが始まる前に飛び込んで、しかもてめえにゃ招待状は出してねえぞ。なんなんだ、貴様」

 ビリーは、怒っていた。仲間を殺された恨み、というよりもいち黄色人種に遅れを取った、その屈辱に燃えているようであった。

 左の拳を指が白くなるほど握りこみ、鈍色の機械の腕の方は金属が擦れる音を立てながら、椅子の肘掛を掴んでいる。

 「この傷が、招待状だよ」

 省吾は髪をまくり上げ、斜めに刻まれた顔の傷を晒した。崩れたコンクリートの隙間から差し込む月光が、傷を際立たせた。

 「分かるか? “クライシス・ジョー”に刻み付けられた死の烙印。これじゃ不満か?」

 「成程……そうか貴様か」

 ビリーの目の色が変わった。

 「俺のダチをぶっ殺してくれたのは。奴の死体は晒し者にされ、『BLUE PANTHER』の名は地に堕ちた、そのきっかけとなった!」

 「ダチ? 機械が何をほざくか。金属と回路で占められた貴様に『友人(ダチ)』だと? 機械の分際で、人間みたいな世迷言吐くんじゃねえ。どうせ壊すことしか能がねえんだから、ごちゃごちゃいわずに俺をってみろよ。先生をったみたいに……」

 省吾は嫌悪感を、露骨に顔に出した。刀にかけた手を強く握り、視線に敵意を込め、ビリーを真っ向から睨みつける。

 「……宮元、何をしている」

 ビリーは右手を肘掛にかけながら、低く唸った。目は血走しり、血管が浮き出るほどに激昂している。

 「こいつを潰せ、今すぐ黙らせろ」

 「他力本願か? 『鉄腕(アイアン・アーム)』なんていっておきながら肝の据わらん奴だ。今度から『ガラスの度胸ハート・オブ・グラス』とでも名乗るんだな」

 「黙れ!」

 握っていた肘掛が、機械の手でバラバラに砕かれた。

 「貴様のような虫けらは虫けら同士潰し合えばいいんだ! さっさとやれ宮元!」

 ビリーが怒鳴る、それに申し合わせたかのように梁が歩み出た。

 「なに心配するな……貴様が動かなくなったときはあらゆる責め苦を与えてやる。生きたまま腹を裂き、内蔵が引きずり出される様をその目でみるが良い。そして乞うんだ、『もう殺してください』ってな」

 「趣味の悪いこって……」

 長脇差を肩に担ぎ、意識はもう梁の方に向いていた。

 「まあいいさ。俺も、とりあえず用があるのはその刺青だからな」

 

 歩み出た梁の目の前に、省吾が仁王立ちになって対峙した。

 「宮元梁、っていったな」

 ああ、と梁が肯定する。

 「自己紹介の必要はないか……」

 「いろいろ聞いたからな。何か、和馬雪久のツレらしいじゃねえか? 青豹に下手打って、今はその飼い犬になった……」

 梁の頬が、ピクリと動いた。感情が、わずかに滲む。

 「……グエン達は? あのバイク、うちの構成員の物だろう」

 侮蔑の言葉を聞き流し、梁が訊いた。

 「グエンてのはあのベトナム人か。まさしく、あれはそいつのもんだ」

 省吾は懐から何かを取り出し、梁の方に放り投げた。からん、と乾いた音を立てそれは地面に転がった。

 「土産だ。やるよ」

 それは、グエンの左腕であった。宿主から離れたというのに、その手はしっかりとククリナイフを握っている。血まみれの腕とナイフの刃こぼれが激戦を物語っていた。

 「別に、文句はあるまいよ? お前らだって先日散々、やらかしてくれたしな」

 「ああ、ないさ。お前が『OROCHI』だったらな」

 静かに、柳葉刀を持ちながらいった。

 「だが……お前は、違うのだろう。お前が死んだ仲間を憂う、理由なんか無い。仇を討つべき正当な理由なぞ、お前には無い」

 「そんなんじゃねえさ。ただその女を、俺の見ている前で攫ってくれたその礼をさせてもらう」

 「女? そんなことのために来たというのか。そいつに、惚れでもしたのか?」

 柳葉刀を右手に持ち、くるりと手首を回した。銀の刃と刀彩(飾り布)が円を描き、右手に大輪の花を咲かせた。

 「惚れた腫れたの、そんな世迷言は平和ボケの坊ちゃんが吐くことだ……その女にはいろいろと借りがあってね、それでも俺のいないところで攫ってくれるんだったら問題は無かった。だが」

 省吾はわき構えに構えた。左足を踏み出した。梁は刀を水平にし、威嚇するように上に翳した。

 「俺の見ている前、ってのがダメだったな。ああいう屈辱を味あわせてくれちゃ、もういても立っても居られないからな」

 「……良く分からんが、要するに、ただの自己満足か」

 「そうだとも、人生なんてそんな物。だろ?」

 「いいだろう」

 梁が低く唸る。空気が変わった。

 「ウォーミングアップには丁度良い。雪久が来るまで遊んでやろう」


 じり、と梁が歩を進めた。省吾は刀を、きつく握った。刃と刃が気を放つ。重圧が、その場を支配する。

作中の英語は、知っている限りのスラングをぶち込みました。意味としては「ぶち殺すぞこの野郎」みたいな意味です。よい子は真似しないように。

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