第四章:4
クラブ『パープルアイ』は売春宿も兼ねている。
ホールで女たちの「品定め」をし、気に入ったら奥の部屋に引っ込み行為に至る、というわけだ。『BLUE PANTHER』のメンバーたちの殆どが、ここで「処理」する。
「“クライシス・ジョー”が、やられただと?」
そう叫んだビリー・R・レインは行為の真っ最中だったのか、全裸だった。隆起した筋肉の鎧は紅潮し、ところどころ湯気がたっている。
「そんなわけは、そんなわけはねえ……ジョーが殺られるなんて、ありえねえ」
その声は明らかに動揺している。そんなビリーを前に、しかし男は淡々と事実を述べる。
「82人が死傷、残りは不明。銃器は全て、奴らに奪われました。それと、見せしめのつもりか第3ブロックにジョーの死体が吊るされて……」
「あーもういい! 黙れ!」
ビリーが怒鳴ったのを受け、ドレッドヘアー、鼻ピアスのケネス・コリーは口を閉ざした。
「……どうすんだよ、畜生」
バスローブを羽織り、ソファーに座り込んだ。
「100人だぞ、100人! そんな大人数一度に、しかも銃も全部奪われただと!? お前たちあんな猿どもに何やってんだよクソが!」
そういって、ビリーは頭を抱えた。
「畜生こんなこと、こんなこと『あいつら』に知れたらどうするんだ……」
「あーボス、言葉を返すようですが……」
ケネスが、恐る恐る口に出した。
「ジョーは最初に、100人じゃ足りないっていいましたよね? 『OROCHI』の連中、それほどに手ごわいって。それで、『突撃隊』と共同で叩こうっていって正直俺もそのほうがいいと思ったんだけどボスが無理やり……」
ビリーがじろりと睨みつけるのを感じ、ケネスはうっと詰った。
「それはなにか? 俺の采配ミスとでもいいたいのか? 俺が無能だから、負けたと」
ビリーは立ち上がった。
「い、いやそんなことは」
冷や汗をびっしり顔面に浮かべ、直立不動の姿勢をとる。そんなケネスを、ビリーはねめつけるように見下ろした。
「俺のせいで、といいたいんだな!」
「も、申し訳……」
「クソ野郎!」
ビリーが、右腕を振りかぶった。と思った次の瞬間。
『鉄腕』が、唸りを上げて振り下ろされた。そして拳が、ケネスの左頬に突き刺さったのだ。
骨の砕ける音。ラグビーボール型の頭部が、ぐにゃりと歪んだ。同時にケネスの体が壁に叩きつけられ、その体がコンクリートにめり込んだ。声も上げることなく、ケネスは絶命した。
ビリーはさらに、その骸に拳を振り下ろす。
「クソ虫! ゴミ虫! 蛆虫!」
胸部に鉄槌を打ち込み、腕を引きちぎり、顔面を砕く。臓物を引きずり出し、骨の一つ一つを握りつぶし、執拗に執拗に遺体をなぶり、蹂躙する。
辺りに、かつてケネス・コリーという人間を構成していた組織の欠片が飛び散った。白い壁が、赤黒く染まっていく。
やがて気が済んだのか、ビリーはその腕を止めた。足元には半液状になった肉と血の溜まりが、広がっていた。
ビリーはソファーに再び腰を下ろし、顔面蒼白で慄いている傍らの男にいった。息切れした声で
「宮元を呼べ」
といった。