第二十章:20
バラック群の中を車で走らせるということは相当な覚悟がいるのだと、扈蝶は思う。
機械ものには滅多にお目にかかれない《《北辺》》の住人たちにとっては、車は金目のものという認識が先立つだろう。いざ車なんてものが走っていればたちまち取り囲み、運転手を引きずり下ろしてたちまち解体してしまう。部品は貴重な財源、鉄くずに換えられて《西辺》や《南辺》、あるいは外から来た商人に買われてしまうのだと。
だが今、連たちはトラックに乗り込み、バラック街の真ん中を突っ切っている。誰かがトラックに攻撃を加えようとか、取り囲んで潰してしまおうとか、そんなそぶりを見せる者もいない。遠巻きにトラックが走るのを見ている。
「車は危険なんじゃないですか?」
荷台の振動で胃の中が揺さぶられるのを我慢しつつ、扈蝶が隣にいるチャムに話しかけた。
「奴らもちゃんと人を見ているんだよ。ここで私らの車に手を出したら、後々どうなるのかちゃんんと分かってんだから」
つまり住人たちにとって、工藤たちはそれなりに脅威であるということだ。簡単に手を出してはいけない、手を出せば代償は高くつく、相手。
その工藤はというとトラックの助手席に鎮座している。運転しているのは梁だ。連はといえば、扈蝶たちから離れて荷台の隅っこに座っている。人から離れて隅に隅に行きたがるのはこの娘の性分なのかもしれない。
幌の隙間から、扈蝶は外の様子を伺ってみた。バラックの群が段々少なくなってゆき、景色は砂利道の上に少々の草木が点在するのみとなっていった。人の気配もない。《北辺》はどこもかしこもこんな風景で珍しくも何ともないが、少しばかり不安になる。
「私、そのスヨン? という人物は話にしか聞いたことがありませんが」
扈蝶は拳銃のスライドを引き、薬室に弾が込められていることを確認する。撃鉄を起こしたり戻したり、作動を何度も確かめて、そうでもしていないと落ち着かない。
「朝鮮族の破落戸連中ね。確かずいぶん前に、《南辺》から流れてきたんだったと思うよ。あんたも知っての通り、武器やら機械やらはそれなりに持ってるからこの辺りじゃまあまあ顔が利く」
確かに、《南辺》や《西辺》で銃や機械を手に入れようとすればそれなりに力を持っていなければならない。
「銃や機械は、どこから手に入れるのですか」
隅の方で黙っていた連が口を開いた。チャムは珍しいものでもみたかのように目を見張った。
「ああ、あんたは聞いてなかったんだっけね。ここにも外から商人が来るんだよ」
「アラブ商人ですか?」
「それは以前、来ていた時期もあったけど最近は来ない。来るのは北の方、コサックの商人がね」 「ロシア人ですか? ならば敵ではないですか」
「ロシア人じゃなくて、コサック。奴らに言わせれば、ロシア人とコサックは違うんだって」
「ですが、コサックってロシアの……」
「まあいいじゃん、そんなのは。あいつら、持ってくる物はなかなかいいけど要求するものも結構なものでね。あと商売するのはいいけど、見境無くさばくから苦労するんだよ。私らとだけじゃなくて、あの朝鮮一家にまで武器を卸すから始末に負えない」
「ということは、あなた方も取引しているのですか。その、コサックの商人と」
「この子にこの間あげた剣、コサックのサーベルだよ」
とチャムは扈蝶の方を向いた。連はにらみつけるような視線を扈蝶にくれる。別にやましいことはしていないはずなのだが、どうしてそんな目をされる必要があるのか。
「シャシュカっていうらしいよ」
扈蝶は仕方なく、腰に吊っていた二本のうち一本を取り外して見せた。刀身はサーベルのように湾曲した片手剣であるが、サーベルのような護拳がない。竜騎兵が馬上で扱いやすいために、このような形になったらしい。
「そのコサック商人が、機械義肢ももたらしているということですか」
連がやや身を乗り出してくるのに、連の関心事は機械にあるようだ。
「ああ、機械に関しちゃ部材とかはたまにコサックの連中が持ってくるね。この《北辺》で組み付けて、またコサックの連中がそれを買い取るわけ。結構前からそういう流れが出来ていた」
「それらの機械が、《南辺》や《西辺》に行き着くことは?」
「まあ、全くないとは言い切れないよね」
連はそれ以上は聞かなかった。先のように押し黙り、暗闇の一点を見据える。扈蝶も、もう他に何かを聞こうとはしなかった。
やがてトラックが停まり、幌がまくり上げられた。工藤が顔をのぞかせて一言告げる。
「着いたぞ」
目の前にある廃ビルは、廃墟というにはすこしばかり立派な気がした。《南辺》によくある土壁の建物は、だいたいがひび割れて崩落寸前に見えるのであるがこちらは比較的ましな方だ。壁には火がくすぶったあとがある程度で、そのまま商業施設としても使えそうな頑丈さはある。
ビルの前に見張りが立っていた。すでに話は通っているのか、見張りの男はすんなり扈蝶たちを通した。
中の方も、壁のつくりはしっかりしている。部屋と部屋を仕切る壁が、《南辺》では大抵が崩れているのだがここはしっかりと機能していている。各部屋をのぞいてみると、机が散乱していたり、中にはコンピューターがそのままになっているところもあった。戦争の被害をそれほど受けず、中の人間だけどこかにいなくなったかのようである。
扈蝶はその辺の部屋から誰かが飛び出してこないかと終始身構えながら歩いていた。連もやはり警戒している。工藤は特に気にすることなく先頭切って歩き、階段を昇ってゆく。
三階分昇った先に、鉄扉があった。その鉄扉に向かって工藤が声をかける。
「来てやったぞ、北東の獅子。ここをあけろ」
一時の間。やがて油の足りない音を盛大に鳴り響かせて扉が開いた。奥に鎮座している人物、そしてその人物を取り囲むように男たちが立っている。
「ここに来るんも久しぶりじゃないのかえ? 工藤」
中央の人物が声を開いた。ややしわがれた女の声。長いすに身体をあずけ、ゆったりとした韓服に身を包んでいる。周囲を屈強そうな男どもが固めている中で、大分場違いに見える。
「扈蝶さん、その……あの人が」
連が声を潜めて訊いてきた。
「あの人が、《北辺》の半分を支配しているのですか?」
連はやや驚いたような口調だった。扈蝶も、面と向かって会うのは初めてだったが、やはり目にしてみると異質な感じがした。
「別に女が上に立つなんて、まあ無くはないでしょう。あなただってレイチェル大人の例は見ているはず」
「それは、確かにそうですが」
ソファに横たわっている、四十半ばの女の姿を連は困惑気味な表情で眺めていた。事実、扈蝶自身も困惑していた。化粧を施し、こんな街には相応しくない着飾り方をしている。首元と手首に重そうなアクセサリをぶら下げて、どこで香を焚いているのかほのかに花の香りが漂っている。周りの取り巻きがいなければ、どこかの娼館にでも迷い込んでしまったのではないかと錯覚しそうである。
「ハン・スヨン。相変わらずだな。お前が好き勝手するのはいいけど、人んちの縄張りまで荒らしてくれるなよ」
「縄張り? へえ、そんなものがあった試しがあるのかねえ。それに、ちょっかい出したのはあんたのとこの若衆だろうに」
ハン・スヨンは卓上の灰盆を引き寄せ、キセルに火をつけた。キセルも、工藤のそれとは違う、象牙に金の細工をあしらった豪奢なもの。それがどれほどの価値があるのか分からないが、細工の見事さは素人目にも分かる。
その、キセルの先が扈蝶の方を向いた。同時に、ハン・スヨンの舐めるような視線も。扈蝶のことを上から下まで観察するようにじっくりと見るのだ。
「その子がうちのに手を出してくれたから、しなくてもいい戦をしちまったんだよ工藤。その子は《西辺》から来たとはいえ、今はあんたの身内なんだろう。身内の管理くらいはしっかりしてくれないと。そうだろう? チャン・ディオン」
スヨンの後ろでチャン・ディオンが刺すような視線をくれる。潰したはずの右腕は、今は何の問題もなく動いているように見えた。もっとも、隙間から刃を差し入れ配線を切っただけであるのだから、直すのにもそれほど労力はいらないだろう。
「チャンがあんたのところの身内を襲ったとかならともかくねえ。それにバオだって」
「いつからそんなに部下思いになったんかね」
「何を言ってんだい。自分の子が可愛くないわけないだろう?」
工藤の物言いにもスヨンはそう言ってのけた。いかにも白々しい物言いだと思った。
「まあ、いいさ。こうして手打ちに応じるって言うんなら」
ハン・スヨン、灰盆に灰を落とす。やおら扈蝶の方を向いた。
「早速その子を引き渡してもらおうか?」
ハン・スヨンが言うのに扈蝶は身構える。それを工藤が手で制した。事を荒立てるなということか。
「俺は応じるなんて言ってないが」
「いいじゃないか。どうせ《西辺》から逃げてきた負け犬だろう? 負け犬一匹、いなくなってもあんたの懐は痛まないだろう」
と、再び視線が扈蝶の方を向いた。今度は好奇の視線となっている。
「引き渡して、どうするんだ。こいつを殺すのか?」
「まさか。ちゃんと可愛がってあげるよ。うまくすればあたしのお気に入りにしてやる」
ハン・スヨンの舐め回すような視線が、より直接的になった気がする。品定めするように見、唇を舐める舌先が蛇のように小刻みに揺れている。
扈蝶の背筋にうすら寒いものが走った。
「どうにも無事にはすまなそうな言葉だな」
「なに、どうせならそこの二人も一緒に、でもいいけどね。聞けば、《南辺》から逃げてきたっていうじゃないか。そこの二人もあわせて三人、引き渡せばしばらくはあんたのところに手を出さないでやるけどね」
そう言ってハン・スヨンは梁と連を指し示した。チャムは思い切り嫌悪の視線を投げかけ、工藤は呆れたように嘆息した。
「相変わらず、男も女も見境ないなお前は」
「そんなことないさ。若くて、活きがよくて、顔が可愛くなきゃダメだよ。あんたの娘もその点は合格だけど、まああんたの子だから勘弁してあげる。そこの三人、まとめていいことしてあげるっていうんだから悪くないでしょう?」
ハン・スヨンの舌先が、紅を引いた唇をてらてらと光らせる。後ろの男どもが下卑た笑いを漏らしている。その笑い方で大体想像できるというもの――主が飽きれば、その”おこぼれ”にあずかるのはその手下ども、というわけだ。
「何かどうしようもなく、あの舌引っこ抜いてやりたくなったわ」
「いいアイディアですね。ついでに前歯の二、三本も折ってやれば完全に黙るはずですよ」
独り言のつもりだったが、連が反応した。
「落ち着け二人とも。まずは口を開かせる必要があるだろう、俺が顎を砕くまで待て」
と梁。表情は冷静さを保ってはいるものの、時折右拳を鳴らしたりしているあたりこの男もそれなりに苛立っているようだ。
「それで、バオはどこにいるんだい。取引するなら公平になるようにしないと」
「あいにくだけど、俺はあんたと取り引きするためにここに来たんじゃないんだ」
工藤の言葉にスヨンが表情をこわばらせる。
「じゃなんだい。その人数でかち込みに来たってわけ?」
「そうしたら《北辺》全部を巻き込んでの戦争になるがな、そういう場合でもない。俺はただお前さんに、事実を伝えに来ただけだ」
「事実ってなにさ」
スヨンが首を傾げる。後ろの取り巻き連中も同様に。
「もうすぐな、この北にマフィアが来るぞ」
次に工藤が発した言葉に、全員がざわついた。むろん、扈蝶と連も。チャムと梁だけは何故か冷静だった。
「何それ、どういうこと」
心なし、スヨンが身を乗り出して来たように思える。工藤はかまわず続けた。
「マハヴィル、あのインド人技師な。あいつから義足を買ったのが一月前のことだ」
義足、という言葉に連が反応する。
「私は許可した覚えはないけどね」
スヨンは気に入らなさそうにかみつく。
「そんなことは些細なことじゃない。で、その脚をな、《南辺》から来た朝鮮ヤクザの男にやったんだよ。ただみてえな値段で」
隣で連が、みるみる表情を堅くしてゆく。言われるまでもなく、扈蝶にもそれが誰のことか分かる。
「《南辺》の朝鮮ヤクザ……そういやそんなのがいたね」
スヨンも金の存在自体は知っていたらしい。《南辺》からの流れ者は相当に目立つのだろう。
「そいつに、マハヴィルが造った義足をやったのか?」
「砲台つきの車に乗っけてやってな」
初めて、スヨンが上体を起こした。キセルを灰盆にたたきつけ、そのせいでキセルの雁首が曲がった。
「ねえ、あんたとの取り決めでそういう勝手な行動はしないってことじゃなかったのかい?」
「ああ、そうなっていたな。南や西に下手な介入すりゃ、東に睨まれるのは必至。だからだよ」 「つまり……何? あんた、わざとマフィアに目を付けられるようなことをして、それでマフィアがこの《北辺》に来るとか抜かしているってわけ?」
スヨンの声に段々と棘がこもり、それに伴って後ろの連中が一気に剣呑な空気を醸してくる。スヨンが一声かければそのまま襲いかかってきそうなほどに。
「そういうことだからな、こんな街の隅っこで戦争なんかしている場合じゃねえぞ、ってそういうことを言いに」
工藤が言い終わらぬうち、スヨンがキセルを投げつけた。工藤は難なく避け、投げられたキセルが後ろのコンクリート壁に当たって跳ね返った。
「あんた、自分が何をしたのか分かってんのかい」
「何がだ」
「あの《東辺》の連中を焚きつけるようなものだろ、それは。何でそんなバカなまねをするのさ!」
後ろの連中が一気に扈蝶たちを取り囲んだ。手には刃物と銃を持って。扈蝶はシャシュカを抜こうとするがそれでも工藤は動かない。
「なあ、スヨン。俺たちはこんな街で斬った張ったやって、誰が一番かなんてくだらないこと競っているが……誰もあの連中には手を出そうとはしなかった。何でだ?」
「当たり前だろう。あんたみたいに、下手に突いてマフィアなんかと交えたら、あいつらに殺されるんだ。南や西の連中がそうなったようにね」
「確かに、西の『黄龍』は少しやりすぎた。だから粛正された。そういう見方もあるだろうな」
「あいつらに弓を引くってことは、そういうことだよ」
工藤とスヨンが話している合間に、チャムがさりげなく腰に手を伸ばした。右腰の拳銃をいつでも抜けるようにだ。扈蝶もまたシャシュカの柄に手を触れる。取り巻きどもが襲ってきてもすぐ対応出来るように。
「それって、あんまり面白くないことだとは思わねえか?」
工藤の言葉にスヨンが渋面をつくる。
「どういうこと?」
「つまり、ここで争っていたところで、どうせあいつらの手の中で踊っているにすぎない。井の中の一番争い、だれが天辺とったとしてもそいつは虚構だ。奴らが気にくわなければ、消される。だったら、あの連中を潰さなければ本当の意味での天辺はとれんだろう」
「だからってその頭を潰そうというの」
「一度くらい、そういう気にはなったことがあるだろう? ないんだとしたら、こんな《北辺》にとどまっている理由がよく分かるってもんだ」
工藤が挑発めいたことを言う度に扈蝶は肝を冷やさなければならなかった。下手なことを言うとその瞬間に銃弾が飛んでくるやもしれないと思うと。幸いにして取り巻きどもは、四人を取り囲んだまま動いてはいないけれども。
「それでも、わざわざ火種を撒く言い訳にはならないよ」
「どのみち奴ら、俺らを長く生かしてはおかないさ。外の商人とつきあっていると、色んな噂が入ってくる……国連の現トップが殺されたこととかもな」
「それがどうしたんだよ」
「俺たちがこんな街でやりあっている間に、状況ってのは変わってきているってことだ。それなのに、お前はここで縄張りがどうとか、小せえことを言うつもりか?」
スヨンは沈黙した。が、その沈黙も長くは続かず、チャンに目で合図した。
チャンが刀を抜こうとした瞬間、チャムが銃を抜いて突きつけた。
反射的に扈蝶、シャシュカと銃を同時に抜く。連が両手にナイフを取り、梁は釵を抜いて逆手に構える。
「考えなしってのは感心しないよね、チャン。あんたの兄弟はあたしらの手中にあるってこと忘れてない?」
銃口をぴたりとチャンの喉元につけ、チャムが言う。チャンは刀を半ばまで抜いた格好のまま固まってしまった。
「あの男、うちの土蔵にぶち込んであるんだよ。あたしらが帰ってこなければそのまま息の根止める算段だ」
「そんなこと……」
「良いんだ? でもさあ、スヨン姉さん。さっき同胞がどうとかって言ってたよね? 手下を見限ってあたしらやるってなら、たいそうな可愛がり方だ。あんたらも、よくこんな女についていけるよ」
チャムの指摘に、スヨンは視線を鋭くさせる。チャムをにらみながらも唇をかみしめていた。
「まあ、今後はどうするのが得策かよく考えてみるこったな」
一人平然として工藤が言う。ここまで肝が据わっていると感心するよりも呆れてしまう。
「俺としてはここでもめるより、一時休戦して、互いに協力しあって奴らに備えるってのも手だとは思うがな」
「……何であんたと協力を」
「別に、返事は今じゃなくてもいい。少し考えてみろよ。じゃあ、良い返答を待っているからな。俺たちはここで帰るからよ」
「馬鹿言うんじゃないよ。そうそう簡単に……」
「やりあってもいいが、あんたらも余計な怪我はしたくなかろう? ちなみに、この三人は機械とも一戦交えたことがあるらしいぜ。そんな右腕程度じゃ脅しにもならん」
確かに機械と戦ったのだが――扈蝶の場合は機械と交えて無様にも敗北をさらしている。連や梁だってまともにぶつかりあったわけでもないのに、工藤の言い方だと機械に勝ったことがあるかのように聞こえてしまう。もっとも、それが狙いなのだろう。少し男どもが怯んだ風になったのが分かった。
「もう、いい。直りな」
スヨンはひどく面白くないという顔をしながら取り巻きどもに構えを解くよう命じる。男たちは――特にチャンは渋々といったように、各の武器を引っ込め、下がる。それを受けてようやく扈蝶は銃を下し、シャシュカを納めた。
工藤は満足げにうなずいた。
「また来るぜ、そんときまでには決めておくことだな。手を組むのか、あくまで我を通すのか」
「……さっさと失せな」
スヨンは邪魔っけそうに手を振った。
「そうそう、帰りがけにマハヴィル爺のところに寄らせてもらうぜ」
工藤がそういうのにスヨンが向き直る。
「はあ? そんな勝手が通るわけないだろ。あいつはもううちの預かりなんだからよ」
「あの偏屈爺は、そうは思っていないだろうよ。まあ寄るだけだから気にするなって」
スヨンは嫌悪感をあらわに、しかし一言だけ
「早く行きなよ、くそったれ」
あとは言い返す気も失せたかのように、深いため息をついた。