第二章:6
閃光が咲き、次に何かが爆ぜる音がした。目が焼かれ、大音響が鼓膜を劈く。雪久の位置と自らの立ち位置を見失う。
目に飛び込む光と音に、省吾は見覚えがあった。
(閃光弾か!)
爆発音で聴覚を奪い、光で視覚を奪う。敵の感覚を麻痺させるのが閃光弾である。
熱風が頬を撫ぜる。焦げた臭いが鼻をつく。突然の衝撃に体がすくむ。
(くそ、こんなときに!)
離脱を試みるも、動けない。その場に座り込み、その状態のまま時間が過ぎた。
やがて光が――晴れた。
煙の向こうに、座り込む2つの影があった。
省吾と雪久。双方とも武器を落とし、座り込んでいる。
左目を押さえながら、雪久はユジンに怒鳴った。
「これはどういうことだ」
「そういうことだよ」
ユジンの代わりに答えたのは彰だった。
「2人とも熱くなり過ぎ。これじゃ死人が出るよ」
「彰……てめえ邪魔すんのか」
「いやね、間に割り込んだりしたらさすがにまずいと思ったんでさ、こうするよりほかなかったんだよ。これのテストも兼ねてね」
彰はメガネを「くいっ」と上げながら、微笑した。なぜか、省吾にはそのメガネが不自然に光ったように見えた。
「チョウもそこでのびたままだし、そろそろお開きにしようよ。お前の「眼」もそれがいいって言ってるよ」
「く……」
雪久の左目は、元の黒い瞳を取り戻していた。
閃光に千里眼が過敏に反応してしまったのだ。視神経から伝達される、過剰な信号は脳に影響を及ぼしかねない。よってそのような場合は自動的に機能を停止する。彰はそこをついたのだ。
目が利かない雪久は、そのまま黙り込んだ。
「さて」
彰は雪久の後ろに待機していた少年達に話しかけた。手にはいくつか円筒状の物体――それが光の正体であることを省吾は理解した。
「リーダーをお連れしろ。傷の手当もちゃんとしてやれ。ああ、くれぐれも取り扱いには気をつけろよ。ちゃんと檻にいれて首輪をつけねえと噛み付かれるぞ」
くつくつと笑う彰を尻目に、雪久は鉄パイプを杖に立ち上がった。ふらついている。
「あ、ダメだって立っちゃ」
「うるさい」
片足を引きずり、雪久は倉庫の奥へと消えていった。途中、何度も転んだがそのたびに駆け寄るメンバーに「手を出すな」と一喝した。
補給用倉庫のさらに奥の、小さな扉から雪久は出て行った。
「待って!」
一人暗がりに消えた雪久を、ユジンが追った。
「やれやれ」
雪久の後ろ姿を眺めながらため息をつく。
「手間かけさせやがって」
「って、こら待て。何だよあれ」
省吾は彰に向かって怒鳴った。床にへたり込みながらも精一杯睨みつける。
「あ、結構効いているみたいだね。テストは成功って訳だ」
「うるせえよ。人を勝手に実験台にすんな。っていうか誰だ貴様」
「ああ、自己紹介がまだだったか。俺は九路彰。君と同じ、日本人さ」
「あ?」
「で、今のは俺が作った閃光弾。心配しなくても、それほど強力じゃないから後遺症とかは残んないよ」
再びめがねを上げ、鼻にかかったような声でしゃべる。それがうっとおしくて仕方がなかった。
「野郎、俺をどうする気だ」
「なに、とって食やしないよ。新団員に手荒な真似はしないさ」
「いや、新団員って俺は入るとは……」
「まあまあ、ここで話すのもなんだし」
彰は隣に控えていたメンバーの少年2人に合図した。
省吾は両脇を少年達に抱え込まれた。
「何しやがる!」
「とりあえず救護室にお連れしろ。新入りの気合注入には十分すぎる傷だしね」
「馬鹿離せ! って何笑ってんだよてめえ!」
少年達に、引きずられるように連れて行かれる省吾。彰がにこやかに手を振っていた。