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監獄街  作者: 俊衛門
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第二章:5

省吾vs雪久 続きです。

 今度は、仕掛けたのは省吾の方だった。腰を落とし、剣を腰だめに構えて刺突せんとする。

「馬鹿めが!」

 その突きを、体を横に開いて避けた。省吾の背後に回りこむ。

 省吾はその動きを読んでいた。雪久が攻撃を仕掛けるより先に振りむき、首を刈る。

「無駄ぁ!」

 身をそらし、斬撃をかわす。だが、この一太刀は「誘い」だった。省吾の目的は別のところにあった。

 スッと膝を沈め、高速の剣捌きで雪久の脛を斬りつけたのだ。

 体の上と下を同時に攻められたことで、バランスを崩してしまった。右足を上げて斬撃を免れるも、片足立ちというなんとも不安定な状況を作り出してしまった。しかも、身をそらしたままだったのですぐには応戦できない。

 予想外の攻撃、それは心の隙を作る。その隙こそ、省吾が狙っていたものだった。

「せいやあ!」

 気合一閃、心臓に向かって諸手突きを放つ――

 鮮血が舞った。



 放たれた切っ先は、雪久の胸を突くことはなかった。

 間一髪、両腕を胸の前で交差させそれを防いだのだ。雪久の右腕に、脇差(ドス)の切っ先が突き刺さっていた。

 省吾それを引き抜き、刀を立て、八相の構えを作った。一気に打ち込もうとする。

 雪久、体勢を整え逃げる姿勢をつくる。

 だが、それすらも省吾の手の内。雪久は振り下ろされる刃に気をとられ、他の所の意識がおろそかになった。

 上に気をとられた雪久の金的を蹴り上げていた。雪久は右だけ白目をむきながら、よろめく。省吾は右上段に構えなおし、打ち込んだ。 

 赤い霧が、ぱっと散った。白刃をよけきることが出来ず、切っ先が雪久の右肩の肉をいだ。うめきながら、距離をとる。

「銃弾は」

 血を払いながら、省吾は言う。

「一直線にしか進まない。だが剣は縦横無尽に走る。その動きは複雑だ。パターンを読めばいいってもんじゃない」

 股と肩を不恰好に押さえ、しばらくその場で跳んでいた雪久だったがようやく回復した。

「ったく、危うくオカマになるところだったじゃねえか」

「そうなったらなったでゲテモノ相手に商売でも始めればよかろう」

「っざけんなよてめえ。同じ死ぬでもタマナシで墓に入ったりしたら、いい笑いものにならあ」

 再び左半身の姿勢をとる。

「いいぜ。こっからは殺し合いだ」

 

 大量出血する雪久を見て、ユジンは青ざめている。

「雪久、やめてよ! もう十分じゃない! これ以上やったら二人とも……」

「まだだ」

 省吾から目をはずすことなく、雪久は答える。

「こいつは俺を殺したがっている。いまやめてもすぐに殺しに来る。ならいま決着けりをつけておいたほうがいい」

「気遣い、感謝するよ。その方が手間が省ける」

 省吾は刀を、脇に構えた。

「そんな……」

 こうなったら雪久は止められない。自分の言うことなど聞かない。強引に止めようものなら仲間であろうとなにをするか分からない。そういう男なのだ。

 ユジンの肩に、彰が手を置いた。耳元でささやく。

「ユジン、兵隊を2、3人配備させろ。閃光弾の用意だ」

 

 雪久が走る。それにあわせるように省吾が逆袈裟斬りを繰り出した。

 雪久は飛び上がって空中で蹴りを放つ。

 省吾はそれを刀の柄で受けるも、衝撃によろめいた。が、持ち直す。

 白刃一閃、着地した雪久を斬るが、つかめない。

(くそ、またか!)

 背後から気配。振り向くと雪久がいた。

 刀を返す省吾より先に、雪久が攻撃を加える。

「しゃあ!」

 右拳を、省吾の喉に叩き込む。だがその拳は空を突いた。

 拳が届くより先に、省吾は体を転回させたのだ。独楽こまのように身を躍らせ、雪久の右側に回り込む。

 千里眼は左目に備わっている。その眼の範囲が及ばない、右脇が死角となっていると省吾は読んだ。

 そしてその読みは当たっていた。空振りした雪久に狼狽の色が見える。

 好機とばかりに刃を滑らせ首筋を狙う。

 紙一重で首をひねられ動脈を仕留めそこなった。雪久の首の皮が斬れ、また新しい血潮が噴出す。

 一瞬、背中合わせになったかと思うとまた死角に入り込み、両断に打ち込んだ。それを、なにか柔らかいもので受け止められた。

 雪久が持っていたもの、それはチームのジャケットだった。頭上に掲げ、刃を防いだのだ。

「丈夫な上着だな、それ」

 刀に力をこめるも、斬れない。

「超剛性繊維だ。刃も銃弾も通さねえ、まあボディーアーマーだな」

「聞いてねえよ」

 前蹴りを放ち、雪久を突き飛ばす。刀の間合いができた。上段に振りかざす。

「おまけに、こんなことも出来るぜ」

 雪久はジャケットの袖の部分を持ち、迫る刀に向かって振り回した。すると、赤い布が刃に絡みつき、省吾は刀を封じられた。

「な……」

「刀がなきゃなんもできまい!」

 あいている方の右腕で、省吾の顔を殴った。ジャケットに、布地より赤い血が染み付く。さらに首筋に手刀。水月に膝蹴り。ダメージが蓄積されていく。

「おらどうした? まだまだ暴れ足んねえよ!」

 右正拳。

 伸びてきたその拳を、左手で受け流す。そのまま手首を取り、ひねりあげた。雪久の手首は完全に極まり、骨が軋んだ。

「剣だけじゃねえよ」

 両手がふさがった状態になった。雪久の鼻に、頭突きを食らわす。整った顔がひしゃげる。

 二人が離れた。省吾はジャケットから刀を抜き、中段に構えた。一方の雪久は……

 そのまま一気に壁際まで下がった。


 壁に背をつける状態になった雪久は、すぐ傍で胡坐をかいていた少年から鉄パイプを奪い取った。

「貸せ!」

 強引にもぎ取り、左手に持った。

 それを振りかざし、突進。省吾も上段に振りかぶり、左面を打ち込む。


 鉄パイプと刀で切り結んだ。

 その場で両者打ちあった。二つの鉄塊がぶつかるたび火花が散り、二人の顔を照らす。

 10回ほど打った後、雪久は左手の鉄パイプを長く持ち、省吾の打ち込みに合わせて横一直線に薙いだ。すると……

 ぱきんっと小気味よい音がした。ふと気づくと、刀の柄を残し、刃が消えている。

 省吾の刀は、根元から折れていた。わざと打ち込ませて刀を脆くし、刃を横から叩いて折り取ったのだ。

(なんだよ、このナマクラめ!)

 後ろに下がる省吾の胴を、雪久は打った。

 鈍い音がして、鉄パイプが省吾の肋骨を砕いた。

「うぐ……」

 わき腹を押さえてうずくまった。先ほど打ち込まれた箇所だけあって、ダメージは倍に感じる。

「終わりだ!」

 天上より振り下ろされる鉄の戦慄。


――負けられない。先生を侮辱し、先生の死を汚したこの男を、許すわけにはいかない!


 鉄パイプが、省吾の頭蓋を砕く、かと思われたが。

 パイプは地面にあたり、コンクリの床を砕いた。人工石の破片が、舞う。

「な、に?」

 鉄パイプを鼻先ギリギリで見切ったのだ。

 省吾は起き上がる反動を利用し、刀の柄尻で雪久の顎をカチ上げる。

 倒れこむ雪久を尻目に、折れた刃先を探す。

――あった。

 省吾はそれを拾い、握った。刃が、指に食い込む。血が、流れる。だが今はそんなことにかまっている暇はない。

 中段に構え、雪久の喉めがけ刺突する。

 雪久が鉄パイプを省吾の脳天に振り下ろした。

 

 刃と鉄パイプが、交錯したその時。

 白い火の玉が2人の間に炸裂した。


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