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P10

 1月21日。晴れ。


 一々魔界歴4000年と書くのを止めた。流れで分かるじゃないか。インクだって高いんだ。少し節約したってバチは当たるまい。


 さて、今日は真面目に仕事をした。


 執行官の仕事は主に、魔王様の政務中出る書類群をしかるべき場所に送ったり、魔界議会の運営の事務的な部分を請け負ったり、法律を魔王様名義で公布したり、各地の有力者と会談したり、することだ。これだけなら文官―つまり軍務に携わることのない平和な官職―なのだが、そこは流石に魔界と言うべきか、私は同時に武官でもある。


 武官というのは、主に軍務に携わる官職だ。その中でも私はいわゆる直接戦闘担当というやつだ。具体的になにをするかといえば、大体文字通りの事をしていると言えばわかってもらえるだろうか?


 だが、最近は、というかここ10年ほど私が直接手を下すことは少ない。もちろん魔王様がそういう方向にならないように魔界の舵取りをしてくださっているのもあるが、それ以上に、魔界に平和が浸透していっているのだと私は思う。あのころは、斬って解決したこともあった。何度やっても慣れないが、そうする必要があった時代だった。


 だが、今はその時代がかえって懐かしい。もめ事が全て暴力で解決したワケだし。こんな―いや今日のは楽しみにしていたが―モノに一々付き合ってられるか。何で私が。魔王様以外のご機嫌とりなんか···。···。


 閑話休題。


 私が今日何をしていたか、は大体察してくれたと思うが、あえて言うと、―地方の権力者のパーティーに参加していた。


 魔界北部―、豊かな穀倉地帯が広がり魔界で流通する小麦の60%が売買されているここ、メリヒムで開かれたそれは、1000人規模の小さなものだった。


 メリヒムは魔王様にとっては縁ある場所らしく、毎年1月28日に開かれる厄除けの祭りには毎年参加しておられる。その際―魔王様が動く場合、警護だとかその他色々なことで面倒があるので今日は、根回しに来たと言うわけだ。


 もうすっかり知った顔の有角の町長に挨拶する。警護などに関する書類関係は既に送ってあるので、挨拶と少しの会話だけにするつもりだった。だが、この町長、実に話上手でついつい引き込まれてしまう。砕けて話し合える相手でもあった。共通の話題は少ないが、のんびり話していた。


 そんな風に話しいると、父さん、と呼ぶ声がした。その方向から誰か人の歩いてくる気配。―十代半ばの青年。あまり強くはなさそうだ―。


 っておい。私は一体何を考えている―?


「父さん、そろそろ時間だ。壇上に」

「もうそんな時間なのか。すまんのダンタリオン殿、暫く席をはずす無礼をお許し頂きたい」


 詫びる町長。別に気にしない。適当に返した所で、町長が思い出したように言った。


「おおそうじゃ、ダンタリオン殿。紹介がまだじゃったの。これは我が末の息子じゃ。―将来的には領主を任せようと思っておる」

「―お初にお目にかかります。テオドア=シュルツといいます。い」

「よろしくの」


 青年が次の台詞を言おうとした所で、町長がそれを遮る形で言った。そのまま彼は会釈して、会場の前の方へ行ってしまった。


 町長は時折こんな調子になるときがある。彼は良くも悪くもマイペースだ。私はもう慣れた。


 しかし、いつものこととはいえ···気まずい空気だよなぁ···。


 そのまま暫く固まっていた私たちは町長が演壇に立って色々話すときになってようやくその硬直がとけた。先に口を開いたのは青年だった。


「···申し訳ございません」

「気にしていない。ていうか謝るな。何時ものことだ。互いに慣れている」


 魔王城の中みたいで嫌だった。どうしてか私の回りには生真面目に謝る奴が多すぎる。そういう輩とは生真面目な話しか出来ない。これが結構辛い。私だって気楽に話し合える相手ぐらい欲しいのだ。―とりわけ、魔王城の外には。


 繰り返しになるがその相手の一人があの町長で、彼とは結構砕けた話し方をする。ここへはそれを楽しみにも来ている。できればこの青年とも同じような関係を持ちたかったので、そんな風に答えてみる。十二分に返しに困る言い方だけど、この程度を返せない人間なら―魔族なら、取り合う価値もない。というのは魔王様の持論だったか。


「···」


 お?困ったかな。それとも引かれたか、次の台詞を待っているのか。


「聞く以上に面白い方ですね貴女は」


 え。


「やはり気負わなくて正解でした」


 おい町長。一体何を伝えている。


 ―と、ここで私は、一気に主導権を握られた事に気がついた。


「改めて初めまして。テオドア=シュルツです。以後よろしくお願いします」

「ああ、サタナキア=ダンタリオンだ。よろしく頼む」


 そして差し出された手を私はぎこちなく握り返した。


 結果オーライだろうか。と、何となく考えていた。少なくとも軽く見られたられた訳ではあるまいと。―いきなり友達感覚というのも無理があるしな。テオドアの真意はわからないが、たぶん、友好的なんだろう。


 その後はまぁ、さして書くような、もとい、覚えるような会話はしなかった。町長とものんびり話して、のんびり宴を楽しんでから帰ってきた。仕事したという気分にはならなかったが、充実した日であった。


 また明日もこの調子でいけますように、っと。


 さて、お風呂入って寝よう。




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