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魔界暦4000年1月19日。雨。
どしゃ降りの大雨だった。こうなるとやはり一日部屋の中で過ごすのだが、やはり気がめいる。だが日記を書く意欲も湧いてくるものだ。
しかし今日したことといえば、魔王様の愛剣、デュランダルを磨いたことぐらいのものだ。神話級武装であるデュランダルは、持ち主がいる限り定期的に磨く必要がある。そうしないと魔素を吸収しなくなって錆びてしまうのだ。戦争が終わり、大半の武器は魔王様御自身が熔かされたとはいえ、これだけは熔かそうとなさらなかった。曰く、対勇者武器だから。大切に手入れしろよと。
地下の薄暗い武器倉庫…魔王様の私的空間ともなると流石に分厚い魔素が立ち込めていて、気を取られると一瞬で体ごと消されそうな雰囲気の中、私はデュランダルを磨いていた。実際これも使い魔などにはできない仕事だ。彼らの場合、入った次の瞬間にはそれこそ体ごと消し飛ばされてしまう。必然的にこれも私の仕事だった。
デュランダルは簡素な作りのロングソードだ。何の属性も有しておらず、ただ一つ、『両断する』という力のみを持っている。万物に切れぬもの無しといわれるほどだ。
さて、一時間程で磨き終えると今日の仕事はもうなくなってしまう。先日の書類はもう出したし、お昼はもう食べた。デュランダル磨きも今しがた終了した所だ。暇な午後をどう過ごそうか考えながら魔王城エントランスに戻ると、
「さーたにゃーん暇にゃ?」
何故かジョーカーのルナがいた。
彼女は台詞からも判るように猫妖精で以前魔王様に助けられた女の子の内の一人だ。その一件で余りにも高い魔力を継承してしまったため、それ以来魔王城で、ジョーカーなんかをやっている。
「ええまあ、先ほど仕事が終わってしまったので…」
「よかったにゃ魔王様からプレゼントにゃ」
ほい、と渡されたのは小さなシール。可愛らしいウサギ柄。
「封印用シールにゃ、日記に貼っておけだそうだにゃ」
「封印用…ですか」
うなずくルナ。
「きっとただの駄洒落だと思うにゃ」
その可能性は、かなり高い。
「ありがとうございます、魔王様には私から伝えておきますね」
「じゃールナはもういくにゃー」
手を振って駆けていくルナ。その時私は、彼女の頬が緩んでいるのを見逃さなかった。何か企んでいるな。絶対。まぁこのシールは裏に貼っておくとしよう。
今日はこの辺で。また明日いい日でありますように。