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エクステンデッド・ドリーム 《-Ⅲ- Loading Nightmare》  作者: 華野宮緋来
《LN編》第三章「捨てられない重荷」
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《E・D内部/クリム=鈴夜 湊;視点》⑩ ”情報屋”

遅くなって申し訳ありません。

《E・D内部/クリム=鈴夜 湊:視点》



「…………んで、なぜ部外者がこの場に居る?」



 世間に名高い騎士長の一人、ゼールベンは開口一番にそうこぼした。鋭い目付きで俺の方を睨んでくる。敵意、というよりは邪険の感情が濃い様に見えた。どうやら騎士団に所属していない存在の参加を疎ましく思っているらしい。

 仕方がない、と俺自身も黙りながら受け取る。

 ……変わらないな、こいつは。

 背中まで伸ばした黒髪。首元から足元までの細身を覆う夜空色のローブ。ゲーム等に出てくる『魔術師』のイメージがこの上なく当て嵌まる。加えて、冷淡ともとれる性格がその印象をより強くしていた。


「何を言ってんすか。クリムさんっすよ。断罪裂剣っすよ。全然部外者じゃないっす!」


 同席していた妖精――アイラが反論する。だが、ゼールベンも即座に言い返した。


「お前こそ戯言を抜かすな。こいつはもう騎士長どころか、団員ですらないんだぞ?」

「そんなカタイこと言うなって。どのみちクリムには助けを求める予定だったんだろ? 話が早くていいじゃねえか」


 今度は銀髪の美丈夫――マーディが口を挟んだ。しかし、ゼールベンは険しい表情を全く崩さない。


「協力を頼むのは作戦が決まった後だろう! それに! こいつは信頼できる人間じゃない。団体行動には全く向いていないタイプだ! 下手に情報を与えるのはマズイんだよ!」

「…………」


 騎士団を抜けようとした当時、俺は誰にも相談をしなかった。それどころか単独で悪夢に挑んだ経緯がある。疑いの目を向けられるのは当然だろう。


「お前も黙ってないで何か言え!」


 どうして責めている相手に意見を求めるんだよ……。

 こいつがここまで根に持っているとは思っていなかった。これなら参加しない方が良かったんじゃ…………。

 マーディからのメールで新たな悪夢の出現を知った後、俺は騎士団の本部があるミッテ・フォルトへ足を運んだ。そして、三人の騎士長が行う作戦会議に顔を出していた。本来ならば話し合いに加わるつもりはなかったが、マーディとアイラの手で強引に連れてこられたのだ。

 ――ゼールベンの言葉は大体が合っていた。訂正すべき部分も無いので、静かに聞き取っていたのだ。俺からは特に伝える事なんてないのだが……。


「すまない」

「あ?」

「とりあえず、すまない」

「…………っ……!」


 まず謝罪をしてみたのだが、逆効果となってしまった。魔術師を演じるアバターは頬を痙攣させ、瞳をピクピクと震わせている。かなり怒っている。


「まあまあ。見知らぬ顔じゃあるまいし、過去のことは水に流して仲良くやっていこうぜ!」


 元相棒が失言を取り繕ってくれた。「団長からの指示もあるだろ」とい言葉を添えて、ゼールベンを宥めていく。外見からして気難しさを体現した男は、小さな舌打ちと共に俺達へと向き直った。


「………………まあ、いい。お前も入れて話をすすめてやる」


 会議はようやく本題へと戻った。


「さて、改めて作戦について話し合おう。進行係は俺がやるぞ? てか、この中じゃできるのは俺しかいないけどな……。今回の目標は新しく確認された悪夢ナイトメアだ。こいつを一度でも撃破するのが、俺達の主な役目と考えていい」

「おう」

「了解っす!」


 …………ん?

 アイラとマーディの二人だけが返事をする中、俺一人は疑問を抱く。


「待て。質問がある」


 司会を務めるゼールベンヘ尋ねる。奴は一瞬だけ唇を歪ませてみせたが、すぐに応じてくれた。


「ちっ。さっそくか……何だ、言ってみろ」

「今度の作戦参加者は俺達四人……いや、騎士長三人だけなのか? 前の時はもっと大規模に動いていた筈だが」


 《消滅》能力を持った悪夢を追っていた際、アイラやマーディは数人の部下を引き連れていたと記憶している。他の騎士長も協力していただろう。見えない所まで考慮するなら、当時の参加人数は相当数に及ぶ。


「ああ、それには幾つか理由がある。ついでだから説明してやろう。まず初めにア」

「……自分の手で敵を討つためっす」


 ゼールベンの言葉を遮って、アイラが自ら語り始めた。


「クリムさんももう聞いたと思うっすが、最初にやられたのは自分の部下二人っす。売られた喧嘩を買うのが自分の流儀っす。ここで隊長の自分が立ち上がらなければ、亡くなったあいつらが浮かばれないっす!」

「殺すな殺すな」


 復讐心に文字通り燃えているアイラへ、マーディが的確な指摘を撃った。

 E・Dは明晰夢を応用した仮想世界に過ぎない。アバターが散っても、結局は夢の舞台から《退場》するだけだ。現実での《死》には当てはまらない。多少のペナルティは負うだろうが、翌日の《入場》時には簡単に復活する。


「更に付け加えると……悪夢の狙いも今の話が関係して来る」


 黒づくめの魔術師が補足の説明をする。


「これまでにこの地方で確認され、かつ撃破された悪夢は二人だ。そして、こいつらの行動は大まかにだが似ている。発現した能力を使い、個人的な目標を襲撃。その後に騎士団の追跡から身をひそめる、というものだ」


 常軌を逸した能力を手に入れたら、誰でもそうすんじゃないか?

 実際には四人目だが、俺はその悪夢に対して浅い考えを抱いた。しかし、ゼールベンが瞬く間に否定する。


「普通の奴ならこのパターンに落ち着くだろうが、三人目に限っては外れている可能性が高い」


 三本の指を立て、司会は俺の方を睨んだ。


「無響魔鉱は薄暗さと通路の狭さが特徴的なダンジョンだ。不足な事態に陥るユーザーも多い、そこで騎士団が定期的に巡回することがある」


 なるほど。

 言いたい事が段々と見えてきた。襲撃された場所に騎士が近付くのは誰にでも予想できていた。なおかつ、周囲の地形は潜むのに適している。不意打ちには最適な場所だろう。


「悪夢にやられた二人は、ダンジョン帰りのアバターから奥の方に残っていたアバターについて聞いたそうだ。それからそいつの安全を確認しに行ったが……」

「その正体が実は悪夢だった、という訳か」


 俺は閃いた推測を口にして、更に投下していった。


「……標的が最初に取った行動が、騎士への襲撃。前例の二人は追跡や妨害を経て騎士団と敵対していたが、今回の悪夢は違う。初めから、騎士団を狙っている」


 ゼールベンの首肯がその考えを後押しする。


「そうだ。騎士団を直接敵視している、というのが俺達の見解だ。アイラの言葉を借りると『喧嘩を売られた』状態になる。まったく、ふざけやがって……!」


 バン、と彼は机を強く叩いた。苛付きが感じ取れた。少し意外だった。俺と似て冷淡な性格だと思っていた。

 張り詰める空気。合間を縫って、朗らかな声が飛んだ。


「前回の奴とは違った危険度があんだよなぁ。大人数のローラー作戦で見つけ出すのもいいけどさぁ、ほら、外聞ってのが色々とデカいんだ」


 悪夢の目論見に続き、マーディが騎士団の状況を語ろうとする。


「むこうは《レクイエム》系のスキルを使うらしい。それでいて騎士が狙いだ。こういっちゃ悪いが、並の奴じゃ勝ち目はまずないだろう」

「だから、少数精鋭で挑むのか?」

「お? 話がはえーな。下手な敗北は騎士団の面目を潰しちまうからな。そこで腕が立つ奴ら……まあ、騎士長を数人がかりで動かすことになったんだ」

「…………」


 そういう事か。

 大体の事情は飲み込めた。どうやら、この組織は微妙な立ち位置を強いられている様だ。騎士団を狙ってくる悪夢を早期に撃破したいが、失敗はあまり望ましくない。そこで数人の騎士長を戦力としてあてがったらしい。


「これで一通りの説明は終わったな。騎士団の現状は今の話が全てだ。そして、これからは悪夢を追う上での方針を決めなきゃならない」


 ゼールベンが話の概要を会議に置き換えていく。まずは円卓を挟んで向かい合っている俺達を流し見た。最後に俺の所で止まったが、すぐに視線を正面に治す。


「手始めに挙がる問題として……悪夢に関する情報が少な過ぎる。判明しているのは『槍の武具使用者』『少し高めの背丈』『悪夢としての能力』の三つぐらいだな」

「…………っ」


 身長については初めて耳にした。俺の中にある犯人像が、ますます既知のアバターに似通っていく。詳細を問い詰めたいが、何とか堪えた。


「色々と探りたいところだが……悪夢が暴れたのは無響魔鉱での一件のみだ。さっき言った以外の情報は信憑性にかけてしまう」


 大多数のダンジョンはユーザーの出入りが管理されていない。誰でも訪れる事が可能なのだ。出現した所を基準にして悪夢を特定するのは難しいだろう。


「ゼールベン、やられた奴らが直前に会ったアバターはどうだ?」

「そっちもとっくに考えたさ、マーディ。だがな、その目撃者が来ていた服はどこの町でも売っている物だと調べがついている。冒険者仕様っていうのか? とにかくありふれた格好だったらしい。アバターの種類も不明。しかも、中性的な容姿で男か女かも分かってない」

「それじゃあ……その人を見つけるのは無理っぽいすね。…………服装なんてその日の気分で変える人もいるっすから」


 珍しくアイラから女の子らしい意見が出た。確かに一理ある。しかし、こいつ自身が身に着けている物を変えている所を見た事は無かった。


「……調査も特定も俺達だけでは困難。そこで、だ」


 沈みかけていた雰囲気。一層の張りを帯びたゼールベンの声音が良く響く。



「情報屋を使う」




*****



「――情報屋って言うのは、まあ、名前の通りだな。レアアイテムの入手方法から有名ユーザーのプライバシーにまで精通してる。とにかく物知りな奴だ」

「へえー。そんな人がいたっすか」


 アイラは現騎士長の中では一番の新入りだ。マーディが教えている話の殆どは初めて聞いたものだろう。


「知らなくて当然だ。頼ることはめったにないからな。大金じゃなきゃ動いてくれねえし、違法スレスレな行為もやってるらしい。騎士団の立場からすれば、あんまり接点は持ちたねえ奴なんだよ」

「それでも、今は奴に頼るしかない」


 先頭を行くゼールベンが小さくこぼした。

 騎士団本部ミッテ・フォルトに隣接する街中のとある狭い路地裏。直線上に並んだ俺達が進んでいたのは、一人通るのがやっとな程に狭い道だった。路上に落ちる影からは不穏さを煽られる。しかも用途不明な木箱などが置いてあるので歩き難い。以前に来た事があったのだが、ダンジョン並みの不快さは全く変わっていなかった。


「……着いたぞ。ここが、『情報屋』が現れる酒場だ」


 立ち止まった彼に合わせて、視線を上げる。痛んだ外装と店名が入っていない看板が目に飛び込んできた。店頭を照らす淡い赤紫の光が面妖な印象を与えてくる。


「ボロイ建物っすね。何だかバーぽいっす。……趣味が悪くないっすか?」

「おおむね同意だが、店内でそれを口に出すなよ? アイラ」


 無邪気な妖精を戒めつつ、ゼールベンが扉に手を伸ばす。ギィ……、とそれは呆気なく開いた。

 前の三人が次々と入っていく。俺も後を追って店の中に足を踏み入れた。

 扉を掻い潜った瞬間。見えないざわめきに覆われた気がした。客は数人しかいなかったのだが、店主含めた大半のアバターが俺達に注目している様だ。やはり騎士長クラスは知れ渡っているのだろう。容姿が整ったマーディ、店の空気にそぐわない少女のアイラ。客観的に考えても目立つと分かった。


「さて、情報屋はどこだ?」


 ゼールベンが店内を見渡す。


「いつもは端の方で座って飲んでるからな。えーと……」


 元相棒のマーディも情報屋を探した。前回はこいつと共にあの男に会っていた。ただ黙っているだけも何なので、俺も一緒になって探す。


「あそこだ」


 そして発見した。入口から死角になりやすい席に目的のアバターは座っていた。テーブル席を一人で占領している。大小の酒瓶が幾つもの山を作っていた。

 飲みすぎだろ。おっさんになりきってる……。


「……あ? 何だよ、おい」


 俺達の足音に反応したのか、こちらへと振り向いた。顔が真っ赤に染まっている。この世界での酒は味を再現していても、アルコールまでは含まれていない筈だ。しかし、酩酊具合は迫真に迫っている。


「騒がしいと思ったら、騎士長が三人も。……しかも」


 焦点が不確かな瞳は俺を真っ直ぐに眺めた。


「断罪裂剣までいるとはなぁ」


 にたにたと笑みを漏らす。情報屋と呼ばれるアバターの外見は、いわゆる初老に差し掛かった男性のものだった。顔の造形も日本人に近い。現実で見かけてもおかしくはない姿だった。

 男が片手に持っていたグラスをテーブルに置く。ゴトン、とわざとらしい程の音量が鳴った。


「要件は、アレ、だろう?」


 白髪交じりの髪を撫で、情報屋は椅子の背もたれにふんぞり返った。まだ誰も何も口にしはいない。故に、この男の情報網が予想を超えた評価を帯びる。



「――先日に現れた悪夢について――」



 まだ対面していない敵。

 その背中に少しずつ追い付いていくのを、俺は確かに感じた。


予定にない新キャラを出してしまった。どうしよう……。

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