《E・D内部/ルーク=東雲 和真:視点》② ”レクイエム”
最新話。ルーク(悪夢状態)vs騎士団二人組。決着します。
俺を容易く飲み込む円柱の影は、一瞬にして塵と化した。破砕の音が空中で唸る。スキルの威力は、唱えられた魔法を遥かに上回っていた。《ストーンハンマー》が跡形もなく小石へ還った後も、逆流する光の雨は止まなかった。
「やっべ……! 超上級のスキルだ!」
「落ち着けって、デュラン。あれだけの破壊力だ。リロード時間も相当かかるハズだ!」
魔法使用者が、前方で慌てる二刀流の騎士を宥めた。やっぱり、この程度じゃ戦意を落とさないか。
「そう、だな……! よっしゃ! 次はパターンEで行くぞ!」
切り替えが早い。
これぐらいのスキルは見慣れているのだろうか。だったら、もっと……。
《Dレクイエム・ブロウ》ロード、設置。
求めた力に値するスキルが、脳裏で勝手に閃いた。物騒な名前だ。だが、それだけ強力なのだろう。
……まだ、足りない。
《リロード短縮Lv1》、《スキル連続発動Lv1》、《ディアシールド》ロード、そしてスロットへ設置。
少しずつ要領を掴めてきた。力が増していくのを実感する。槍を中心に活力が奮い立っていた。
ゴゥン、ゴゥン、ゴゥン!
同じ音が続いた。頭の中から視界の外へと注意を移す。屹立する石の壁に、三方向から睨み付けられていた。
動きが制限されてしまった。その悟りと入れ替わって、二刀流の騎士が俺の傍へと踏み込んでいた。
「《スウィンスラッシュ》!」
高速の斬撃が放たれる。スキル名を耳にしてから後ろに引いたが、胴体の部分が真横に裂かれる。大丈夫だ、浅い。
その安心を裏切って、もう片方の剣が振るわれた。ザシュ、と斜めに刃が走る。切り払われた部分の影が飛び散る。
「もう一撃!」
二刀流の騎士が大声を上げる。
恐らく、連続発動に特化したスキルなのだろう。二本用いているので、連携の合間はもはやゼロ秒に等しかった。
間に合え。――《ディアシールド》展開。
念じた、直後。
半透明の白い円盤が俺の前に姿を現した。赤、青、緑の輝きを順に持つ三重の円環が、内側の模様として刻まれている。
発動したスキルは斬撃系のスキルを簡単に弾いた。甲高い金属音が鳴り響く。
「三つの輪――最上級のスキルかっ!?」
驚く騎士を余所に、脇を閉めて狙いをしっかりと定めていった。先程のスキルには大分劣るが、幾らかの範囲を狙う連発用スキルを発動させた。光る粒子を武器に散りばめ、攻撃判定の箇所を拡張した《カレイドストライク》。七発まで効力は維持される。
「アぁああアアあっ!」
「パタ、……こんの、野郎!」
俺が負ったダメージを丸ごと返すつもりで撃ち出した。だが、六回の刺突までが全て両手の剣によっていなされる。
七発、目!
――――シャン。
散りばめられた光の粒が綺麗な音色を誘い出す。万華鏡に似た景色が目の前で再現されていた。
複雑に絡まった輝きの中心へ、渾身の一撃を紛れ込ませる。防がれても構わない。このスキルは最後の一発が終わると、漂っていたエフェクトが弾けて、相手にダメージを与えるのだ。
「《リジェクト・エッジ》!」
小さな振動と粗い砂嵐が、男の剣を片方だけ覆った。そして、その刀身が俺の一撃を防いでしまう。
無駄だ、もう…………っ!?
不気味な静寂だけが俺と騎士の間に残る。技は完全に使い切った。なのに、ラストの爆発が起きようとしない。
「リジェクト――《拒絶》だ。どんな攻撃だろうと、効果がある限り強制的に掻き消す!」
騎士がしたり顔を浮かべる。強者、という言葉が頭を駆け巡った。
「パターンE! 俺ごと狙え!」
間もなくして《ストーンショット》の叫びが狭いダンジョン内に響き渡る。
男を挟んだ向こう側にある地面を、点々とした影が遮った。頭上を仰ぐ。三十は超える小石の大群をそこに見た。
「あばよ!」
俺を置き去りにして騎士が去っていく。
さっきの一撃に全力を込め過ぎた。姿勢がすぐに戻らない。支えにしていた剣が無くなったのも大きい。
「――ァ」
《ムールバリア》、その後に《ゼア・スラストX》発動!
スキルの恩恵が、即座に身体を覆いつくす。そして視点を上に傾けたまま、必死に後退していく。これから短い距離での高速移動が、数回に分けて発生される。
初めの加速が始まり、すぐに終わった。地面に足が付く。二度目、三度目に続いて引っ張られる。
幾つかの石は避けられないが、ここまで来れば何とか耐え切れ――。
「《イグニテンス・ブレイバー》!!」
「ッ!?」
橙色に輝く明光が俺を追って来ていた。片腕を胸の前に固める。
これは、斬撃波、だ。
あの男が体勢を崩しながらも、スキルを発動させたのだ。単純な動作だけで反応する技も多い。けれども、回避と追撃を間髪入れずにやってのける技量には、驚愕しか覚えなかった。
――くそっ!
斜め上と正面から衝撃が迫る。俺は身体を縮め、防御に専念した。
耳をつんざく爆音が生じる。影と瞼で守られた瞳にまで閃光が差し込む。痛みは感じないが、強烈な振動が一方的な不快に転じていく。
「……今のはパターンEじゃなかったのか、デュラン」
「やれそうだったから、つい」
「まあ、構わないんだが。今ので削り切ってしまったんじゃないか? 正当防衛……認められるか?」
「そん時はそん時だ、ウィルガ」
……………………いって。
《自動回復Lv2》、《自動回復Lv3》、《部位欠損回復Lv1》ロード、スロットへ設置後に発動。
《Dレクイエム・ブロウ》、発動。
言って、くれるな……。
十パーセントを切った損傷率の表示が警告を鳴らしている。だが、数秒後には鳴り止んだ。数値が段々と上がっている為だ。
攻撃の余波で舞っていた土煙が晴れていく。
「――おいおい、マジかよ。俺の最大攻撃だったんだぞ……」
「バリア系のスキルも使っていたらしいな。スラスト系で逃げる前に、全身が靄のエフェクトで覆われていた」
未だに立っている俺を発見して、彼等が会話を交わす。
「…………ぁ」
流石にダメージは大きかった。数値上の問題は消えたが、精神的にきつい。息をするのにも一苦労だった。
呼吸を整えている内に、レベルを上げた回復スキルに加え、失われた部位も回復の兆候を見せた。断面から元の腕が少しずつ生えていく。
「回復系スキルまで持っているのか……。自動型ってめっちゃレアなスキルじゃん」
そろそろ奥の手、《Dレクイエム・ブロウ》のチャージが終わるだろう。このスキルは字面を読んだだけで寒気がした。でも、これを振るう事に不思議と高揚感も抱いていた。まるで珍しい玩具を自慢する気分だ。
リィィ――ン!
槍から澄んだ音色が聞こえた。そして、寂しげなメロディに囲まれていく。視覚の上でも変化はあった。暗闇をちぎったみたいな雪の綿が、表面からどんどん溢れ出している。相反して明るく照らされている足元が、酷く不気味だった。
「ちょっと、待て……! あれって、レクイエムか!? アバターが使えるなんて聞いたことねえぞっ!!」
「――――ヤバイ」
「分かってる、ウィルガ! くそ! パターンEだ! キャンセルさせろっ!」
「――無理だ。俺達じゃ勝てない」
魔法使いの男は既に諦めていた。相棒であろう男は詰る様に叫ぶ。
「はぁ!? 諦めんなよ! あれがレクイエムなら、まだ発動までに時間が」
「そうじゃない!」
どうやら気付かれたらしい。俺がさっきからやっている事に。そのシステムを超越した利点に。
「八つ目なんだ! 使っているスキルの数が、スロット制限をオーバーしているっ!!」
「……は……?」
初めに使ったのが《ブーストストライク》、次に《サウザンド・レイ・ストライク》だった。三個目は防御用の《ディアシールド》であり、四個目は元から備えていた《カレイドストライク》。そして、後退時に《ムールバリア》と《ゼア・スラストX》を発動させた。最後の七個目には《部位欠損回復》が数えられるだろう。
では、《Dレクイエム・ブロウ》は何なのか。
言える答えは簡単だった。力技に等しい、全ユーザーを馬鹿にした様な方法で俺はこれを手に入れている。
「七個以上のスロット設置! それがあの悪夢の能力だ! しかも、E・D上に存在するヤツは全て使えるんだっ!」
最上級の《ディアシールド》に、騎士が見ただけで怯む《Dレクイエム・ブロウ》。これらは特に手に入りにくいスキルだろう。それを、俺はぼんやりと求めただけで会得していたのだ。
手応えからしてアビリティも自由に設置可能だった。この能力を使っていけば、俺はE・Dにある全ての力が使える。もはやチートの域にある。無敵と呼ばれてもおかしくはない。
「あぁァアアあああッ!」
――手こずったが、これであんた達は終わりだ。
幻想的な、黒い灯を纏う槍を、俺は勢い良く振りかざした。破壊を呼び込むメロディが奏でられる。寂しい曲だった。だが、葬送曲としては丁度良い。くたばれ。お前達が、悪いんだ。
視覚を含め、あらゆる感覚が闇に呑まれる。
光も、音も、熱も、匂いも、振動も、虚無が支配していった。鉱山を模倣したダンジョンの風景が闇の向こうへと消えてしまう。何も分からなくなった。俺は、だからこそ、俺はこの戦いの終幕を強く予感する。
「…………」
ある瞬間を境にして、目の前が鮮明になった。
…………凄まじい、スキルだな。
破壊の痕跡を見て驚嘆する。自分がやった事だと認めるには時間がかかった。何しろ、視界を埋めていたダンジョンの壁が殆ど消滅しているのだ。微かになびく煙と風が広さを実感させる。
強力過ぎる……。しかも、リロード時間がおかしい。残りが七十二時間ほどある。このゲージ、本当に減りきるのか?
「……ァ」
これを再び使うには、最低でも九日間以上のログインを経なければならない。それまでに身を隠すべきだろう。
正面を確かめると、すっかり変わってしまった地形が視界に飛び込んできた。原型を留めていない。ごつごつとしていた地面すら綺麗に抉れている。外から差し込む光もより増えていた。ダンジョンごと壊してしまったのではないか、と不安になる。
――まずはここを出よう……。
酷く疲れた。いつもの通り遠い場所へと一気に移動出来れば、どんなに楽か……。
「《ストライクリーパー》!」
「!」
今にも消え入りそうな声を耳が捉えた。
低い位置に溜まった土煙から、あの二刀流の騎士が飛び出してくる。突然の攻撃に反応が遅れてしまう。まだ生きていたのか。
加速によって奔る剣先。その鋭利な頂点に、俺は目が釘付けになった。彼がしがみついている敵意は直進し、やがて俺の目と鼻の先を裂いた。だが、切っ先はそこでピタリと止まってしまう。
「…………くそが……。また、かよ」
小さな罵倒を漏らす彼の半身は、首から上を残して丸ごと削れていた。損傷率が百を超えた際の退場エフェクトも発生している。レクイエムと呼ばれるスキルによって瀕死になっていたらしい。
バタン、と男は倒れる。一本の足だけでは立てなかったのだ。今の奇襲もスキルの支援があって成り立ったのだろう。
「ぁあァアアあ」
勝った。完全に、俺の勝ちだ。
うつ伏せになった敗者を前に、じわじわと湧き上がる余韻を感じる。最後の一撃は危なかったが、それが届いたとしても俺は倒せなかった筈だ。
ストーンウォールで直撃を免れたのか。だから全損には――――待て。
もう一人はどこだ?
あっちは退場したのか? それとも、不意打ちが交わされた隙に遠くへと……。
影色の槍を持ち上げ、土煙の中心を見据える。《サウザンド・レイ・ストライク》を発動させ、放射される閃光で障害を吹き飛ばした。目を凝らす。あの魔法使いの姿は発見出来なかった。
「は、はは……は」
スキルを空振りさせた俺を、二刀流の騎士が笑った。
「悪夢…………お前の能力は強い。だけど」
それを負け惜しみと切り捨てるのは簡単じゃなかった。何もせずとも光になって消えてしまいそうな男の言葉は、悪寒を感じさせる程の重みを秘めていた。
「お前は、断罪裂剣には勝てない」
ズシャ。
気付いた時には男の背中に槍が刺さっていた。俺が突いたらしい。完全に無自覚だったので、しばらく呆然としてしまう。
やがて騎士の身体が一斉にデータの粒子へと変換されていく。止めを刺したのは間違いなく俺だ。犯罪証明書の判定はもう免れない。
「あァああぁあああアアああ!!」
雄叫びが喉の奥から駆け上がっていく。騎士団に手を出してしまった。快適な夢は二度と戻ってこない。
その事実を直視するのが怖くて、俺は声が枯れるまで叫び続けた。
――断罪、裂剣。
騎士団最強の騎士。そいつを、どうにかしなければ…………。
次は現実世界の話を書こうと思います。




